涙と愛

陽が昇っている。

カーテンも開けず、部屋の中に一切の光も入れていない。

そんな部屋の真ん中で座り込んで、頭を抱えているのは……俺。

苦いものを噛み砕いた様な顔をしながら、両隣を見る。

そこには、何も身に着けていない兆胡ちゃんと京胡ちゃんが、幸せそうな顔をして眠っている……。

……やってしまった……。

好意を打ち明けられ、どうする事もできないまま、二人に押し倒されて……そして―――。


「くっ……!違う、俺は!こんな事……!」


脳裏に焼き付いて離れない二人の姿。

俺の上で果てる二人の姿。

気持ちよさそうな顔で、俺を離そうとしない二人の姿。

思い出したくないと、頭をグシャグシャと掻きむしる。


「!?……え」


腰に違和感を感じ、横を見る。


「おはよう、零さん❤」

「起きるの早いね❤」


起きていた二人が、トロンとした瞳で俺を見つめていた。

起き上がった二人は、自分の頭を掻きむしっていた手を取り、両手で包み込む。

優しく触ったり、時折握ったりを繰り返している。


「アタシ達、一つになったね❤」

「っ!!……ん」

「気持ちよかったね❤」

「き、聞かないでよ、そんな事!」

「えへへ❤いいじゃん、今更だよ❤」


肩に寄り添ってくる二人。

幸せそうな二人を見ても、俺は笑顔になんてなれなかった。

また、過ちを犯してしまったから……。

あんなにダメだと口にしておいて、いざとなったら簡単に流されてしまう。

俺は何をやっているんだろうか。

どうして、こうなるか……分からない。

誰も、教えてくれはしない。


「じゃあアタシ達、朝食の用意してくるね❤」

「あ……俺、が」

「零さんは休んでて❤出来たら呼ぶね❤」

「う……ん」


脱いだ衣服を持って、二人は部屋を出て行った。

一人になった俺は、カーテンで遮られた窓を見る。

外の光が漏れている。

そこにいけば、俺は自由になれるかな……。

涙が、頬を伝った。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


電気も点けずに、リビングに蹲(うずくま)って座り込んでいる二つの影。

足元には、ビリビリに破かれた紙屑が散っていた。


「……」

「……」


一言も喋る事も無く、顔を伏せているだけ。

でも、考えている事は同じ事だと分かっていた。

頭と耳から離れない、愛する人が言った言葉。

「自分の意志」だと……。

その後に言った、酷く突き刺さって引き抜けない言葉。

「その愛を―――」

思い出したくない。

なのに、消えてくれない言葉。

信じたくない……私達の傍に、居てくれない事が。

あの双子に、連れて行かれた事が。


「ママ」


私の隣で同じ様に蹲っていた二咲が、消えそうな声で私を呼んだ。


「なぁに、二咲」


お互い酷い声だった。

二人して泣き明かしたんだから、当然と言えば当然。


「零さん、どうしてるかな」

「……分からないわ」


ようやく見つけたのにあの双子に邪魔されて、人だかりから抜け出せた時にはもう姿は無かった。

その後も探し回ったけど、ダメだった……。


「ママ……私、ママに謝らないといけない事があるの」

「え?謝るって、何を」


伏せていた顔を上げて、二咲の方に顔を向ける。

二咲は顔を伏せたまま、私に話した。


「私ね、零さんの事……一人の男性として愛してるの」

「……」

「こんな時に話す事じゃないけど、ママに隠し事は嫌だなって思って……」

「二咲……」


顔を上げて私を見た二咲の顔には、涙の跡があった。

二咲の見ている私の顔にも、同じ様な跡があると思った。


「ごめんなさい……ママの愛する人に、こんな感情持ってるなんて……え、ママ?」

「……」


謝る二咲の肩を抱いて、目を見つめる。


「ねぇ二咲、ママもね、謝らないといけない事があるの。」

「え、ママも?」

「うん。あのね、二咲の零への気持ちは前から知ってたの。部屋でしてた事も。」

「!?」

「けどね、止めようとは思わなかった。零の事愛してるって気持ちは、痛いほど良く分かるから。」

「……ママ」


驚いた顔をしていた二咲。

でも、私の話に耳を傾ける事は忘れていなかった。


「ねぇ二咲、ママね、零にあんな事言われたけど、諦めるなんて事はしないわ。確かに苦しくて悲しくて泣いちゃったけど……それでも零を愛してるもの。」

「……」

「二咲、貴女はどう?零の事、愛してる?」


二咲の目を見ながら問いただす。

傍から見れば異常な光景。

母親が、実の娘に聞く様な事じゃない……でも、これで良い。

だって……、


「うん、愛してる……私も、零さんの事を愛してる!私も、諦められないよぉ!」


私の愛した人を、この娘も心の底から愛しているんですもの。

誰が、この愛を止められると言うの?

私達には、零しかいないんだから、これは当然の事……狂ってなんかいない。

寧ろ、狂っているのはその愛を縛り付けている方。

何で愛を我慢しなくちゃいけないのかしら?


「じゃあ、今度こそ……迎えに行きましょう。」

「うん、今度こそ……連れて帰る。」


もう何を言われても、突き放されても……貴方を離さないわ。

愛の前だと、障害なんて何もないものね。

そうでしょう――――――零❤

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