量子論

俺は常々から言ってるんだ。

物書きぐらい量子力学を実感してるものはいないって。

理解じゃなく実感だ。ここんとこ大事。


例えば俺が小説を書くとしよう。

頭の中に明確なストーリーがあると思うか?

いいや、書き始めるまでそれはぼんやりとした霧みたいなもんだ。

形なんてない、ふわふわのもやもやだ。

タイトルだって何百って単語が現れては消えてゆく。

とりあえず主人公を決めてそいつに何かをさせる。

無理やりひねり出す。

紙に書く。

するとさっきまでふわふわしてた奴が実態を持つ。

そして、ちょっとだけ形が見えてくる。

何万というもやもやの形の候補が何百くらいになってくる。

だけど相変わらずよくわからない。

だから書く。


途方もない回数これを繰り返し、書いては戻る。

また書いては戻る。

そうしてできあがった話・・・奴はさっきまでふわふわのもやもやだったくせに

何年も前から存在した鉄筋コンクリートみたいな顔をしてこう言うんだ。

「おれは最初からこうだったぜ。だってほかの形なんて想像もつかないだろ」


ふ、ざ、け、ん、な。

おまえはさっきまで確率でしか存在していなかったんだ。

それも0.0001パーセントくらいのね。

俺の努力に偶然が加わって今のお前はできたんだ。


だけど奴は認めない。

「おれははじめから100パーセントこうなる運命だったよ。

0.0001パーセントのほうが錯覚さ。

その証拠にここにいるじゃないか」


俺は頭を抱えて走り出し、

二重スリットの両方を50パーセントづつ駆け抜けていく。

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