第6話 ニュー相棒
「あらら……」
「くそ……こんな初心者なんかに……」
壁に全身を埋めさせながらガックリと首を落とす男性。体に力を入れながら壁から脱出をすると半分になった剣を腰の鞘に収め直した。
「参ったよ、悪かったな。それと、エルナちゃんを泣かせたら許さないから。」
「は、はい……」
男性は取り巻きの戦士達に指示すると訓練所から出ていく。それを見送った後エルナさんの所へと。
「大丈夫でしたか!?」
「なんとか。それよりもあの人たち大丈夫かな。」
「一応魔法で防御はされてるんで大丈夫だとは思うけど……痛みが続いても一週間ってところ。」
「なら……大丈夫かな。それよりも……」
手に握っていた大剣の下部分をエルナさんに見せる。それを見たエルナさんは渋い顔をして私の方をチラッと一瞬だけ見た。
「……修復は不可能に近いね。」
「やっぱり……やっと見つけたのになー。」
「残念だったね。他の武器を借りに行く?」
「うん、そうする。でもその前にハイダさんに謝りに行かなくちゃ。」
▼△▼△
大剣を破壊したお詫びをしに受付へと向かう。事情を説明すると案外あっさりと許しを得る事が出来て一安心。
そして再び武器庫へ。重そうな武器を片っ端から探していくけどなかなか良さそうなものが見つからない。
「これも軽いなぁ……」
「案外武器を持たないで拳で戦う方法もあるよ。しっくりこない武器を持って戦うと逆に危険だから。」
「こ、拳かぁ……」
思わず自分の拳を見つめてしまう。そう言えばさっき初めて戦った時も結構いい線を行っていた気がするような……
そんなことを考えていると突然武器庫が開く音。音の先に視線を向けると、さっき戦ったばかりの男性が。
「な、なんですか。」
「武器、探しているのか。悪いな、さっきは武器を折ってしまって。久しぶりの強敵に胸が踊ってな。」
「なかなかしっくりくる武器がないんですよ。ここにあるものは全て試しました。」
「なるほど……武器の条件は。」
「重い、位ですかね。出来れば両手剣がいいですけど。」
「これも軽かったのか?」
地面に転がっている巨大な斧を指差す。それは一番最初に武器庫に来た時に振ってみたもの。かなり軽かった印象がある。
「それでもダメでしたね。……私が持つ武器はどうしても大きさが体ほどになってしまうことにも悩んでいるんです。いい方法はないですか?」
「一つだけいい物がある。問題はそれをお前が振れるかだ。」
▼△▼△
男性に連れられて向かう先は武器庫の端にあった隠し階段。レバーを引くといきなり現れたそれは一体どういう仕組みになっているのだろうか。
少しホコリがかぶった階段を降りていくとその先には一振りの刀が鎮座していた。
土台に突き刺さるように立てられたそれは異様なオーラを放っていた。
「これは……刀?」
「知っているのか……この剣を台座から引き抜けるかやってみろ。」
「……勇者の剣みたいだな。」
ボソッと呟いて刀の柄を握りしめる。腰を入れてそれを引き抜こうとするが……簡単に引き抜けて、尻餅を着いてしまった。
「イテテ……」
「嘘だろ……それを抜いたのか。」
私の横に転がっていた一振りの刀。眩しいほどの銀色の刀身に鍔は黒鉄色。柄は振りやすさを重視したのか黒い紐が巻かれていて、全ての装飾に東洋龍があしらわれている。
気になる重さはと言うと……予想に反してかなりしっくりくる。私の一番最初の相棒を振っているかのようなズシリと来る感覚。この一般的な大きさの刀のどこにこんな重量があるのか。
腰を落としてブンブンと二回振り回すと驚いた目をして男性が私の方を見ていた。
「とてつもない怪力だな、お前は。この剣は昔ギルドに居た大戦士が使っていたものでな。いわゆる魔剣という奴だ。世界に十本無いとされる世にも珍しい片刃の剣、《カタナ》と呼ばれるものらしいな。とてつもない高級な金属を叩いて叩いて重さはそのまま、この大きさに圧縮したんだと。今まで使いこなせるやつはもちろん、抜ける奴もいなかったみたいだがな……」
「そんなものを本当に貰ってもいいのですか。」
「ああ、本来ギルドはこの剣を使える者を探していたんだけどな……見つからずに結局探すのを諦めてしまったんだ。お蔵入りって奴だ。これを抜いた時点でこの剣の主はお前だ。上に行って登録してこいよ。」
「ありがとうございます!えーっと……」
「アルベルトだ。アルでいい。そっちは……ミズキだったか?」
「そうです!ありがとうございます、アルさん。」
手を差し出すと、力強い手で握手を返してくれた。この人の手のひらはゴツゴツしていて硬い。歴戦の戦士そのものって感じがする。
階段を上がっていくにつれてアルさんは悪い人ではないことが判明。私の腕を確かめるつもりが、つい真剣で手を出してしまったみたい。そのことについても謝罪してくれた。
思い返してみればあの男性たちは二人同時に襲いかかってくることはしなかったな。
▼△▼△
「おーっす!ミズキくん。新しい剣、見つかったみたいだね。……それにしてもまた化け物を持ってきたんだ。もしかしたらミズキくんは大戦士・ラーシュの生まれ変わりかもね。」
興味深そうに私の刀を覗き込むハイダさん。素手でこの刀を持っていたのを見かねて、鞘を持ってきてくれた。漆のようなものが塗られた真っ黒な鞘だ。
「ミズキさん!良かったね。」
「うん、助かるよ。それにこの刀、なんか安心するんだよね。」
理由はだいたい分かっている。この刀は私が趣味で持っていた模造刀にそっくりなんだ。抜いた感覚、握る手応え、重さ。全てが同じすぎて寧ろ偶然とは思えない。
ハイダさんについでに貰ったベルトのようなもので刀を固定して準備完了。まともな大きさの武器を装備するなんて経験は初めてだからなんか新鮮だ。
「そう言えば、エルナさんの剣はどんなものなの?」
「私はこれ。」
エルナさんは背中に吊っていた剣を抜いた。これは片手剣?
「鋼製の片手剣だよ。あんまり高価なものじゃないし、古いものだから刃こぼれも酷いんだ。新しいのが欲しいなぁ……」
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