双子の告白と双子の想い
一臨と二咲ちゃんに出会ってしまった日の夜。
夕食を終えて、昇家のお風呂で汗を流していた。
湯船に肩まで浸かって、今日一日に得た疲れを取る。
「はぁぁ~。」
溜息にも似た息を吐いて落ち着く。
湯船の中で、あの二人に掴まれていた場所を触る。
「……。」
まだ、掴まれている様な感覚がする。
気のせいだと、その感覚を消し去る様に、ゴシゴシと手で擦り紛らわせた。
「はぁ。あっ……そう言えば、兆胡ちゃんと京胡ちゃんの様子も変だったけど、大丈夫かな?」
夕食の時も、いつもなら自分達のおかずを俺に食べさせてきたりするし、今だって、お風呂に入っている時には何も言わずに入ってきたりするのに……。
今日は帰って来てから全くそんな事をしてこない。
それが普通の事なんだけど、いつもしてくる事をしてこないというのが不自然というかなんというか。
「何言ってるんだ、俺。これが普通なんだからそれでいいだろ……。」
そうだ、これが俺の求めていた普通の生活。
平々凡々に暮らしているだけの日常。
いや、アイドルの家にお世話になっている時点で普通とは言い難いから、普通一歩手前くらいか?
あまり顔には出ないが、兆胡ちゃんも京胡ちゃんも、きっと今日は疲れているはずだ。
何もしてこないくらいには。
「もしかして様子が変だったのも、疲れてたからか?」
だとしたら、やはりそっとしておくのが良いだろう。
無理に元気付けようとしても、逆に鬱陶しいだけだろう。
明日も学校で朝も早いはずだから、俺が朝食を作ろう。
体を念入りに温めて、二人を労う事を考えていた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
お風呂から上がって、二人には今日はもう眠ると伝えてから部屋に戻った。
二人は勉強していたみたいで、教科書やノートを開いて、お互いに教え合っている様だった。
アイドルと学業を両立させるのは大変な事だけど、その点二人はしっかりしている所を見ると、とても立派に思えた。
歳も離れているせいか、何だか親目線になってしまう。
「ふぁ……う、良し、眠るか。」
部屋の照明を落として、横になる。
明日からはまた、何事も無く過ごすんだ。
湯船で温まった甲斐もあり、横になってすぐに眠りについた……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
零さん……
誰だ?
零さん……
誰かが、俺を呼んでいる。
零さん……
あれ?
俺は今、何をしていたんだっけ?
分からないけど、呼ばれてるから。
――――――行かないと
「……ん、んんぅ。」
目を開ける。
真っ暗な部屋の中。
夢、か。
眠ってからどれくらい時間が経ったのか。
傍に置いてあったスマホに手を伸ばした。
「零さん。」
「っっ!!?」
後ろから声がして、驚いて飛び起きる。
その拍子に、スマホが手に当たって遠くに滑って行ってしまった。
暗闇にも目が慣れてきた時、ぼんやりとだが、相手の顔が見えてきた。
「ちょ、兆胡ちゃん?」
何故か、部屋の中には兆胡ちゃんがいた。
寝巻に身を包み、俺を見ている。
「ビックリした……どうか、したの?」
「ごめんね、驚かせちゃって。あのね、話しておきたい事があって。」
話?
まだ外も暗い、眠っていた俺を起こしてまでする話。
今日様子が変だったのと、関係があるのかもしれない。
疲れていたからじゃ、ないのかもしれない。
そう思うと、そっとしておこうと思っていた気持ちは何処へやら、心配になって兆胡ちゃんの話しに耳を貸す。
「今日さ、零さんが言ってたでしょ?アタシに冗談でも愛してるって言われてドキッとしたって。」
「えっ、あぁ、うん……言ったけど」
「それさ、冗談なんかじゃ無いよ。」
「兆胡、ちゃん?」
手をついて近寄って来る兆胡ちゃん。
冗談じゃ、無いって……。
「抱き着いたり、匂い嗅いだり……零さんは度が過ぎたスキンシップ程度にしか思ってなかったかもだけど、あれでも我慢してる方なんだよ?」
ぼんやりとしていた兆胡ちゃんの顔が、今度はハッキリ見えるくらいの距離までくる。
「流石にアタシでも、冗談であんな事言わないよ?」
いつもはイタズラな笑みを浮かべている顔は、惚けきった顔をしていて。
「本当に零さんの事、愛してるんだよ。」
「あ、えっ、……兆胡、ちゃ」
「それでも信じてくれないなら―――」
暖かい手が頬に添えられて……そして、
「信じさせてあげる❤」
兆胡ちゃんの顔が、俺の視界全てを奪った……。
「っちょっ、待って兆胡ちゃん!?」
兆胡ちゃんの唇に触れてしまうと思った瞬間、俺は兆胡ちゃんの肩を押さえて止めた。
後、もう少し止めてるのが遅かったら……。
急激に跳ね上がる心臓の動き。
静な部屋の中に、俺の心臓音が響いてしまうんじゃないかと思うくらい脈打っている。
それがバレない様に、兆胡ちゃんを止める。
「何で止めるの、零さん。」
「ダメだよ、兆胡ちゃん!こんな事しちゃ!」
「何で?零さんの事愛してるのに……。」
「あ、あのね?それはきっと一時の感情なんだよ。今その感情に流されて行ったら、この先きっと後悔する……だから、俺なんかじゃなくて、ちゃんと恋愛して……」
「何それ」
俺の話を遮り、兆胡ちゃんが俺に向けた事のない顔で掴みかかってきた。
怒っているような、悲しんでいるような、中間の顔。
「違う、違うよ!一時の感情なんかじゃない!本当に零さんの事を愛してるの!!この感情が間違いじゃないって事くらい、アタシにも分かるよ!」
「……」
「あの二人よりも零さんの事を愛してる!!アタシには……ううん、アタシ達には零さんしかいないんだから!!」
「えっ……達?」
兆胡ちゃんの言った言葉に疑問を抱いた時、背中に違和感を感じた。
後ろに誰かいる。
そう感じた時には、後ろから抱き着かれていた。
「アタシも零さんの事、愛してるよ❤」
「京胡、ちゃん……」
ずっと部屋の中にいたんだろうか、京胡ちゃんが背中にピタリとくっついてくる。
「零さんが現場に良く顔を出していた頃、初めて出会った時からずっと……アタシ達は零さんの事……」
初めて、出会った時?
二人とは、まだ幼かった二咲ちゃんを現場まで俺が送り迎えしていた時に出会った。
現場がよく被っていたから、その頻度も多かった気がする。
そんな、そんな前から……俺を。
「子供心に芽生えた好きって気持ちは今も変わってない!寧ろ大きくなった!アタシ達の気持ちは本物だよ、零さん!」
「アイドルだからとか関係ない、抑えられないんだもん……零さんへの気持ち。」
「……俺は、俺……は」
何を言ったら良いのか、どう返すのが正解なのか、打ち明けられた二人の想いを前に、俺は困惑する事しかできない。
情けない大人だ。
どうしたら良い。
受け入れる事もできない、突き放す事もできない……いやそれ以前に、そんな事を考えられる余裕も無い。
ならどうなるか……。
「だからもう良いよね、我慢しなくて。ずっとずっと待ってた。零さんには奥さんがいても諦めきれなかったこの気持ち……今の零さんなら何も問題無いもんね❤」
「大丈夫だよ零さん❤何にも悪い事じゃないんだから❤ただ、これからもアタシ達の傍にいてほしいだけ……ずっとずっと、ね❤」
「待って、二人っ……!?」
もう何も言えなかった。
二人に身動きを封じられ、交互に唇を奪われたから……。
でもそれだけじゃ、我慢してきたと言う二人は……満足できないみたいだった……。
――――――――――――――――――――――――――――「愛」が、迫る音がした
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