5

 紅葉や銀杏が彩りにあふれた葉っぱを地面に散らしてから、冬の風がわたしたちの住む町一帯へとやってきた。その風は、クリスマスや年末年始を問わず毎日のように吹き続け、ある日ついに町へ大雪をもたらした。




「今日は雪だよ。外で一緒に雪遊びしようよ、ステラ」




 薄いピンク色で統一されたジャンパーやマフラーをまとい、手袋をはめたわたしは、家族以外に誰もいないリビングでテレビを見ていたステラに向けて、声をかけた。彼の視線は、部屋に置かれていたテレビに釘付けになっていた。


 わたしも、ステラと同じようにテレビへと目を向ける。そこには、寒帯の地域でよく見られるフィヨルドが映っていた。翡翠色をした海が、氷河の侵食によって形成されたU字状の谷間に流れ込み、その両脇に針葉樹林の山々が連なっている。まさしく、長い年月をかけて作り出された自然遺産そのものだ。




「ねえユーリ、この星にはこんなにも素晴らしい景色がまだまだたくさんあるんだね。ぼく、この地球がもっと好きになったよ」




 ステラは、顔をテレビの中のフィヨルドへと固定したまま口にする。わたしも、彼の隣に立ったままで応じる。




「そうだよ。この星には、わたしたちがまだ知らない場所がいっぱいあるの。世界っていうのよ」


「へえ、世界かあ。いつかユーリと一緒に、世界のあちこちを行ってみたいな」


「そうね。その時は、ぐるっと世界一周なんてのもいいかもね」


「いいかもね、それ。あっ、そうだ。雪遊び、行こうよ」




 ステラはそう言って、わたしの足元にとことこと移動し、うーんと身体を伸ばして背伸びする。それに合わせて、彼の身体を覆う白いふわふわした体毛がぷるぷると震えた。触れたらとても暖かそうに見えるそれを前に、わたしはテレビへとちらと目線を移す。ちょうど、テレビのカメラが海上に移動したところだった。




「でもステラ、テレビを観てたんじゃ」


「大丈夫だよ。フィヨルドは、またいつか見られるんだし。それに今は、ユーリと一緒に過ごす時間を大切にしたいからさ」


「そう? 分かった。じゃ、行こうか」




 わたしはそう言って、家の玄関へと足を伸ばす。ステラも、わたしの後をついて進む。すると、二、三歩進んだところで、ステラの脚が止まった。




「ごめんよ、ユーリ。仲間からの通信だ。少し待ってて」




 ステラの言葉に、わたしはうん、とうなずく。彼はたまに、地球のあちこちにいる仲間と通信――ステラ曰く、自分たち宇宙人の頭の中から発せられる独特の思念波を用いて会話をするようで、実際にはテレパシーのようなものに近かった――することがあり、わたしはそのことを特に気にも留めなかった。


 ステラが仲間と通信を始める。その間、わたしはテレビの電源を消したり、ハンカチやポケットティッシュを用意したりしていた。


 そのまま数分ぐらいが経過した頃、リビングの中に突如大声が響いた。




「ええっ、そんな!」




 わたしは思わずびっくりして、その声の主の顔を見る。対する声の主――ステラも、わたしがこちらを見ているのに気づいたのか、何事もなかったように再び通信を始め、通信が終わるまで一言も言葉を発しなかった。


 それから後、わたしと一緒に雪遊びをしていたときの彼の表情は、どことなく悲しそうに見えた。

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