絆と遭遇

幸せだと確信した瞬間、なんで急に不幸の底の底に落とされなくちゃいけないのかな……。

 なんで、そうであってほしいと思った願いが、叶わないのかな……。

 愛するあの人は……一体何処へ行っちゃったんだろうかな……。

 ステージでも出した事の無い声を上げて、アタシと京胡はへたれ込んでいた。

 どうして、零さんの事をこんなにも愛しているのに、零さんはいなくなっちゃったんだろう?

 何か気に入らない事でもしたかな?

 美味しいって食べてくれてた料理が、本当は口に合わなかったのかな?

 交代制でって決めてた家事を、殆どアタシ達がやっていた事かな?

 それとも、初めてのシた時、気持ちよくなかったのかな?

 分からない、分からない、分からない。

 その答えを知っている零さんが……アタシ達の傍にいない。

 

 「兆胡」


 アタシと同じ様にヘタレ込んでいた京胡が口を開いた。

 

 「……何」


 京胡を見る事もせずに返事を返す。

 そんなアタシに、京胡は言った。


 「零さん、探しに行こ」


 京胡の言葉に、やっと顔を上げる。


 「何処に? 零さんが何処に行ったかなんて、分からないのに」

 「分からないから、探しに行くんだよ?」

 「……」

 「大丈夫だよ。きっと見つかるから。絶対……見つけるから」

 「京胡……」


 さっきまで一緒に叫び声を上げていた京胡。

 なのに、今の京胡からは、何が何でもと思わせる感じが伝わって来る。

 京胡は凄い。

 アタシが困ってたり、迷っていたら、こうするべきだと的確に教えてくれる。

 今だって、こうやってアタシを立ち上がらせてくれた。


 「……うん、そうだよね。探しに行こ……零さんを」

 「うん」


 京胡に元気を貰ったおかげかな……冷静になって考えてみたら簡単な事だった。

 きっと零さんは、愛に飢えているんだ。

 アタシ達の愛が足りなかったから、だからきっと、出て行っちゃったんだ。


 「ねぇ京胡」

 「ん? 何、兆胡?」

 「零さん見つけたらさ、今よりもっともっとも~っと零さんの事……愛してあげよう」

 「……もち。もう出て行かない様に、いっぱい愛し合おうね」


 京胡も何となく、零さんが出て行った理由に感づいている様だった。

 以心伝心って言うんだっけ?

 あはは、双子って凄いね。

 同じ人を愛して、同じ事考えて、同じ幸せを望んでる。

 だから零さん、アタシ達と一緒に……もう一度幸せになろうね❤


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 兆胡と家を出て、もう1時間が経った。

 家の周りから、零さんがいそうな場所、一緒に行った事がある場所と探してみたけど、簡単には見つからない。

 念入りに変装をして来たから、人混みの多い場所にも行ってみたけど、やっぱり見つからなかった。

 短時間でいつもより体力を使いすぎたせいか、もう疲れてきた感じがする。

 でもこれくらいでダウンなんてしない。

 零さんを見つけ出すまで、倒れてやんない。

 チラッと兆胡を見る。

 アタシと同じ様に汗だくになりながらも、必死に探し続けている。

 兆胡は凄い。

 いつも言い出しっぺなのは大抵アタシなのに、そのアタシよりも頑張って突き進んで、兆胡のおかげで収まりがつく。

 兆胡の必死な姿を見ていると、またやる気が出てくる。

 絶対に零さんを二人で見つけ出そう。

 それから、二人で零さんの事を沢山、沢山、沢山愛してあげよう。

 お風呂だって一緒に入るし、眠る時だってこれから一緒、行為に励むのだって……アタシ達二人一緒じゃないとダメ。

 

 「兆胡」

 「え? 何、京胡?」

 「仕事少し減らしてもらってさ、その分零さんとの時間増やそうよ」

 「……それ、ナイスアイデア❤」

 「えっへへ❤」


 零さんの為なら、零さんがずっと傍にいてくれるなら……アイドルなんて辞めたって良い。

 零さんは何て言うかな?

 やっぱり、そんなのダメだと言ってくれるのかな?

 でもね零さん。

 アタシ達にとって一番大事な事は……零さんと幸せになる事なんだよ?

 だから零さん、アタシ達と一緒に……もう一度幸せになろうね❤


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 もう陽が落ちて来た。

 これだけ探しも見つからないんじゃ、もっと遠くに行ったかもしれない。

 アタシ達の行った事も無い様な遠い所まで。

 近くにあった公園に来たところで少し休憩。

 誰も周りにいないのを確認して、二人で帽子や眼鏡を外して、顔に涼しい風を受ける。

 一息ついて、二人で話し合う。


 「もしもさ、今日見つからなかったら、明日の仕事さ……」

 「休むよ。次も、その次だって」

 「あっはは! 流石、アタシ達双子だね。考えてる事は一緒だ!」

 「えへへ! まぁね!」


 いっその事、長期休暇でも取ろうか。

 自分で言ったその言葉で、ある事を思い出した。

 あの二人も、長期休暇を取っていた事を。

 そんな事、番組スタッフの誰かが話していたっけ。

 今頃、あの二人も零さんの事を血眼になって探し回っているんだろうな。

 だけど、


 「……」

 「……」


 見つけるのはアタシ達の方が先だ……そう思っていたら、隣にいる京胡の目つきが鋭くなった。

 京胡だけじゃない、そんなアタシも途端に眉間に皺を寄せる。

 そして、いつの間にかアタシ達の前にいたこの二人からも……とても良いとは言えない感じが伝わって来る。


 「こんな所で呑気にしてるなんて……余裕でもかましてるのかしら?」

 「その余裕ついでじゃ無いけど……零さんを返してよ。二人共」


 この二人のしつこさには呆れてしまう。

 こんなだから零さんにも逃げられるんだね。

 立ち上がって、二人で言い返す。


 「悪いんですけど、貴女達に構ってる暇なんて無いんですよ。」

 「そうそう。折角の長期休暇なんだから、家に引きこもってたらどうですか?」


 お互い、引くわけにはいかない立場。

 この二人には、零さんは渡さない。

 京胡もそう思ってる。

 頭にくる事に、目の前の二人も、同じ事を考えているんだろう。

 公園の街灯が明かりを灯し、ステージに立つ時の様に、アタシ達四人を照らしていた……。

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