3

 夏休みがやってきた。何週間にもわたって続いていた雨模様はどこかへと吹き飛び、変わりにさんさんと降り注ぐ陽光が、その熱を直に地表へと伝えてくる。


 わたしはといえば、冷凍庫に置いてあったカップのバニラアイスを取り出して、それをゆっくりと口に運んでいた。口いっぱいに甘味が広がっていくと同時に、身体中に溜まった熱が徐々に和らいでいくのを感じ取る。




「美味しいっ! やっぱり夏はアイスだよね。熱い時には、のんびりアイスを食べる。こういうのを夏の風物詩っていうんだよ、ステラ」




 わたしは、半ば悟ったかのように呟きながらステラへと向き直る。彼は、最近お気に入りのヒマワリの種を無我夢中に食べていた。そんなステラの様子を見ていると、ハムスターによく似た外見も相まって、彼が宇宙人であるということを忘れてしまいそうになる。


 ごくん、と口に含んでいたヒマワリの種を飲み込んだところで、ステラが応じた。




「へぇ。地球の夏って、雨が降ったり熱くなったり、のんびりアイスを食べたり、いろいろあるんだね。興味深いよ」


「でしょ。夏はいろいろなイベントが目白押しなんだから。あっ、そうだ。今夜花火大会があるんだ」


「花火?」




 聞きなれない単語に、ステラが小さく首をかしげた。そんな彼に対し、わたしは身振り手振りを交えながら説明する。




「花火って言うのはね、夜のお空に、こんなにでっかいお花が咲くんだよ。とってもきれいなんだから」


「空に花が咲くのかい? 初耳だよ」


「咲く……とは言っても、ほんの一瞬なんだけどね。だけど、一度見たら忘れられないとは思うよ。ステラも一緒に、見に行こうよ」


「分かった。どんなものなんだろう、楽しみだよ」




 ステラの顔に笑顔が浮かぶ。それにつられて、わたしも笑顔になる。


 そんな取り留めのない、だけど笑顔になれる時間が、この先もずっと続くのだとわたしは思っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る