第10話 ヒザにスキルを受けてしまってな

「今回の対戦の勝利条件をご提示いたします。条件は――"制限時間は10分。その中で目標を先に入手すること"となります」


 ――10分!?


 短い。このグラウンドの中に答えがあるレベルだ。


「目標って何?wwwwww」


 葉山は前回の俺と同じような質問を投げ、同じように敵を倒してヒントを得ろと回答された。


「それでは……ゲーム開始でございます!」

「うぉぉおおおおっ!」


 先手必勝。おそらくヒント1つで答えがわかるくらいのお題だ。先にやられたら負ける。

 目標ってなんだろ、と呑気に考えていそうな葉山に猛然と殴り掛かる。


「え? おほっwwww」


 ――が、その拳は空しく空を切った。

 

「なになに、なんでいきなり殴りかかってくんのwwwwww」


 俺がコイツに勝っているのは"情報"だけだ。いかなる情報も一切くれてやるつもりはない。

 無言で次々に拳を繰り出す。


「あーそうか。敵を撃破してヒントを得ろってやつね。んじゃ、ホイッwwwwww」


 思い切り振りかぶって殴り掛かったところを上体だけをひねって躱される。その勢いのまま、腕をとられ背負い投げを喰らった。


「うぐはっ!」


 ドスンと地面に叩きつけられ、肺から空気が漏れる。


「はーい俺の勝ちwwwwww」

「ってぇ~……」

「……お?wwちょっとフクロウ君wwヒント出ないんだけどwwwwww」


 亜門の方を振り返って疑問を投げかける葉山。スキあり――!!

 足を硬化させて、思い切り葉山のふくらはぎの裏を蹴りつけた。 


「ウゴッ……!!」


 猛烈な痛みに仰向けに転がる葉山。

 その腹の上に乗りかかり、マウントポジションから右腕を硬化させて顔面に殴りかかる。


「え?wwちょwwまwwwwww」


 ――ゴズンと、大きな手ごたえ。


 鼻の骨と歯が折れ、盛大に血をまき散らす。


「ッパゴッ…………」


 1発じゃダメか。2発、3発と叩き込み続ける。

 もともと男前とはいえない顔が、グシャグシャになった。


「ハァ、ハァ、ハァ……」


 ――ダメだ。


 こんな能力1つじゃ、相手を殺すには至らない。

 ここはひとつ、芝居を打とう。


「おーっし、ヒントゲーット! なになに、目標は"屋上"……オーケーイ! 屋上だなっ!」


 そう言い残して、本校舎の屋上に向かって走り出した。

 走りながらアリエルに問う。


「おい、お前にもらった能力じゃ相手を仕留めきれねーんだがどうすりゃいいんだ?」

「キミはこれからどうしようとしてるの?」

「アイツを屋上に誘い出して、突き落として殺す。今1分経ったが、屋上までダッシュで2分、アイツと揉み合ってなんやかんやで殺すまでで2分。ヒントを得たら、残り5分でなんとか答えにたどり着く!」

「ウン、まぁ、現状のキミにできる最善かな……? ボクもそれでイイと思うヨ☆」


 ――背後から、ガラガラとカラーコーンが蹴散らされる音がした。


 振り返ると、葉山が血をまき散らしながらヨロヨロと追ってきている。


「やべぇぇぇ怖ぇぇええええ!!」


 校舎内に転がり込むと、わき目もふらず全力で階段を駆け上がった。



 屋上。


 俺は5階建ての屋上の、さらに貯水槽の上という不安定な足場に目を付けた。


「あった! あの貯水槽のフタぁ! あれが目標物だっ!!」


 と、貯水槽の上によじ登る。

 まんまと葉山もついてきた。


 ――俺たちは、貯水槽の上で対峙した。


「……」

「どした葉山。さっきから無言でよォ。怖ェじゃねーか、なんか喋れよ」

「……殺ス!!」


 痛々しくひしゃげた顔からは出血が続いている。

 普段小馬鹿にしていた相手に手ひどくやられ、すっかり冷静さを失っているようだ。


「おいおい冷静になれよ葉山ぁ。それそれ、その足元のフタ。それを手に取ればお前の勝ちだよ。わかった降参。フタはお前に譲るから、見逃してくれよ、な?」

「殺ス!!!!」


 葉山が何かを投げるような動作を見せた。


 ――何か、来る!!


 とっさに身を丸めて頭を硬化する。

 だいたいこれでなんとかなる。渋谷での戦いで学んだことだ。


 ――が。


「――痛ってぇぇ!!」


 頭より幅が広く、わずかに露出していた両肩に鋭い痛みが走った。

 見ると、パックリと割れて血がドクドクと溢れている。


「なんだ、こりゃあ……!」

「我が能力は、風……!!」

「お前、キャラ変わってね?」


 葉山は両腕をクロスさせながら言う。


「これからお前を切り刻んで殺す――行けよマサライッ!!」


 クロスさせた両腕を払うように広げる葉山。

 直後、無数の風の刃が俺の体を切り刻んだ。


「あっ……がぁぁぁぁぁっ!!」


 全身から血が吹き出し、貯水槽の上に倒れこむ。

 葉山はその上にやってきて傷口を踏みつける。


「ぎぃぃぃぃぃぃっ!!??」

「ヒャハハハハハ! いい鳴き声だなクソ虫野郎!! そうだ、あの女もこんな風に鳴かせてやるか。あの穢れのない顔がどんなふうに苦痛に歪むか……楽しみだァ」

「は……ははは……おみごとな悪役ぶり。いやー……感服しますわ゛ぐっ!?」


 さらに力強くグリグリと傷口を踏みにじられる。

 頭からつま先まで電流が駆け巡り、意思とは無関係にビクンビクンと体が跳ねまわった。


「キャッハハハハハハ! マジウケるわコイツ。あースッキリした」


 チラリと貯水槽のフタに目を移す葉山。


「んじゃお前はそこで俺の勝利の瞬間を眺めてろや」


 フタを開けようとしゃがんだ、その時――


「う゛らぁぁぁぁあああッ!!!」


 俺は最後の力を振り絞ってタックルを試みた。が。


「読めてんだよ、カスがぁっ!!」


 フタを開けようとしたのはフリだったらしい。バカがバカなりに誘ってきやがった。


 ――けどな。


「あっ……!?」


 葉山は、立ち上がれなかった。


「硬化してんだよ、テメーのヒザがな」


 ――そう。


『体の一部を硬くする』俺のスキル。"誰の"とは指定を受けていない!


 無防備な姿勢のままタックルを喰らった葉山は、貯水槽から、そして校舎の5階から地上まで真っ逆さまに落下した。

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