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 その日から、わたしとステラは家や学校などで身近な生活を送るようになった。日を追っていくごとに、彼についていくつか分かったこともある。




 まず、ステラの存在はわたし以外には感知できない、ということ。彼曰く、地球上で生活を送るにあたって自分たち宇宙人が迫害などを受けないようにするための措置であるらしい。そのため、わたしは家族やクラスメイト、先生にステラの存在を口外しなかったし、彼と話すときは決まって周囲に人気がないタイミングを選んでいた。




 また、かつてステラが住んでいた星は環境破壊が進んでおり、ステラたちは新たなる安住の星を求めてこの地球にやってきた、ということ。わたしが最初にそれを聞いたときは、正直なところ半信半疑ではあったが、この話をしていたときのステラの神妙な口ぶりからして、本当なんだと思った。また、ステラがこの星に来たのと合わせて、彼の仲間も地球上のあちこちで各々生活を送っている、とも言っていた。




 そうして、わたしとステラが出会ってから月日はあっという間に流れて、六月になった。梅雨入りしてからというもの、空模様は灰色一色であり、雨は地面に落ちていく勢いを日ごとに変えながらも、止む気配を一向に見せない。




「今日も雨かあ。なんだか、こうも雨に降られたら、いやな気持ちになるよ」




 わたしが、自室の窓越しに景色を眺めながら溜息を吐いていると、ステラがそっとわたしのそばへ寄ってきた。




「そうかな。ぼくには、この雨が地球のありとあらゆるものを慈しんでいるようにも見えるけど」


「まさか。雨に降られたら濡れて風邪を引いちゃうし。それにもう少ししたら台風も来るから、雨が降って良いことがあるとはあんまり思えないよ」




 わたしが嘆息しながらそう口にしていると、ステラは外で降り続いている小雨を黒い双眸に映しながら、どこか哀愁のこもった口調で応じる。




「そんなことはないさ。ぼくたちが以前調査をしてみたら、地球上のおよそ七割は水分で構成されている。ユーリたち人間や動植物は、みんながみんな公平にとはいかなくても、少なからず水による恩恵は受けているはずだよ。生命を育むために、水は欠かせないものだからね。そして、それを今間近で感じられていることこそ、尊いものなんじゃないかな」


「うーん、そういうものかなあ」




 一通りステラの言葉に耳を傾け、わたしは再び窓の先に広がる景色へと目を向けた。雨は、しとしとと音を立てながら、わたしたちの町に降り続いていた。

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