過去ベル

「過去ベル」ってなんだよ。

「運べる」をミスって変な変換しちゃった。

でもせっかくだから「過去ベル」について考えよう。



ベルが鳴った。

過去の僕が助けを求めてきたんだ。

「助けてくれ、古平団地の中でもよおしたけどトイレがない!」

ぼくはメッセージに返信する。

「おちつけ、団地のスーパーの向かいの共同棟に公衆トイレがある」

数分後

「助かったよ」


過去ベルアプリを入れて以来、時々こうして過去の自分からメッセージが届く。

僕が未来の自分に助けを求めることもある。

たわいのないことばかり。

万馬券を教えろなんて言わない。

悪用は厳禁だって説明書に書いてあった。


でもある日過去ベルが鳴ってメッセージを見ると

「釣り船が沈んじゃう。助けて」

だと。


なんだって。あの船に乗ったのか。

僕は腹痛で行かなかったぞ。

見ず知らずの釣り客が死んだだけだった。


僕はなにもできなかった。

「がんばれ」「希望を捨てるな」なんて無意味なメッセージを送っただけ。

「もうダメ」ってメッセージを最後に、過去ベルは鳴らなくなった。


僕は未来に相談を送った。

「どうしよう」

でも返事は来ない。


僕はたった一人。

現在の僕だけになった。

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