私達とアタシ達
私と二咲を挑発するかの様に、癇に障る言い方をする双子姉妹。
何度か一緒に仕事をした事のあるこの姉妹。
最初に会った時は、見本の様なギャルだわ……何て思っていたけど、アイドルとしての意気込みはしっかりしていたし、人気も知名度もかなりあった。
けど、まさかその二人が……私達の零を奪おうとするなんて。
それだけは、誰であろうと許す気は無かった。
「御託はいいわ。さっ、零の所へ案内してくれる? 私達三人の家へ帰るの」
「二人は居場所知ってるんでしょ? なら、素直に教えてよ。本当はこんなことしてる時間すらも勿体ないんだよ?」
二咲の言う通り、今すぐにでも零と家に帰って、離れていた時間分、沢山一緒の時間を過ごさないといけなかった。
だから、この双子から聞き出す為に不毛なやり取りをする事も、私達をイライラさせているだけに過ぎなかった。
そもそも、どうしてこの双子がそこまでして零に執着しているのか、理解できない。
だっておかしいでしょ?
零には私という妻がいて、二咲という娘がいるのに……どうしてよりにもよって、私達なのか。
愛し合っている私達を引き裂く様な事をするのか。
……いいえ、今はこんな事を考えている時間も無い。
早くこの双子が、零の居場所さえ教えてくれればいいのに……それだけでいいのに。
「あはは! どうしてアタシ達が零さんの居場所を知ってるって決めつけるんですか? 証拠はあるんですか?」
「やっぱり二人共、仕事のし過ぎで疲れてるんですよ。早く帰った方が良いと思いますよ?」
どうしても、教えてくれるつもりはないらしい。
イライラする……前はこんなに頭に来る事なんて全然無かったのに。
理由は分かってる。
零が傍にいないから。
それだけで、私も二咲も、おかしくなってしまう。
そして今は、もっともっと気が狂ってしまいそうになる……目の前の瓜二つの顔をしたこの子らのせいで。
私は一歩前に出て、双子を睨みつけた。
「これ以上ふざけるのもいい加減にしなさい!私達を引き裂こうなんて貴女達、やって良い事と悪い事の区別もつかないの!?良くそんな考えでアイドルなんてやってこれたわね!!」
怒りが限界に達して、怒鳴り散らした。
今まで女優として活動してきて、他の女優やアイドルにこんな事したしたのなんて初めてだった。
でも、もういい。
零が帰って来るのなら何でもいい。
零が、傍にいてさえくれれば……。
とぼけ顔を晒していた双子が、反撃とばかりか、私に言い返してきた。
「区別がついているから零さんを貴女達から引き離したんでしょ!!可哀そうな零さん、一緒になる相手を間違えちゃって!!」
「!!? 何ですって……もう一度行ってみなさい!!!」
「聞こえませんでしたか? 零さんは貴女達と一緒にいる事の方が可哀そうだって言ったんですよ?」
「こっの!!?」
双子の一人の胸倉を両手で掴んだ。
瞬間、もう一人が私の腕を掴んできた。
双子を睨み、双子に睨まれる。
「兆胡を離して下さい。それとも、女優の数限一臨に暴力を振るわれましたって、記者にでも話しましょうか?」
「ママ止めて!そんな子達、相手にするのも時間の無駄だったんだよ!!」
「ほら、ああ言ってますよ? そろそろこの手、離してもらえますか?」
「ぐぅぅ!!」
突き飛ばす様に胸倉から手を離す。
荒くなった呼吸を落ち着かせる為に、息を吸って吐いてを繰り返す。
私の傍に近寄ってきた二咲が、双子に言った。
「二人共何もかも間違ってるよ!! 零さんが私達といて、可哀そうなんてあるはずじゃない!!零さんは私達を愛してくれたし、私達だって」
「零さんが自分で言ってたでしょ? もうその愛を向けないでって……やっぱり苦痛だったんだよ。 だから、アタシ達がした事は零さんの助けになったんだよ」
「あんなの零さんの本心じゃない!! 二人がそう言わせたんでしょ!? 零さんから愛を向けられた事も無い癖に、私達に嫉妬してたんでしょ!? 本当に可哀そうなのは二人よ!!?」
「なっ!!? 違う!! アタシ達は零さんの事を愛してるし、零さんだってアンタ達の事なんか忘れてアタシ達の事を愛してくれてる!! 零さんを見つけたら、今よりももっともっともっと、誰よりも零さんの事を愛してあげるのはアタシ達なんだからっっっ!!!」
二咲も、双子も、息を切らしても互いに引かない言い合いをしていた。
傍で歯を食いしばっていた私は、自分が以外にも冷静な事に気が付いた。
双子の一人が言った言葉を、聞き逃さなかったのだから。
「……うふふ、うふふふ!!」
「ママ?」
急に笑い出した私を、二咲が不思議そうに見ていた。
双子の方も、眉を顰めながら私を見ている。
私は二咲の肩に手を置いて、今度は私が双子を挑発する様に言った。
「行きましょう二咲、もうこの子達に用は無いわ。二咲も言う通り、相手にするのも時間の無駄だったわ」
双子に背を向けてこの場を去ろうとする私に、最後まで双子に睨みを飛ばしていた二咲が付いてくる。
そんな私達に、双子が懲りない様子でわざとらしく聞こえる様な声で話をしだした。
「やっと帰ったね、京胡! あっ、逃げたの間違いか! あっはは!」
「えっへへ! そうだね~兆胡!」
私はそれが不憫でならなくて、立ち止まって、顔だけ向けて言ってやった。
「そんな事言ってる暇があったら、お家に帰って泣きべそでもかいとくのね……零に逃げられたお子ちゃまちゃん達」
「「!!??」」
「え? どういう事?」
私の言葉に分かりやすく驚きの顔を見せてくれる双子に、まだどういう事か分かっていない二咲。
ここまで言う義理は無いけど、面白いから続ける事にした。
「どうかしたの? さっき自分で言ってたじゃない。零さんを見つけたら……て。貴女達、零に逃げられたんでしょ、私達に散々言っておいて。可哀そうとは思わないけどね」
「くっ!? ……だったらどうだって言うんです!? 零さんを愛しているのも、愛されているのも、アタシ達なんですから、それが結果ですよ!!」
「貴女達じゃ零さんを愛してあげられない!? アタシ達が、零さんを幸せにするんだから!!!」
「うふふふ! もう何を言っても無駄ね。精々、思い出の中で楽しく過ごすのね。行きましょう、二咲」
「うん、ママ」
もう振り返る事も無く、私達は零を探す事を再開した。
背中に突き刺さってくる視線があったけど……今はそれも、私にはマッサージ程度にしか思えなかった。
零を探す手がかりが消えはしたけど、あの双子の元にいないだけマシだわ。
ああ、私達の零。
貴方を見つけた時、私達は自分を押さえられないかもしれない。
でも、貴方ならきっと――――――受け止めてくれるわよね❤
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あの二人がやっといなくなって、京胡と二人だけに戻った。
私は自分が口を滑らせた事を、後悔していた。
あの二人だけには知られてはいけない事を、自分から教えてしまったんだから。
でも、京胡はそんな私を攻めもしないで、また零さんを探すのを続けようと言ってくれた。
分かってるよ京胡。
絶対に、零さんはアタシ達で幸せにして見せる。
あの二人より、絶対に先に見つけ出してやる。
「京胡、次は何処を探す?」
「う~ん、そうだね……もっと遠くまで、かな」
「えぇ~、それじゃあ分かんないよ~」
「えっへへ! 大丈夫だよ! アタシ達の行く所に、絶対に零さんは待ってるから」
「あっはは! そうだね! きっとそう!」
愛する零さん。
アタシ達にとって、ただ一人の大切な愛すべき零さん。
アタシ達は双子なんだから、二人分――――――愛してくれるよね❤
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