第4話 渋谷疾走
戦いの火ぶたが切って落とされた。
――と、次の瞬間。
「うるあああああッ! くたばれクソガキャぁぁぁああッ!!」
最初に俺を殺した男が、再び襲い掛かってくる。
俺は反射的に腹を硬化させ、身を守ろうとした――が。
――あれっ……?
世界が回転している――いや。
――回転しているのは、俺……?
大きく宙を舞った俺の首は、ゴツン、ゴツンと床に転がった。
「…………」
俺は再び、無人の世界でビルの屋上に座っていた。
「……おい」
フワフワと浮かんでいる奴を睨みつける。
「また死んだぞ。どうなってる」
「キミ、よっわいね~」
「なに呑気なこと言ってんだ! テメーの能力が弱すぎるんじゃねーのか!?」
「ボクのせいにしたけりゃしてもいいよ。それで状況がよくなるならね」
「なにぃ……!?」
アリエルはまた空中に映像を出現させた。
「あっ……!」
俺がやられたせいで、敵はヒントのドロップを入手していた。
屋上から飛び降りて、一目散にどこかへと走り出す連中。
紬希はその後に追いすがっていた。
「おい、俺はまた生き返られるのか!?」
「大丈夫ダヨ☆ 最初に生き返った時点でキミの体は"エーテル体"に置き換わってるからね」
エーテル体? 疑問がよぎるが今はどうでもいい。
「わかった、じゃあ戻してくれ!」
「無策で戻ってまたやられたら意味ないと思うよ。現にさっそく死んで彼女の足ひっぱったじゃん。すこし観察して打開策を考えてみない?」
「ぐぬぬ……」
どかっと屋上に座りなおす。
「アリエル。お前はどうやら俺よりは少しはこのゲームのこと知ってるみたいだな。助言を頼む」
「かしこまりっ☆」
映像の中では、男たちが一斉にハチ公像に触る様子が映し出されていた。
「どうやら、キミからドロップしたヒントには"犬"とか"像"とか、そんなことが書いてあったみたいだね~」
「あぁ……ヒントって、そういう」
「でもどうやらそれは正解じゃなかったみたい。何も起きなかったね~」
「つーか正解とか正解じゃないとか、誰が決めてるんだ?」
「え? そりゃ、
聞きそびれたがそういうことか。
ルールの決定からゲームの進行、管理までその一切を執り行う――だから執行人。
「……つまり、なにが正解の目標なのかは、あの亜門ってやつが決めてるんだな」
「そゆことだネ」
「お前、あいつとは長いのか? クセとかわかるか? ヒネくれてるとか、どういうものを目標にしそうとか」
「お、いいとこに目つけたね。そゆとこ大事よ」
「いいから答えろ」
「ンー……」
顎に指をあてて考える。
「そんな深い知り合いってわけじゃないんだけど……まぁ、しいて言うならクソ真面目というか、あまり面白みのない人というか……」
「十分だ。じゃあ、あんまし奇抜な目標設定はしないはずってこったな」
「まぁ、そういう傾向はあるかもね。それより注目すべきは制限時間かな」
「制限時間?」
「ウン。彼、言ったよね。"制限時間は2時間"だって」
「……あっ!」
そういうことか。だとしたら、ヒントを10個も20個も重ねなければ見つけられないような、10時間も20時間も駆けずり回らなければ発見できないような目標ではないはず。
つまり、"犬"といったらそれはそう多くないヒントで特定できるような目標なのだ。『○○町の○○さん家の周辺をうろついている野良犬』とか、"像"といって『○○店に売っている○○像で、陳列されているうちの一つ』、とかそんなややこしいものではない可能性が高い。
「像だったら、アレかも……西口のモヤイ像!」
「犬だったら?」
「……電気店の、お父さん像とか……?」
「よし、行ってみようか!」
「へっ、サンキューな。頭さえ使えば、必ずしも戦わなくても勝つ方法はあるってことか」
「フフフ、どういたしまして。じゃ、がんばってねーん☆」
光に包まれ、俺は再び現世へ転送された。
「よし、まずは西口――あれぇ!?」
西口には、既にホスト崩れどもがいた。
「チッ! ここでもねぇ!」
「あっ、あのザコまたPOPしたぜ、やっちまおうぜ!」
俺の姿を認めると、連中がいっせいに襲い掛かってくる。
「おわあああああ! んだよ、無限湧きするモブ敵扱いかよォ!!」
人ゴミに紛れながら死に物狂いで逃げる。
生き返るとはわかっていても痛いのは嫌に決まっている。
駅の中を這いずり回りながら逃げる、逃げる、逃げる。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
静かに公衆トイレの扉を開ける。
連中が追ってくる様子はない。どうやら、逃げ切ったみたいだ。
――クソッ、モヤイ像は違ったか。だったら、お父さん像か!?
電気店へ急ぐ。
「……ウソぉ……」
電気店にも、すでに先回りされていた。
またしても鉢合わせる。
「おっ……また出た」
「今度は逃がさねーぞ!」
「わわわわわ! 待て、待て待て待て! ちょーっと冷静になろうぜ皆様方。こんなところで俺の血ブチ負けると警察沙汰だぜ、いいのか? 捕まってる間にアイツが目標にたどり着いちまっていいのかぁ?」
「知るか」
俺を2度殺した奴がまたしても攻撃を仕掛けようとしてくる。
右腕が青白く光り、手刀のような形をとって手を引いた。
とっさにしゃがんで身を丸くし、頭を硬化させる。
そこに凄まじい衝撃が襲い掛かり、俺は派手に道路に転がり出た。
「――ってぇ……」
が、今度は無事だ。まだ死んでいない。
「うお、みろよケン。あのザコ、リュウジの"拳影"耐えやがったぜ」
――拳影? あのリュウジとかいう男の能力か。
「チッ。ウッゼ……」
男たちがトドメをさそうと出てくるが、車の往来に阻まれる。
俺は車の間を縫って反対側の道へと逃げ出した。
「クッソ……せっかく考えてきたのに、あれもこれも先回りされちまう!」
――そうだ。
よく考えたら、ここは渋谷。あの連中はここをホームグラウンドだと言ってた。
ハナから超・敵に有利な勝負じゃねーかコレ?
「コッチ、コッチ」
逃げ回っていると、路地裏からチョイチョイと手招きするものがあった。
「ハァ、ハァ、ハァ……た、助かった……」
「フフ、お疲れさま」
声の主は、紬希。
苦笑いしながらスポーツドリンクを差し出してくる。
「ップハーッ!」
それを一気に飲み干した。
「あークソ……」
地面に座り込んでうなだれる。
「どしたの?」
「カッコつけて首突っ込んだのに、このザマだよ……なーんの役にも立ちゃしねぇ」
過去のいろんな黒歴史が去来して、頭を掻きむしる。
「あ゛ーーーーーっ!! 最悪だ。ホント最悪。もぉマヂ無理、こーいうの。あー、俺って、カッコ悪ぃ……」
「……そーかな?」
「へ?」
「私を助けようと2度も飛び出してきてくれたの……ち、超カッコよかった……よ」
顔を赤くして、目を逸らしながら言う紬希。
「……キモッ」
ゴチン、と、鈍器のようなもので殴られた。
「ってぇーーーー!! 何すんだこの電波ゴリラ!」
「うっさい! せっかくフォローしてあげたのに、今のはカンペキにアンタが悪いでしょーが!」
――ん? 鈍器……ドンキ……
脳内に電流が走る。
「そうか、わかったぞ!」
俺はスックと立ち上がった。
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