第6話 天使と悪魔
「…………」
俺は、またまた異空間のビルの上に座っていた。
「おい……どういうこと、これ?」
「にゃは☆」
アリエルがプカプカ浮かびながら呑気に笑っている。
もう2度体験した光景だ。
「はぁ……」
深いため息を吐く。
「……ん?」
ふと、違和感を感じて振り向いた。
「あ!」
そこには紬希の姿があった。
無言で屋上のフェンスに寄り掛かり、腕を組んで目を瞑っている。
「あ……」
紬希! いたのかお前、と、駆け寄ろうとしてやめた。
こういうときの紬希は危険だ。君子危うきに近寄らず、だ。
そこへプツンと映像が浮かび上がる。
「あ、執行人さんからだ」
『どうも、アリエル殿。そちらに奏様と紬希様はいらっしゃいますかな』
「いるよーん☆」
「あっ! おい亜門さんどうなってんだよこれ! どうしてくれんのこれぇ!」
『大変申し訳ございません』
「また"勝利の隙を突いて願いを横取りするのは推奨はしていないが罰則もない"とかいうんじゃないでしょうね!」
『いえ、さすがにそれは秩序がなさすぎます。本件は私の不手際でございました』
「じゃ、戻ったらもっかい願い叶えてくれる?」
『大変申し訳ございません。それは不可能です。我々072クラブの
「……どうしてくれんの」
『お詫びと言っては何ですが、3人をそちらへ送っておきました。煮るなり焼くなりお好きにどうぞ』
「えっ!? あいつらこっち来んの!? ちょ、困るんだけどそれぇ!」
俺は素人だし、紬希の能力も戦闘向きではない。しかも相手は3人。送ってこられても困る。
アワアワと焦っているうちに、シウンシウンと3人が青い光とともに屋上に出現した。
「……ぐっ……クソッ……あのスカシ野郎ォ……」
「いってぇ……」
「……ん?」
「……あ」
目が合った。
「よーお、クソガキ……さっきぶりだなぁ……?」
「ど、どもス」
「さんざん煽ってくれたよなぁ」
「え? そうでしたっけ?」
「ブッ殺――」
「ひぃっ!」
男が腕を振り上げ、俺は身を守る姿勢をとる。
が、一撃は来ない。
「……?」
恐る恐る目を開けると、目の前に迫っていた男――だったモノは、顎から上あたりがゴッソリとなくなっていた。
「ヒェッ!?」
ゆっくりと大の字に倒れこむ男。
「て……てめェ!! 今、何しやがった!!」
いきり立つ男が紬希の方に向かって歩き出す。
紬希は無言のまま返事をしない。
「スカしやがって。マワすかこいつ」
「だな」
「や……やめろう!」
なさけなくその足にしがみついて止めようとする。
「あん? ウッゼーなこのガキ、死んどけ――」
バチュン、と、また男の頭がはじけた。
「――え?」
紬希の方を見る。が、彼女は微動だにしていない。
「な、なんなんだ……なんなんだテメェェェェェ!!」
最後の一人が紬希に向かって走り出す。
が、その途中でやはり頭の中身をまき散らした。
やがて3人は再び体が構築されその場に出現する。
「あ……おいアリエル。もしかして俺たちって、ここで永久に殺し合う運命だったりすんの?」
「んー? そんなことないヨ」
ホスト崩れどもは何が起きているかわからず、恐怖におののきながら背後の悪魔を出現させた。
「おいグヌゾ! 何が起きてる!? どうにかしろ!」
「ジェド、あのガキブチ犯すぞ!」
「あっ……」
――そうか。
天使や悪魔は一人じゃない。俺にアリエルが憑いてるように、紬希やあいつらにも憑いてる奴がいるのか。
「あーやって
「あ、あぁ……?」
「出てきたところを~……」
アリエルと話していると、カシャンと音を立て、ようやくフェンスから離れた紬希が動き出した。
「お……おいおい。何キレてんだよ」
「んなマジになんなって。冗談だよ、ジョーダン」
男たちがその迫力に圧されジリジリと後退する。
「冗談……? 何を勘違いしているのかしら」
紬希は足を止めない。
「……よくも、奏を巻き込んでくれたわね……」
「ハ……ハァッ!?」
「最初からずっっっっとブチキレてんのよ、私はっ!!」
ズン、と力強い一歩を踏み出すとともに力を込めてその名を叫ぶ。
「カマエル!!!」
スゥーと彼女の中から出てくるものがあった。
「ハァ~イ♡」
「オカマやん」
……思わず関西弁で突っ込んでしまった。
彼女の背後から現れたのは、白いスーツに身を包んだ、スラッとした長身の天使。
紫色のミディアムヘアは少し外にはねており、顔は彫りが深く化粧っ気がある。髭の剃り跡が青々しいとかそういう意味のオカマっぽさではないが、なんとなく、骨格の感じとかで「あ、これ男だわ」と直感するような、そういう容貌だった。なにより声が低い。
「天使や悪魔ってね」
アリエルがのほほんと解説をくれる。
「現世じゃその力を存分に振るうことができないの。実体のない存在だから」
「だから、俺たちに代わりに戦わせてんのか?」
「そゆこと☆ でもね、この
「聖装纏身!」
紬希が叫ぶと、カマエルの全身が真紅の鎧に包まれる。
そして――
「神器降臨!!」
――何も起こらない。
「……ん?」
ふと、物音に気付いて空を見上げると、はるか上空から雲を切り裂いて何かが落ちてきていた。
――剣だ。
「おい……なんか、剣が落ちて……」
――待て。待て待て待て。
おかしい。"雲を切り裂いて剣が落ちてくる"?
何で剣が落ちてくるってわかるんだ。
「ヤベ……おい!! なんかクソデケーのが落ちてくるぞぉぉぉっ!!」
俺は叫んで避難を促した。
身をかがめて頭を硬くして丸くなる。
その直後。
――すさまじい轟音と衝撃。
ビルの真横に、飛行機でも突き刺さったかと見紛うほどの巨大な剣が姿を現した。
剣は燃え滾っており、近くにいるだけで焼かれてしまいそうだ。
「アチチ、アチ! 燃え尽きそうだ!」
「ダイジョーブ、ダイジョーブ。ボクが護ってるから」
俺は黄金の光に包まれていた。
「へ……へへへ……なんだよ。なにするつもりなんだよ」
もはや笑うしかないホスト崩れども。
「唸れ、神剣――レーヴァテインッ!!」
紬希が叫ぶと、連動してカマエルが腕を振る。
ワンテンポ遅れて、剣が周囲の物体を薙ぎ払いながら半回転する。
さらに遅れて、熱波が何キロも先まで走っていき、あらゆるものを燃やし尽くしていく。
――そのあとには、何も残っていなかった。
「…………」
ぽかーんと口を開けたまま、光に包まれその場に浮き続ける俺。
やがてホワホワと、もとはビルがあった地上に降り立った。
そこには、遥か彼方を見据えたまま動かない紬希の姿。
「こ……殺したのか……?」
なんて声をかけていいかわからず、ついそんなことを聞いてしまう。
「消滅させたわ」
紬希は険しい顔で答えた。
「自業自得よ。こっちは力を取り上げるだけで済ませようとしてあげたのに、自分たちでその手段を奪ったんだから」
「……ははっ! そだな。アホすぎたな、あいつら」
緊張が解け、力が抜けていく。
厳つい鎧に身を包んでいたカマエルも、もとの白いスーツ姿に戻った。
「しっかし、クソ強だなお前の天使。もしかしてウチのアリエルも本気出せばあれくらいできんのか?」
「ム・リ☆」
ポン、と目の前に出現したアリエルは、元気よく否定した。
「アリエルさん。あなたの天使階級はおいくつなんです?」
「大天使だヨ」
「わぁ、そうなんですね」
なんだかいい感じの反応を返す紬希。
「なになに、いいの? アタリなの?」
「喜びなさい奏。アンタ、10人に1人の大物を味方にできたのよ」
「おおおお! 俺って選ばれし者! ――そっちのカマエルさんは?」
「能天使」
「って?」
「はー。何にも知らないのねアンタ。いい? 天使階級って――」
下位
中位
上位
「――って感じよ」
「え? ちょっと待って。お前のやつ相当ヤバかったけど、あれでも下から4つめなの?」
「うん」
「てか、俺の下から2つめかよォ……そだよな、1/10って、ガチャでいえばSR程度のレア度だもんな……SRとかすぐ戦力にならなくなるわな……」
「まぁそう気を落とすことないわよ。今回みたいなことがないように執行人さんが仲介してゲームを運営してくれてるんだし。それに珍しいってことは、それだけ相手にもいないってこと。そうそう自分のより強い天使や悪魔と会うことなんてないから安心なさいな」
「隣人がURを引き当ててる状況でそう言われてもな……」
全然安心できねぇ。
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