第9話 ドラゴンとご対面

不安そう顔なと驚きの顔を掛け合わせたような表情を見せるエルナさん。



「ここまで静かな場所だったら少しの音の変化が何となくわかるような気がして……遠くで何かが吠えているような……」


「まさか……ドラゴン?」




フラグを立てるようなことを言うエルナさん。やめて……私も嫌な予感がする。



そんな予想を裏切ることなくズウンズウンと巨大な何かが近づいてくるような音が段々近づいてきて、



……エルナさんの真後ろまで既にやって来ていた。



青の鱗で覆われた体表に鋭い牙がびっしりと並んだ顎。そして極めつけにはなんでも斬り裂いてまいそうな鋭い爪。殺意を剥き出しにした魔獣が宝玉の様な透き通った瞳でエルナさんを狙っていた。




「エルナさんっ!」




思わず、エルナさんを突き飛ばしてとドラゴンの間に割り込む。ドラゴンはというと、容赦なく私に鋭い爪を振り下ろしてきていた。



咄嗟に刀を抜いて爪を受け止める。私の実力で正直な所ドラゴンを相手するなんて無理なことは百も承知だ。例えて言うならばレベル1の戦士がボスを倒しに行くようなもの。負け確定のイベントみたいだな。



ドラゴンの力がどのくらいなのか正直な予想もつかない。攻撃を受け止めた私が真後ろに吹き飛ぶ、そんな姿を頭の中で想像したぐらい。しかし、私の体は一切微動だにすることなくドラゴンの攻撃を受けきった。



寧ろ……ドラゴンの爪に微細なヒビが入っているのが確認出来る。これなら爪を破壊することだってできるはず。私は両腕に力を込めながら、一歩前へと地面を踏み鳴らすような勢いで踏み込んだ。


するとドラゴンの巨体が後ろにズレて後ろへとバランスを崩す。その勢いと同時に強固な爪が完全に破壊され、ドラゴンが少々情けない悲鳴を上げる。



「ミズキさん……どうして……」


「わからない。でもこのまま逃げるなんて出来なさそうだよね……」



背後をチラリと確認する。洞窟の出口までは目視することが出来ず、このまま明かりが不安定なまま突っ切ることはまず不可能か……かくなる上は。



「私が時間を稼ぐからエルナさんは洞窟から脱出して。」


「で、でも!初心者なのに危ないよ!」


「大丈夫。共倒れするよりは百倍マシだし、それに……なんか負ける気がしないんだよね。」



カチャリと小さな音を立てながら刀を構え直す。視線をドラゴンへと移すと、既にドラゴンは体勢を立て直していて今にも飛びかかってきそうだ。



「エルナさん!早く!」


「分かった!救援を呼んでくるからそれまで絶対にやられないでね!」



背後でエルナさんが駆け出す音を聞き届けて私はドラゴンに集中する。


今現在ドラゴンに残された攻撃手段は左手の爪と牙、あとはブレスと尻尾かな。爪と牙の予備動作なら何となく分かるかも知れないけど、ブレスと尻尾がかなり厄介。


同時に攻撃されたならば、どちらかに気を取られてしまって防御が疎かになってしまいそう。ならば、先手必勝。ここで無理にでも倒してみせる。


地面を蹴ってできるだけ加速。ドラゴンの大きさは五メートル強と言ったところか。この大きさならば懐に入れば私に攻撃を加えることは不可能だろう。


ドラゴンが私に気がついて左手を振り上げた。幾分か動きが緩慢に見えるそれをスレスレで回避して懐へと潜り込むことに成功した。


さて、ここからどうする。考えている余裕はあまりない。ドラゴンが次の行動を起こす前に勝負を決めるしか方法は無いはずだ。


思い切って刀を真下から首に向かって振り上げる。首を一刀両断すれば、いくらドラゴンとは言えども生命を維持することは出来ないだろう。


刃がドラゴンの首に命中するその瞬間、ドラゴンと一瞬目があったような気がしたけど気の所為だろうか。刃がそのまま吸い込まれて一秒も立たない間に首が胴体から分断された。


頭上からドラゴンの頭部が落下してくる。死してもなお、眼は開いたままで若干の恐怖を私に植え付けてくる。



「これで何とかなったかなぁ。」



動く気配のないドラゴンを見つめる。


それにしてもおかしい。何故、戦闘初心者の私がドラゴンをいとも簡単に倒せるのか。


ゲームだったらだいたいドラゴンはボス級なイメージがあるし、実際エルナさんも怯えていたから雑魚と言うわけは無いだろうから。



──私の力が異常に強いのか……?



思わず両手を見つめてしまう。もしかしたら転生したことによって身体能力が大幅に向上されているのかな。それもチート級に。






▼△▼△



エルナさんを待っている間、することもないので水晶を採掘することにした。


これからの為にきっと役に立つと思ったし、練習も兼ねて。


水晶採掘に集中していると、洞窟の入口側から大勢の人の声が聞こえた。エルナさんが呼んできてくれた援軍だろうか。



「ミズキさん!無事ですか!?」



相当走ったのだろう。全身汗だくのエルナさんの姿。その後ろからは全身をプレートアーマーで包み込んだ兵士が十人ほどだろうか、エルナさんの案内で着いてきていた。



「あ、おかえりなさい。エルナさん。」


「え……まさか、一人でドラゴンを倒してしまったのですか……?」



顔を真っ青にして私のことを見る。


そして、落ちているドラゴンの頭部と私の顔を交互に見ながら信じられないと言う表情をした。



「は、はい。」


「え、えええっー!」



私の返事を聞くなり、驚愕の声を出すエルナさん。その声が洞窟中に反響して響き渡る。



「君。それは本当なのか。」


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