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夏休みがやってきた。何週間にもわたって続いていた雨模様はどこかへと吹き飛び、変わりにさんさんと降り注ぐ陽光が、その熱を直に地表へと伝えてくる。
わたしはといえば、冷凍庫に置いてあったカップのバニラアイスを取り出して、それをゆっくりと口に運んでいた。口いっぱいに甘味が広がっていくと同時に、身体中に溜まった熱が徐々に和らいでいくのを感じ取る。
「美味しいっ! やっぱり夏はアイスだよね。熱い時には、のんびりアイスを食べる。こういうのを夏の風物詩っていうんだよ、ステラ」
わたしは、半ば悟ったかのように呟きながらステラへと向き直る。彼は、最近お気に入りのヒマワリの種を無我夢中に食べていた。そんなステラの様子を見ていると、ハムスターによく似た外見も相まって、彼が宇宙人であるということを忘れてしまいそうになる。
ごくん、と口に含んでいたヒマワリの種を飲み込んだところで、ステラが応じた。
「へぇ。地球の夏って、雨が降ったり熱くなったり、のんびりアイスを食べたり、いろいろあるんだね。興味深いよ」
「でしょ。夏はいろいろなイベントが目白押しなんだから。あっ、そうだ。今夜花火大会があるんだ」
「花火?」
聞きなれない単語に、ステラが小さく首をかしげた。そんな彼に対し、わたしは身振り手振りを交えながら説明する。
「花火って言うのはね、夜のお空に、こんなにでっかいお花が咲くんだよ。とってもきれいなんだから」
「空に花が咲くのかい? 初耳だよ」
「咲く……とは言っても、ほんの一瞬なんだけどね。だけど、一度見たら忘れられないとは思うよ。ステラも一緒に、見に行こうよ」
「分かった。どんなものなんだろう、楽しみだよ」
ステラの顔に笑顔が浮かぶ。それにつられて、わたしも笑顔になる。
そんな取り留めのない、だけど笑顔になれる時間が、この先もずっと続くのだとわたしは思っていた。
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