第2話 一晩泊まらせていただきます

この子は戦士職なんだ。人は見かけによらない。確かに一般女子……といっても私の世界での話だけどよりはガタイがいい気がする。




「そ、そうなんですか……それなら、お願いしていいですか?」


「はい!是非いらしてください!」




案内されたところは人が一人住むにはかなり広くい木造建築。私が居た世界の二階建て4LDKといったところか。




「広いお家ですね。」


「ええ、本当はここは戦士職の友人と住んでいたお家だったんですけど……一か月前でした。私がたまたま風邪で寝込んでいた時、受けたクエストで二人とも魔物に殺されてしまって。」




表情が一気に暗くなる。友人が一晩で全員亡くなってしまうなんて経験をしたらこんな表情にもなるだろう。でも、恩人にそんな顔をさせたくない。




「そうだったんですね。」


「……あ、すみません!暗い話を……」


「大丈夫です。それで貴女の気が紛れるならいくらでも話して下さい。」




ポンと肩を叩くと、ぽつりぽつりと話してくれた。


昔は腕の立つパーティーと有名だったこと、でも今は一人用の簡単な依頼しか受けられらないのでストレスが溜まっていること。そして、本当はこの街を出て旅に出たいこと。




「あの……ずっと聞きたかったんですけど、どうして貴方はこんな街にやってきたんですか?この街は何もめぼしい物は無いし……」


「それが……道に迷っちゃって。この辺のことが一切わからないんです。」




当たり障りのない言葉を選んでみたけどどうだろう。でも、本当の事を言ったとしても信じてもらえないだろうし。




「そうだったんですね。もしかしたら、魔物に荷物も奪われてしまったのですか。」



労わるように私に声をかける女性。騙すのは心苦しいけど、少しだけ勘違いしたままでいてもらおう。



「そ、そうなんです。……あの、この辺でお金を稼ぐ方法をおしえてもらえませんか?」


「この辺だと……ギルドに登録して、魔物退治が一番早く稼げますね。デメリットは命の危険があることですが。……あとは依頼次第で、薬草の採取とかもあります。命の危険が無いこの依頼は人気ですぐに取られてしまうんですけどね。」


「なるほど……魔物退治ですか。初心者の私にも出来るものなんですか?」


「コツを掴めば。初心者さんにはギルドが武器を支給してくれるのでお金は気にしなくても大丈夫です。」



武器の心配がいらないのは助かった。でも運動神経がない私でも大丈夫なんだろうか。



「それに、身長が大きいですし。私と違って力もあると思うんで!明日、一緒にギルドに行ってみましょうね。」


「ありがとうございます。……ところで、お名前を教えてもらってもいいですか?」


「ええ!私の名はエルナです。」


「私の名前は瑞稀ミズキです。よろしくお願いします。 」



握手をするべく手を差し出す。その手を力強く握りしめるエルナさん。その手は暖かく、武器を振っているのが分かる程に豆が出来ていた。










「本当に異世界に来たんだなー……」




エルナさんに案内して貰った部屋に置いてあったベッドに横になる。柔らかい布団に暖かい部屋。こんなに幸せなことなんて……


柔らかい布団に包まって瞳を閉じる。すると、長い距離を歩いて疲労が蓄積していたのだろうかあっという間に眠りに落ちていった。









「おはようございます!朝ですよ!」



元気のいいエルナさんの声で目が覚めた。頭が重く、かなりの眠気が襲っているが二度寝をするわけにも行かずにベッドからゆっくりと起き上がった。



「おはようございます。エルナさん。」


「ミズキさん、おはようございます。朝ご飯出来てますよ。」


「え、いいんですか。なんか、悪いですね……」


「気にしないで下さい。元々、私が昔から食事当番だったんです。何人分作るのも同じようなものですから。」




テーブルの上に乗っていたのは当然洋食。コーンスープのようなものにフランスパンのようなパン。これだけでも立派な食事だ。ウインナーのようなものも焼かれていて、サラダまで。



「いただきます!」


「召し上がれ!」



遠慮せずにご飯を頂く。どの料理も味付けが絶妙でまるでホテルの朝食を食べているみたい。



「美味しい……」


「良かった。お口にあった見たいですね。」


「本当に美味しいです……エルナさんはいいお嫁さんになれますね。」


「えっ……もう、ミズキさんったら……」



両頬を押さえて顔を真っ赤にするエルナさん。この仕草は年頃の女性らしいというか、なんというか……



「本心ですよ。私のお嫁さんに来て欲しいぐらいです。」









「さ、さてと!ギルドに行ってみますか!」



若干声が上擦ったエルナさん。一体どうしたと言うのだろうか。



「こっちですよ、ミズキさん!」



私の手を握って歩き出すエルナさん。私より低い身長のエルナさんを見ていると微笑ましくなる。



「朝になると活気がすごいですね。」



夕暮れ時にはあまり見て回れなかったが、ゲームでよく見るような西洋の街並み。所々に立ち並んでいるのは武器屋や防具屋、そして道具屋等、お馴染みの店から日用雑貨が売っているような生活用品を専門に取り扱っている店も所狭しと並んでいる。



「はい。この辺はお店が沢山あるんでどうしても賑やかになってしまうんですよ。……ここです!ミズキさん!」



エルナさんが立ち止まった所は大きな看板が建てられた巨大な建物。文字列は見たことが無いものだけど何故か読むことが出来る。



「まずは受付でギルドの認定証を貰いましょう。登録受付はこっちです。」




手を引かれるままに案内された窓口へ。そこには紺色の艶やかな長い髪をした美人の女性が受付業務の真っ最中。




「おっ!エルナちゃん!その人はどうしたの?恋人かい?」


「ち、違いますよ!ハイダさん!この方がギルドの登録をしたいそうで……」


「なーんだ。そういうことね。……それじゃあ、この書類に必要事項の記入を。分からなかったらエルナちゃんに聞いて。」


「わかりました。」



一枚のA4サイズぐらいの紙を受け取った。紙の質感はコピー用紙より荒い材質。ファンタジーそのものといった感じ。


専用の机に移動して初めての羽根ペンを手に取った。書けるところは名前ぐらいで後は意味が分からない。



「エルナさん。住所が未定な場合は?」


「それなら私の家を拠点にしてください!ミズキさんが居てくれれば、私も心強いので……」


「わ、わかりました。住所は……?」


「ここだけは、私が記入しますね。」



私からペンを受け取ってサラサラと文字を記入していく。問題の項目はこの後。

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