第8話 水晶の洞窟

「う、うん。そうだけど……」


「信じられない……」



驚いたような表情で自分の刀を見つめる。刃には先程の戦闘での血液がベッタリと付着していて気分がいいものでは無かった。


それを落とすかのようにさっきのエルナさんのように刀を強めに振る。ブオンッと風を切る音がして血液が綺麗に振り払われた。───そこまではよかった。


急にミシミシッという音が鳴り響いて隣にあったかなりの大きさの大木が倒れた。私の体から五十センチも離れていない距離スレスレの場所へと。



「え……?」



何も知らずに刀を鞘に収めた私は呆然とそれを見ることしかできなかった。



「い、今の何!?」



目を見開いて私の方を見るエルナさんだったが、私自身も何が何だか分からなかった。



「こっちのセリフだよ……」


「大木が切れてる……」



倒れている大木の切り口を見て愕然とするエルナさん。



「へ?」



自分でも驚くようほど間抜けな声が出る。切れてるってさっきの切り払いで……?



「私はただ血液を払おうと……」


「剣の達人は離れたところからでも標的に斬撃を与える事が出来ると聞いてるよ。ミズキさんは本当に天才なんだね。意識もしないで切ってしまうなんて……」


「そ、そんなことあるんだね。」



信じられないが仕方の無いことなのだろう。思わず自分の手をまじまじと見つめてしまう。



「とにかく……怪我がなくてよかったよ。洞窟、もう目の前に。」



指を差されて見た先には、白い岩肌にポッカリと空いた真っ暗な空洞が見えていた。あれが水晶の洞窟か。



「あれが水晶の洞窟。中は真っ暗だから……ああっ!」


「ど、どうしたの?」


「松明持ってくるの忘れた!仕方ないか……」



エルナさんは剣を背中から抜き、私がさっき不本意にも斬り倒した大木の先から手頃なサイズの木の枝を切り取って手のひらをあてがう。


すると、木の枝が発光して手頃なサイズの松明へと変化していた。


一体なんだろう。まるでゲームで言う合成みたいなものなのかな。



「い、今のは?」


「《錬金》。私は本当に簡単なものしか作ることが出来ないけど熟練者になると家をまるまる作っちゃうほどの錬金を見せる人もいるんだって。」


「へぇー!便利だなぁ。そういうスキルも面白そうだね。覚えたいなー。」


「スキルも適性のものだけじゃなくて成長する事に新しいスキルを覚えられる人もいるんだって!だから、もしかしたらミズキさんも魔法を使えるようになるかもしれないね。」


「本当に!?」



魔法が使えないという絶望から一筋の光明が見えてきた。ここで諦めるなんて柄じゃない。



「絶対魔法を覚えてやるぞ……」






▼△▼△



「ここが水晶の洞窟。ちょっと待ってね。」



さっき作った松明に指先を当てるとボソッと何かを呟いた。すると突然の松明の先に赤々とした炎が灯る。



「これでよし、と。」


「炎魔法を応用したんだね。すごいなぁ。」


「そんなことないよー!それじゃ、行こうか。」



松明で洞窟を照らしながら進んでいく。灯りを持っているエルナさんが道を先導して私はその後を着いて歩いた。


洞窟の中は至って普通の岩壁に囲まれているが、所々にキラキラと小さい水晶のようなものが光っている。



「へえー、綺麗だね。」


「うん。私もこの中はちょっとお気に入りなんだ!」



ニコニコとしながら洞窟の景色を眺めつつ先導してくれるエルナさん。依頼の目的は水晶の採掘だけど、この辺りの水晶では大きさが足りないのであろう。エルナさんはどんどん迷うことなく奥へと進んでいく。


それにしても結構奥まで進んでいるような。目的地はまだか。



「ミズキさん。もう少しだよ。採掘場所はこの先なんだけど……」



言われるがままに歩みを進めていくと洞窟の奥が淡い白い光を放っているのが確認できた。まさかここが……



「はい、到着。ここが、水晶……正式名称は白光石の採掘場所だよ。今回の依頼はここの水晶うち五つを採取すること。そんなに難しい依頼じゃないんだけど……問題はドラゴンが出るんだよね。」


「ドラゴンってやっぱり強いの?」



某ゲームではボスランクのモンスターだったことは記憶に新しい。私とたった一人の親友だった子がハマっていたゲーム。



「強いなんてもんじゃないよ。ドラゴンは世界一強い魔物だとまで言われている。そのドラゴン一頭で国が滅びた例もあるんだから。」


「こっちでもやっぱりそうなんだね。だったら出会わないに越したことないか……」


「そうそう。だから早めに水晶を回収して帰ろうか。」




エルナさんに言われた通りに採掘を開始する。これがなかなか難しく、一定の量を採取するのに慎重に作業を進めなくてはいけない。力が強すぎると水晶ごと砕け散ってしまうし、弱すぎると水晶の周りの岩が削れない。


絶妙な力のバランスが必要になってくる。もしかしたら私はこの依頼は向いていないかもしれない。隣のエルナさんはと言うと職人かというレベルで次々に採掘を進めていく。流石、ここは経験値の差かな。


エルナさんだけに作業をさせる訳にもいかないので一生懸命採掘を進めていくことにする。と言っても私がひとつの水晶を掘り出している間に、エルナさんは3個も掘り出しているので主にエルナさんが水晶を採掘していると言っても過言ではないけど。



こうして繰り返し作業を進めていく中でようやく指定された数の水晶を集めることが出来た。エルナさんは“ 紛失防止の為にしまっておきますね”と一言私に告げると、あっという間に水晶が入った籠を魔法陣に格納する。本当に便利だな、この魔法。



「さてと、目標の水晶は採掘出来たからそろそろ帰ろうか!」



グイッと伸びをしながら言うエルナさん。しばらくの間しゃがんでいたせいか体が強ばってしまっているらしく、顰めっ面で肩も回し始めた。



「同じ体勢でいるとそうなるよね。」


「うん。慣れてはいるはずなんだけどねー、なかなか洞窟に入る機会もないし。」


「ちょっと体動かしたい気もするね。」



私もそう言いながら体を伸ばした。体が絶妙に解れるのを感じていると、今までほとんど無音だった洞窟から異音が感じ取れる。何かが遠くで吠えているような声が微かだけど確かに聞こえた。



「エルナさん、この洞窟早く抜けた方が良さそうだ。」


「えっ……?どうかしたの?」


「うん。確証は無いけど、ここの場所からそう遠くない場所に魔物がいる。」


「ミズキさん、わかるの……?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る