約束と足音

夕食後、洗い物はアタシがすると言い、京胡ちゃんが名乗り出た。

まぁ、ボタンを押すだけだと兆胡ちゃんが茶々を入れていたが・・・。

お腹一杯に膨れたとこで、リビングでまたくつろいでいると、ガシッと後ろから肩を掴まれた。

驚いて振り向いた瞬間、京胡ちゃんの顔がすぐ横にきていた。

・・・唇を突き出した状態で・・・。


「うわっ何、京胡ちゃん!!?」

「お礼❤さっきできなかった分とは別で~❤」


ググッと近づいてくる京胡ちゃん・・・・・・体制的にもこれ以上、下がる事ができない・・・。

何とか顔だけ反らしていると、膝に圧し掛かる影が・・・・・・。


「んなっ?!兆胡ちゃん!?」

「あ~!!ズルい兆胡!!」

「それはアタシのセリフだし!一人だけ抜け駆けして~・・・ねぇ零さん❤」


この二人は俺を挟む使命でも与えられているのだろうか・・・。

朝は左右から、今は前後から・・・その度に俺は心臓が飛び出そうで気が気でない・・・。

そんな事を考えている場合では無いと、二人を止めようとしたところ、兆胡ちゃんに顔を手で挟まれた。

そして、兆胡ちゃんの顔が俺に近づいてきて・・・・・・。


「零さ~ん❤」

「むぅぐ~!!?ぢょうごぢゃん!!やめで~??!」

「兆胡、次アタシ!!アタシの番だからね!!」


誰か助けてくれと願うも、この家には他に誰もいないので、そのまま兆胡ちゃんの唇が・・・俺の唇に・・・・・・。


「・・・零さん。」

「ふぁ・・・なに・・・?」


ピタリと動きを止めた兆胡ちゃん・・・・・・俺の目を見て話す距離間は人差し指1本分くらいしか無く・・・。


「アタシ達のお願いも聞いてくれる?」

「おね、がい・・・?」

「うん❤お願い❤」


兆胡ちゃんが口を開く度に、兆胡ちゃんの吐息が俺の唇に当たる・・・。

意識しない様に、兆胡ちゃんの話に集中する・・・。


「今度の週末に、三人でデートしようよ❤」

「で、でーと?」

「そう、デート❤休日で学校も休みだし、仕事もオフだし。京胡と話したんだけどさ、零さん、今スマホ使えないでしょ?」


確かに俺のスマホは、壊れているわけではないが、電源を入れる事が出来ない為、使う事はできないでいる。

まぁ、普段からスマホを弄る事もあまり無かったから別にどうというわけでもないのだが・・・。


「だからね、新しいスマホを買いに行こうよ❤その後は、三人でデートしよ、ね❤」

「零さんとデート❤良いよね❤」

「いや、でもそれは・・・まずい・・・よ・・・。」


別々に行動するならまだしも、二人と一緒にいる所を見られるのは・・・。


「ちゃんと変装するから!それなら良いでしょ?」

「そうだよ、バレなければ良いんでしょ?」

「そう、だけど・・・・・・。ごめん、やっぱり・・・。」


変装しても大丈夫か分からない・・・隠しきれないオーラがある。

声でバレる可能性だってある・・・。

二人のお誘いは嬉しいが、一緒に行くなんてとてもじゃないが・・・。


「・・・ふぅ~ん、そっかぁ~・・・なら、週末もこうやってくっついていよっか~❤」

「へぁえ!?」

「・・・えへっ❤そうだね~、アタシはそれでも良いと思うよ❤」

「だよね❤後~、こうやってチューだっていっぱいして~❤」


兆胡ちゃんが少し動いたのを感じて、俺は咄嗟に顔を背ける・・・。

けで、このままでは頬に兆胡ちゃんの唇が・・・。

迫って来るのが分かる、もう・・・後少しで・・・。


「わわ、分かったよ!?行くからっ!?週末一緒に出かけるよ!!」

「デート!」

「デ、デートに行くよ!!」

「あっはは❤楽しみにしてるね、零さん❤」


兆胡ちゃんの唇は、俺の頬に触れる事は無く、そのまま俺の耳元へと来た・・・。

後ろにいる京胡ちゃんも兆胡ちゃん同様に、反対の俺の耳元へ唇を近づけて、クスクス笑っていた・・・。

小悪魔・・・いや、悪魔だ・・・・・・言えば閻魔になるであろう言葉を、胸の中に縛った・・・・・・。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


やってきた週末、言った通りにしっかり変装している二人と並んで人通りの多い場所を歩いている・・・。

家を出る前から心臓がバクバク高鳴って仕方がない・・・。

バレないか、バレたらどうしようか・・・そんな事ばかりが頭を過る・・・。

比べて二人はやはり呑気なもので、俺を間に談笑していた。

ここまで無関心だと、俺の方が心配しすぎなのではと疑いが生じてくる。


「あれ、どうしたの零さん?浮かない顔して。」

「いやだって・・・やっぱり心配で・・・。」

「大丈夫だよ、バレてないから。楽しんで行こ❤ホラホラ❤」

「あぁ、ちょっと待って二人共!?」


二人に手を引っ張られながら、小走りで駆けてゆく・・・。

後ろから見ても、二人が輝いて見えるのは・・・何か引き付けるものがあるからなのだろうか・・・。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「良しと、これでオッケー❤」

「はい零さん、返すね❤」

「うん、ありがとう。」


無事に新しいスマホを購入して、互いに連絡先を交換し終える。

これで何か分からない事があっても、二人に連絡が取れる。

まぁでも、二人共忙しいから、頻繁に連絡ができるわけでは無いかもだけど・・・。


「これで学校からでも仕事場からでも、零さんの声を聞く事ができるね❤」

「顔を見ながらだって話せるよ❤」

「それが良いかも~❤」


二人は掛ける気満々の様だ・・・・・・。


「さってと、じゃあ零さん、デートの続きしよっ❤」

「行こう行こう~❤」


座っていたベンチから立たされて、二人に連れられて行く。

目的地は決まっていなかったが、二人が楽しそうに目に付いたお店に入り、店内を見て回ったりしているのを、俺は傍で見ていた。

この服が可愛いとか、ここのタピオカが美味しいとか、ここのクレーンゲームは取るのにコツがいるとか・・・本当に楽しそうにしていた。

そんな二人を見ているだけでも、楽しさが伝わって来たのだろう・・・・・・俺も一緒になって笑っていた。

どれくらい遊び回っただろうか、こんなに遊んだのは久しぶりだったから、ちょっと疲れて来た・・・俺も歳だからなぁ・・・。


「う~~ん楽しいねぇ、零さん❤」

「うん、そうだね。俺もこんなに遊んだのは久々だから、楽しいよ。」

「えへへ、良かったぁ❤・・・でも、ちょっと疲れてきたからさ、少し休憩しよっ?」


俺の事を気遣ってくれたのか、二人は傍にあった休憩できそうな場所まで俺を連れて行った。


「零さん、アタシ達ちょっとお手洗いに行ってくるね!」

「ここで待っててね、すぐに戻るから❤」

「分かったよ、待ってるから、急がなくても良いよ。」


二人は揃って駆け出していき、すぐに姿は見えなくなった。

人通りの少ない場所で、一人残された俺・・・。


「ゆっくりで良いのに・・・ははは・・・。」


ベンチに腰掛けて、スマホの画面を見た。

そこには三人で映った壁紙が表示されている。

さっき二人の提案で撮った写真を、三人お揃いでと、壁紙にしていた・・・・・・本当は止めるべきだったけど、二人も気を付けるからと言っていたから・・・それ以上は何も言えなかった・・・。

画面を見ながら物思いに耽る。

強制的だったとはいえ、今の家での生活は悪い事ばかりでは無いかもしれないと・・・。

前に様に外出が制限されている事もないし、ビクビク怯える事だって無い・・・。

ただ、頻繁にスキンシップを図って来るのは・・・ちょっと困るけど・・・。


「スキンシップって域を超えてる気もするけどな・・・・・・。」


いつまで居られるかは分からない・・・。

出て行くまでにお金も貯めて、それから家も探して、それから・・・・・・。

今からでも考えておいた方が良いと、二人の家を出た後の事を考えていた・・・・・・すると、こちらに近づいてくる足音。

二人が戻って来たんだと、顔を向けた。

ゆっくりで良いって言ったのに、と声を掛けようとした・・・・・・、


「・・・・・・・・・ぇ」


言葉は形を変えて、小さく漏れただけだった・・・。

だっておかしいんだから・・・・・・そうなるだろう・・・。

そこに二人はいなかった・・・いや、二人いた・・・。


「零❤」

「零さん❤」


正し・・・・・・、


「「み~つけたっ❤❤」」


俺の待っていた二人では無かった・・・・・・。

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