過去ベル
「過去ベル」ってなんだよ。
「運べる」をミスって変な変換しちゃった。
でもせっかくだから「過去ベル」について考えよう。
◆
ベルが鳴った。
過去の僕が助けを求めてきたんだ。
「助けてくれ、古平団地の中でもよおしたけどトイレがない!」
ぼくはメッセージに返信する。
「おちつけ、団地のスーパーの向かいの共同棟に公衆トイレがある」
数分後
「助かったよ」
過去ベルアプリを入れて以来、時々こうして過去の自分からメッセージが届く。
僕が未来の自分に助けを求めることもある。
たわいのないことばかり。
万馬券を教えろなんて言わない。
悪用は厳禁だって説明書に書いてあった。
でもある日過去ベルが鳴ってメッセージを見ると
「釣り船が沈んじゃう。助けて」
だと。
なんだって。あの船に乗ったのか。
僕は腹痛で行かなかったぞ。
見ず知らずの釣り客が死んだだけだった。
僕はなにもできなかった。
「がんばれ」「希望を捨てるな」なんて無意味なメッセージを送っただけ。
「もうダメ」ってメッセージを最後に、過去ベルは鳴らなくなった。
僕は未来に相談を送った。
「どうしよう」
でも返事は来ない。
僕はたった一人。
現在の僕だけになった。
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