第5話 見様見真似の対人戦闘

「はい、これが貴女のギルドカード。使い方はまず、身分証明書の役割が一つ。これがないと依頼を受けられないから注意ね。そして、お財布の代わりにもなるから盗難には充分に気をつけて。」


「お財布……?どういう事ですか。」


「このカードには通貨の代わりに純粋な魔力が貯まっているんだ。それを例えば……」



エルナさんが私と同じカードを出して、私のカードの先にコツンとぶつけた。




「ギルドカードの裏を見て。ここにエルっていう記号があるでしょ。これが通貨ね。」




カードの裏には確かにエルと書かれた記号がある。数値は五千。つまり五千円が私のカードの中に入っているということか。




「さっきまでのミズキくんのエルはゼロだったんだけど、私がカードをぶつけたことによってエル、つまり魔力が移動したの。」


「なるほど……これがお金の代わりになるんですね。それじゃあ、私がもう一度ぶつければエルは移動するのですか?」


「うん。頭の中で移動させたい金額を浮かべて……ぶつけてご覧。」




言われた通りに頭の中で五千エルをイメージさせて、ハイダさんのカードにぶつける。


ギルドカードの裏を確認すると残高はゼロ。上手くいったみたいだ。まるで電子マネーを使っているみたい。




「おっ。コツは分かったみたいだね。さて、このカードの表に書かれるのは主に名前、住所、年齢、レベル、職業、ステータス、所属ギルド名。そして、裏面は持っている金額。依頼受注歴。あとはパーティメンバーの名前。」


「なるほど……」


「試しにエルナちゃんとパーティを組んでみようか。エルナちゃん、いい?」


「は、はい!」




エルナさんが私のギルドカードの上に自分のギルドカードを重ねた。するとギルドカードから光が溢れ、次第に収縮。




「これでいいはずだよ。見てみて。」



裏面を確認すると確かにエルナさんの名前が刻まれていた。魔法はやっぱり不思議だ。




「刻まれてるね。これで今はエルナちゃんとパーティを組んでいることになる。ちなみに解除するには……」




ハイダさんが説明しようとすると何故かエルナさんはハイダさんの目をじっくりと見つめる。まるで我儘な子供のような目だ。



「ま、これは後でいいか。うん、これにてギルドカードの説明は終了。後は自由に依頼を受けるなりしていいからね。なお、依頼を受ける時はそこの掲示板に貼ってある紙を引き剥がして私の所へ持ってきて。」


「だいたいわかりました。ありがとうございます。」


「ん!気をつけて行ってくるんだよ。」



ハイダさんが手を差し出してくるので、握手をする為に手を握り返した。その時、ハイダさんの顔が少し赤くなったのは気のせいだろうか。






▼△▼△



「さてと……早速だけど、依頼受けてみる?」


「そうしたいね。お金も欲しいし……」




相談をしながら掲示板を覗く。今ある主な依頼は、畑を荒らす魔物の退治、洞窟の奥にある水晶の採取、山岳地帯でしか生えない薬草の採取。そしてなんと言っても目玉が洞窟の中にいるドラゴン退治。



「最初は、水晶の採取とかがいいと思うんだけど……」


「洞窟に入ると嫌な予感がするのは私だけなんだろうか。」


「真上にドラゴン退治の依頼があるしね。同じ洞窟だとまずいかも。でも山岳地帯の薬草採取は定員オーバーなんだよね。魔物退治はいきなりだと荷が重いから……」


「……水晶取りに行くか。」




ビリッと掲示板から依頼表を破って窓口へ。ハイダさんがニコニコで私たちを待ち受けていた。




「おっ!水晶採取だね。採取道具を忘れずに。あとは……ドラゴンが出るから気をつけてね。」




ほら、やっぱり言った通りのことになった。




「ど、ドラゴン出るんですか!?」




流石に慌てた様子のエルナさん。どうしよう、今更取り消すわけにも行かないし。




「大丈夫だって。ミズキくんがいるからね。それにドラゴンは最深部じゃないと出ないって噂だから。行ってらっしゃい!」




ポンッと水晶性のハンコを押すと、胸にぶら下げていたギルドカードが発光する。確認してみると受注歴が更新されていた。






▼△▼△



「まさか、こんなことになるなんて……」




とぼとぼと俯き加減でギルド内を歩いていると、人にぶつかってしまう。




「痛てっ……おい、兄ちゃん。新人か!?」


「は、はい。」



その人は上半身素肌の上に鎧を着込んでいる。無精髭が目立ち、腕っぷしが強そうな男性だ。それにかなりガタイがいい。




「新人なのに俺に挨拶もなしとは……分かってないねぇ。」




私よりも少しだけ大きいぐらいの男性がガンを付けるように睨んでくる。この人はこのギルド内ではどういう立場の人なのだろうか。




「すみません、挨拶が遅れました。私はミズキと申します。」


「ミズキか、実力が無い人間はすぐにここを辞めていく。俺が力を見てやる。……いいから着いてこい!」




丁寧に挨拶をしたつもりだったんだけど、何かがダメだったのかな。半強制的に訓練場へ連れていかれる。


その後ろから困ったような顔をしてエルナさんも小走りで追いかけてきてくれた。






▼△▼△



「さ、その剣を取れ。その化け物は下ろすんだ。」




地面に乱暴に刺さっていたのは木で作られた木製の剣。言われた通りに剣を抜くと、一番最初にエルナさんから渡された剣よりも更に軽い重量。


ここまで軽いと逆に振りづらいんだけど……


まるで簡素な木の枝を振っているみたい。こんなのでままともに戦えるのかな。


振り心地を確認しようと木剣を振り上げたその瞬間、ニヤリと笑った男性が突然私に向かって突っ込んできた。




「───!?」




真下から振り上げられる木剣が私の顔面を狙う。びっくりして飛び退くと、目の前を木剣の刃が通過した。


通過した勢いで私の木剣に軽く男性の方の木剣がぶつかる。ゴッと軽い音がして木剣同士がぶつかった音が響いたが、私に害はない。



「よっ!」




お返しと言わんばかりに木剣を両手で振った。しかし、あまりの重量の無さに逆に体が泳ぐ。




───これは、逆に片手で振った方がいいのでは?



試しに右手に持ち替え、男性の持っている木剣に向かって全力で木剣を振る。

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