第4話 スキルと魔法

「スキルがわからないかな。」



問題はスキルの項目。スキルといえばゲームではお馴染みのキーワードだけど、ゲームと違ってステータスウインドウは出ないから調べようがない。



「スキルは……ここに束になったメモ用紙みたいなものがあるでしょ?これを一枚破って……」



台の上に置かれた束から一枚、レシートほどの大きさの紙を取ると私の腕にペタッとくっつける。



「これは……?」


「潜在スキル鑑定用紙。これを貼り付けるとね……あっ、出たよ。」



紙に浮かんできたのはスキル名だろうか。じっくりと眺めてみると項目は三つ。


一つ目は言語解読。これはなんとなくわかる気がする。この街に初めて来た時に明らかに見たことない文字を読むことが出来たし、エルナさん達とも会話が出来るから。


二つ目、体術。体術といえば……格闘とか、身のこなしに関するスキルだった気がする。……もちろんゲームでの話だけど。


そして最後の三つ目。これは……怪力?私が異常な程に重いものを持てたのはこのお陰なのかな。



「なんか独特なスキルばかりだね。」


「私もそう思う。怪力かぁ……」



潜在スキルの基準は一体なんなんだろうか。言語、体術。私には縁がない言葉を羅列されたような……



───あ。



これって向こうの世界で私が苦手だったものたちだ。まず、言語解読は英語の授業。私が大嫌いだった。


毎回テストは赤点、補習の常連でその補習に次ぐ補習でも赤点。ほとんど諦めの目で見られた教科だった。


それから、体術。これも私の苦手なもの、体育。

ハードル走では全てのハードルをひっくり返し、球技では顔面でボールを受け止める。ダンスなんて見れた物じゃない。このせいでただの筋力バカというレッテルを貼られてしまった。


そしてなんと言っても怪力。筋トレを日課にしている私には似合っているスキルだが、ここまでパワー型じゃなくても……



怪力を除いて、私の苦手なことが得意なことに変換されているんだ。これは有り難い。ファンタジーの世界では戦闘は必須。もしも、体術スキルが無かったとしたら悲惨なことになっていたかも。




「この出たスキルを記入していけばいいのかな?」


「うん。それでいいはず。あとは……得意魔法だね。これは適性があるんだけど……次はこっち。着いてきて。」




私の記入用紙を持ったエルナさんが。私の手を掴んで歩きだした。どこに行くんだろうか。






▼△▼△



「はい、到着。誰もいないみたいだね。」




連れていかれたのは広い射撃場みたいな所。違うのは的と人に仕切りがなく、的との距離もそんなに離れていない。




「ここは、戦闘技術訓練所。私は戦士クラスだから魔法はあまり得意じゃないんだけど……見ててね。」



両手を前に出して的に向かって手のひらを掲げる。すると赤い光がエルナさんの手に灯った。


その三秒後に突然どこからか拳大の大きさの火の玉が出現して的へと飛んでいく。




「こうやって魔法を当てるための的なの。」


「わ……凄い……何も無いところから火が出た。」


「魔法を見たことないの……!?」



しまった……本当のことを言っても信用して貰えないだろうし……どう誤魔化したものか。




「そ、そんなことより……魔法の適性ってどうやったらわかるの?」


「あ、えっとね……さっきと同じ。この紙、ちょっと持ってもらってもいいかな。」




言われた通りに紙の端をつまむ。しかし、何も起きる様子はない。



「あ、あれ?」


「反応しないね……もしかして、ミズキさんは魔法を使えないのかな?」


「そ、そんなことあるの!?」


「ごく稀にいるんだよね。そういう人。その代わりに魔力を身体強化だけに使う人もいるんだよ。私の場合は炎属性なんだけど基本は同じ。……見ててね。」




エルナさんが腰から剣を抜くと、剣に力を込めたように見えた。さっきと同じように剣が赤く発光する。


数秒後に刀身が赤々と燃え上がってまるで炎の剣のよう。それを近くにあった的に向かって真っ直ぐ斜めに振り下ろした。


斜め上から分断された的の切り口からさらに発火。ゲームである魔法剣みたいだ。




「す、すごい……」


「まだまだ!こんなの容易いよ。もっとすごい使い手がいるしね。」



顔を赤くして照れた様子を見せるエルナさん。この姿を見ると年相応って感じがする。



「いいなぁ、私も魔法を使いたかったなぁ。」


「大丈夫。魔法を使えなくたってミズキさんは自前の体術スキルと怪力スキルがあるから。バリバリの戦士としてやっていくならアリだよ。」


「あ、でも試しにあそこの的に打ち込んでみる?簡単にでいいから。」



見様見真似で的から数メートル離れた場所へ立つ。そして、全力でダッシュして的へと接近。一メートルぐらいの距離まで近づくと大剣を横薙ぎに一閃。


一瞬だけ青緑色の光が点ったのが見えた気がしたが気のせいだろうか。


私の大剣の刃が的へと吸い込まれていく。すると、綺麗な一文字を刻んで上半分が地面へと落下した。



「ふー……」



息を深く吐いて深呼吸。初めてにしては上々だと思うけど、どうだろうか。



「ど、どうだった?」



恐る恐る聞いてみる。大剣を持ち直した所でエルナさんが目を見開いて私の方を見た。



───なんかまずかったかな。




「え、えっと……」


「す、すごいよ!ミズキさん!初めてだとは思えない!手練の剣士でもここまで綺麗な太刀筋は見たことないもん。」


「そ、そうかな……」




褒められるのは初めてだからなんか照れくさい。それほど上手にできたんだな。



それにしても……さっきの青緑色の光は何だったんだろう。






▼△▼△



訓練場を出て、再びハイダさんの所へ。受付業務の途中だったみたいなので少し待ってから窓口へと。



「記入しました。」


「はーい。ありがとう。じゃあ、ギルドカード作るから少しその椅子で待っててね。」



言われた通りに革製の椅子に座って待つことに。


でも私は今巨大な大剣を持っているんだ。とても座りづらいので一旦、その大剣を背中から外して抱きつくように抱える。



「それにしても邪魔だなぁ……」


「その大剣だと色々不便かもしれないね。」


「ねえ、この大剣より小さくて重い剣ってないの?」


「武器屋さんに行けばあるかもしれないけど……依頼をクリアしてみてから武器屋に行ってみよう。お金の問題もあるしね。」


「ミズキくん。出来たよ、窓口へ来てー!」


「は、はい。」

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