第10話 帰還
プレートアーマーに赤いタスキを掛けたリーダー格と思われる男性が話しかけてくる。プレートヘルム表情は読めないが、かなり驚いているようだ。
他の隊員は本当にドラゴンが力尽きているかの確認をしている。
「なるほど、エルナちゃんが焦って助けを呼びに来たがその心配は無いみたいだったな。ミズキ。」
何故この人は私の名前を知っているのだろう。エルナさんが伝えたのかな。
「何故私の名前を知ってるのですか?」
「何故って?ああ、そうか。」
納得と言ったふうにプレートヘルムのベルトを外す。そして顕になった顔は一度見た事ある顔だった。
「アルさん!?」
「おうよ。まさかドラゴンを倒しちまうなんてな。その剣を引き抜いただけある。強いな、お前は。」
ニカッと破顔してポンポンと私の肩を叩く。
「隊長!」
「おっ、確認が終わったみたいだな。ちょっと待っててくれ。」
一言残すとアルさんは倒したドラゴンの元へと駆け出して行った。それを見届けると突然背中に衝撃。
「ぐふっ……!」
肺の息が強制的に外へと叩き出される。衝撃の原因を探るべく、背中側に視線をやるとエルナさんが私に抱きついていた。
「ミズキさん……良かった……」
「エルナさん……」
「やられちゃうんじゃないかって思った……ミズキさんまでいなくなったら私……」
そうか、エルナさんは一度仲間を失っている。私が逃げて、と言った時、不安で仕方が無かっただろう。
でも私はこの世界で後悔のないように必死で生きてみせる。向こうの世界に一人にしてしまったしまったあの子の為にも。
「エルナさん。大丈夫。」
エルナさんの方を向いて私よりも華奢な体を抱きしめる。
「み、ミズキさん!?」
「私は絶対に居なくならないから。心配かけてごめんね。」
▼△▼△
「ドラゴンの討伐の確認が出来た。この亡骸をギルドに持っていこうと思うんだが、いいか?」
「はい。私は構いませんが、あの……代金とかは?」
「そんなもん要らん。寧ろ街の不安要素を取り除いてくれたんだ。逆に報酬を与えないとな。」
不安要素……あのドラゴン。相当厄介な生き物だったのかな。私にはそうは思えなかったけど。
「それじゃあ、立会人として着いてきてもらおうか。おい。」
アルさんが指示を出すと、他の兵士が手に填めていた篭手を一撫でする。するとさっきエルナさんが展開したような魔法陣が出現。
その中からは大きな木製の荷車が現れて地面へと鎮座した。こんな大きなものまで収納出来るんだ。なんか凄いな。やっぱり私も魔法を使いたい。
しかし、ドラゴンの体はどうするのだろう。十人ほどでドラゴンの重量を持ち上げるなんて無理だよね。予想した通り兵士たちはドラゴンの体を移動させるのに苦労している。
───あ、そうだ。
「アルさん。ちょっといいですか。」
そう言い、私はドラゴンの体の下に手を差し入れた。
「おいおい、流石に一人じゃ無理じゃないか?」
アルさんがさすがに止めようと私に近寄ってくる。少し力を入れて持ち上げてみようとするとドラゴンの体が僅かだが、地面から離れた。
「危ないんで離れてて下さい。」
「お、おう。」
戸惑った顔で私から離れるアルさん。他の兵士たちも離れたことを確認すると、そっとドラゴンの体を持ち上げた。
「な、なんだと!?」
持ち上げたまま荷車まで移動させてその前で立ち止まった。荷車のすぐそこに居た兵士に問いかける。
「場所、ここで大丈夫ですか?」
「は、はい。」
呆然と私のことを見つめる兵士たち。その視線を気にしないように荷車にドラゴンの体を横たえた。
「どうなってるんだ!?お前は一体……」
「私のスキルです。怪力。」
「怪力か……道理で。しかし、俺の知ってる怪力はミズキ程重いものは持てないはずなんだがな。」
「え、そうなんですか?」
「ああ。持ててもせいぜい一トンとかなんだ。このドラゴンはどう見ても五トン以上はある。」
「なんででしょうか……」
ドラゴンを倒したように両手を見つめてしまう。やっぱり現実世界のものとは違いなく、私のいつも通りの手だ。
「ははっ!そんな顔をするな。その剣を抜けた時点でお前のことは規格外だって思ってたからな。さあ、街に帰るぞ。」
▼△▼△
私たちはドラゴンの体を輸送しながら街へと帰還した。街にいた人々は歓声を上げて私たちを迎えてくれている。
中には私たちのことを英雄だと呼んでいる声も聞こえた。なんだかむず痒い。
「これでミズキも英雄扱いだな。俺も鼻が高い。」
「いえ、私は何も……」
「謙遜するな。ドラゴンを倒したんだ。立派な英雄さ。恩賞に期待しておくんだな。」
アルさんはギルドの裏口の扉を開ける。そこには格納庫のような場所があり、色々な器材が置いてあった。
もしかしたらモンスターを解体する場所なのかな。
「ミズキくんおかえり〜!」
突然奥の方から人が走ってきて私に抱きついた。胸の辺りには柔らかい感触が。
「は、ハイダさん!?」
「凄いね〜!ドラゴンをやっつけちゃうなんて!」
少し興奮気味に、そして嬉しそうに私の顔を見上げるハイダさん。
「ちょ、ちょっとハイダさん!私もいるんですけど!」
完全に蚊帳の外だったエルナさんが抗議する。
「あらあら、ごめんね!おかえり、エルナちゃん。」
エルナさんの頭をゆっくりと撫でるハイダさん。その感触にエルナさんは目を細めて気持ちよさそう。
「と言っても私、何も出来ませんでした……ミズキさんに守られてばっかりで、これじゃただの足でまといです。」
「エルナちゃん……」
心配そうにエルナさんの顔を見つめるハイダさん。違う、私は足でまといだなんて思っていない。寧ろ感謝でいっぱいだ。
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