第7話 初めての戦闘

「まあ、剣のことはともかく、クエストに行こうか。」



剣のことで頭がいっぱいだった。クエストって何を受けてたかな。



「エルナさん。クエストなんだったっけ。」


「もう……!洞窟の水晶を取ってくるんだよ!」


「ごめんごめん。ピッケルを持つように言われてたね。」


「ピッケルは貸し出してもらえるようなんで早速借りに行きましょうか。」



貸出所から無事に採掘器具、一セットを貸し出してもらうと洞窟へと出発。エルナさんから聞いた話によると洞窟までは二キロほどの森林地帯を抜けた先にあるらしい。



「食料の準備も一応済んだので向かおうか!」



そう言ったエルナさんだが、見た目は手ぶらで到底食料を持っているかのようには見えない。



「食料は一体どこへ?」


「ここ。」



エルナさんが指し示したのは手首。なにやらリストバンドのような物が巻かれていた。



「この布には術式が刻まれているの。」



手から布を外して裏面を私に見せる。裏にはなんとなくだが、物質の収納術が刻まれているのが理解出来た。きっとこれも《言語解読スキル》のお陰だろうか。



「なるほど……」


「この術式には魔力を流し込むと魔法陣が展開されるようになっているから……」



説明をしながらエルナさんが魔力を手に込めた。すると、少しだけ布が発光してエルナさんの魔力だろうか赤色の魔法陣が展開される。


これを見ると本当にファンタジーの世界へ来たんだなという実感が湧く。



「魔法陣の中に手を突っ込むと……」



エルナさんが魔法陣の中に手を入れる。魔法陣に入れた手が抜かれると、手には大きなフランスパンが握られていた。



「す、凄い……」


「魔法を使える人は皆こうやって自分のものを収納して歩くんだ。」


「ちょ、ちょっと待って!じゃあ、私は……」



嫌な予感がする。私は魔法を使えないぞ。



「あ……使えないかも……」



予想した通りの現実を突きつけられた。



「そんなぁ……」



ガックリと落胆しているとポンと肩に手を置かれた。見下ろすとそこには笑顔のエルナさん。



「大丈夫。ミズキさんの荷物は私が持ってあげるから!」


「……流石にそれは悪いよ。重たいだろうし。」


「大丈夫、大丈夫!魔法陣には重さはないよ。無限に物を収納出来るんだ!」



まるで某猫型ロボットのポケットみたいな機能なんだな。ますます使えなくて残念だ。



「それじゃ……お願いしてもいいかな。」


「うん!任せて!」






☆☆☆



門を出た私たちは二人で北の洞窟へと向かう。見た感じはとても平和で魔物など出そうにないけど。



「エルナさんって魔物を見たことある? 」


「あるよ。結構凶悪そうな見た目をしているんだよね。倒したのは三人パーティの時だけだったけど。」


「そうなんだ。強いのかな。」


「ミズキさんの腕があれば心配ないかもしれないけど……出会わないに越したことないね。」



深い森を少しづつ進んでいくと、ガサガサと何かが草を揺らす音。何かがいる。



「エルナさん……」


「……うん。この音は低級の魔物。見た目は小さな犬のようなんだけど。鋭い牙と爪に注意して。」



背中から剣を抜いて構えるエルナさん。私も腰から初めての刀を抜いて構えてみる。



「来るよっ!」



牙を剥いて突然襲いかかってきたのは白銀の毛皮を持った狼のような獣。エルナさんは小さな犬って言ってたけど、これは大型犬に近いのではないだろうか。



「これって本当に子犬!?」



魔物からの攻撃を受け流しているあいだにエルナさんへと話しかける。すると顔だけを私の方へと向け、返事をした。



「この辺の魔物はみんなこのぐらいの大きさなの!他の地域ではもう少し小さいみたいだけど……」




この辺ではこれが子犬。ということは成犬になってしまったとしたらどれだけの大きさに……


そんなことを考えていると、ガサッと一瞬草が揺れる音がした。まさか、もうフラグを回収することになるのか。



「ガルルッ!」


「あれはファストウルフ!?」


「なに、それは!」


「ファストドッグの上位種!滅多に現れることはないけど。たった一頭で小さな村が壊滅したとまで言われるほどだよ。」



吠えた魔物を見てみると所謂ファストドッグという魔物の三倍はあるかという体長。額には真っ赤な角。そして毛皮は全身白銀のファストドッグとは違って上半身が漆黒に包まれている。


真っ白な牙を見せて威嚇の表情。三メートルほどあるあの狼に襲われたら一溜りもない。



───でもエルナさんにあいつを任せるわけには行かないよね。




「私がファストウルフを足止めする。その間に小さいヤツをお願い!」


「でも……」



少しだけ渋る様子を見せるエルナさん。返事が帰ってくる前に私はファストウルフに向かって駆け出して行った。




「ガルルルッ!」



鋭い爪を掲げて襲いかかってきた。私は下段に構えていた刀を切り上げるように斜め上へと振り上げる。


ブシャッ!と血飛沫が飛んで地面を濡らした。ファストウルフの胸元には斜めにくっきりと赤い線が刻まれている。


弱々しい唸り声を出しながら体を震わせているファストウルフ。流石に生き物を手にかけるのは心が痛い。出来ればとどめを刺したくないが、このままでは村が一つ壊滅すると言うんだ。そういう訳には行かないのか。



「ガアアッ!」



最後の力を振り絞って鋭い牙で私に噛み付こうと飛びかかってきた。躊躇している場合ではない。


せめて一瞬で命を絶つ為に首に向かって刀を横に振った。綺麗に首へと刃先が吸い込まれ、首が分断され、頭部が無くなった亡骸が地面へと転がる。



「ふー……」



初めての命のやり取りに緊張していた体から力を抜くために深く息を吐く。


すると地面へと転がっていた亡骸が空気中に溶けるように消滅した。これは一体……



「ミズキさん!大丈夫!?」



向こう側で既にファストドッグを倒したのだろうエルナさんが剣を手にやってきた。



「うん。何とか。」


「ええっ!?まさか無傷でファストウルフを倒したの!?」

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