肋骨レコード

冷戦時代にソビエト連邦やその衛星国では退廃的な音楽が禁止されていた。

だが東側の若者たちは鉄のカーテンの向こうの音楽にあこがれていた。

ビートルズやプレスリーやローリングストーンズ、ビーチボーイズ、エラ・フィッツジェラルド…聞きたいー!


警察に入った情報によると、若者たちの間で西側の退廃音楽の海賊版が流行っているらしい。けしからん。

その海賊版は病院で廃棄される予定だった使用済みレントゲン写真を丸く切ってレコードにしているそうだ。作った奴も買った奴も捕まえろ。


業者が捕まった。

なんだと、海賊版だけじゃなく自作の歌を録音して売ってただと。

それはもっと罪が重くなるな。


おい、業者!なんだこの歌は!

「スターリン最高ー」とか「みんなのフルシチョフをよろしくー」とか

ふざけるな!

せっかく退廃音楽が聞けると思ったら、しょーもない歌を作りやがって。

あ、いや、怒りのあまり口がすべった。

ん?何を青ざめている?

あんな歌を罪状に加えるわけないだろ。

数枚だけ大事そうに特別保管してやがるから何かと思ったぜ。


おい、業者。

お前の反応が変だったから調べたぞ。

お前、あのレントゲン写真を誰から手に入れた!

連邦最高病院のヘンタイスキー医師からだろ。

そしてこのレントゲン写真は有名女優のものだ。

これは大女優リュボーフィー・オルロワたんの手の骨。

こっちはロシアのオードリー・ヘップバーンことタチアナ・サモイロワたんの肋骨。

こっちはリュミドラ・グルチェンコたんの腰骨だと。

ド変態が!

これを知ったときはお前を何としてもシベリア送りにせねばと思ったぜ。

だが最後のこの写真。

あいつのだよな。

あのいかれた粛清マニアの権力者。

ここに脳腫瘍が写ってる。

おまえ、このレントゲンを別の正常な脳のとすり替えただろ。

あいつ近々死ぬな。

…よくやった。


お前の罪状軽めにしといてやる。恩赦もつくだろ。

うん、でもこっちの女優たんたちのレントゲンは没収な。

大事な証拠だから。

いや、権力の横暴とか、当たり前だろ。




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