選択と諦め
家を飛び出し、これからの事を考えていたところで掴んだ運。
住む家を紹介してくれると言う双子姉妹に付いて来てみれば・・・本当に、俺は今現実にいるのか?
これは夢か?
本当の俺はまだ、前の家で眠っていて、家を出てすらいないんじゃないのか?
でなければ・・・俺は今、一体何に直面しているんだ・・・。
双子姉妹の、・・・しかも人気アイドルユニットの家に連れて来られて・・・・・・何を聞かされているんだ・・・?
「ごめん、二人共・・・言っている事が・・・理解できないよ・・・その、えっ・・・?」
理解はできている、二人と二回りも三回りも歳の離れた大の大人が、理解できない話の流れではなかったんだから・・・。
でもだからこそ・・・理解できても尚、理解した事が消し飛んだ・・・。
・・・つまり、理解しちゃいけないと思った・・・。
「零さんは住む家を探してるんでしょ?だからアタシ達の家で一緒に住めば良いよ❤」
「零さんがずっと一緒にいてくれたら、毎日が楽しくて幸せになると思うんだよねぇ~❤」
後ろに一歩引く・・・・・・二人が自分達の立場を分かっていないはずが無い・・・なのに何で、そんな事を口にできるのか・・・それだけは理解できずにいた・・・。
「何言ってるのか、分かってるの・・・?前にも言ったけど、こんな事しちゃダメだよ・・・。アイドルの二人が一般人の俺と家の前にいるってだけで見られたらマズいのに・・・一緒に住むなんて無理だよ・・・。」
また一歩、後ろに引いた・・・。
そのまま距離を取り、一言お礼だけ言って場を去ろうとした・・・・・・けど、家まで連れて来た二人が、簡単に帰してくれるはずもなく・・・。
「良いじゃん別に~!家主であるアタシ達が良いって言ってるんだから、アイドルだからとかは関係ないでしょ?一先ず家の中に入ろうよ、ほらぁ❤」
「いや、だから家主でもマズいんだって!ねぇ京胡ちゃん!」
京胡ちゃんに手首を掴まれて、強引に玄関先まで引っ張られそうになる。
踏みとどまる俺と意地でも引っ張る京胡ちゃん・・・一人相手なら何とかなったた・・・・・・しかし、相手は双子・・・もう一人いるわけで・・・。
「話なら中で聞くから!ここまで来たんだから寄って行くぐらいなら良いでしょ?お願い~❤」
「あっ、待って!兆胡ちゃん!」
もう片方の手首も兆胡ちゃんに掴まれ、ズルズルと引っ張られて行く。
二人相手に、簡単に敷地内にまで引っ張られてしまう・・・。
それでも抵抗する俺に、二人がとんでもない事を呟いた。
「・・・こんなところ見られたらマズいんでしょ?家に入ってくれるまでここで立ち往生してても良いんだよ・・・誰かに見られるまで。」
「な、何言ってるの京胡ちゃん!?」
「アタシ達、零さんを帰す気なんて無いよ?どうする、このままバレるまでここにいる?それとも、家に入ってくれる?」
「兆胡ちゃんまで・・・!?」
入っちゃダメだ・・・そんな事すれば、二人の思う壺だ・・・。
アイドル云々もそうだが、別れたばかりの俺が、その日に娘と同い年のアイドルの家に入るなんて以ての外だ・・・・・・だが二人からは、本気だというような気迫を感じる・・・。
選択肢なんて、無い様なものだった・・・・・・。
「・・・・・・本当に、ちょっとお邪魔するだけだよ・・・」
「うんうん❤ほら、入って零さん❤」
「ようこそ、昇家へ~❤」
俺の言った事は聞いてくれていたのか・・・前から引かれ、後ろから押され、俺は家に足を踏み入れてしまった・・・・・・。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ぬいぐるみやファンシーな飾り、ファンレターと書かれた段ボールなどが置かれたリビングで、敷かれている、可愛らしいピンクと白のマットの上に座りながら出されたジュースを飲んでいる。
まだ俺が逃げるとでも思っているのか、俺の真横に居座る二人・・・。
チューチューと、ストローでジュースを飲みながら俺を見ている・・・。
「・・・あの、ご両親は?」
「この家に住んでるのはアタシ達だけだよ。」
「今通ってる学校から近い方が良かったし、両親は二人共、中々家には帰って来れないから、実家で一緒に住んでた時とあんまり変わらないけどね~。」
聞けば、二人のご両親はシステムエンジニアの仕事をしているらしく、滅多に家には帰れないそうだ。
二人だけで暮らしていく事も心配していた様だが、二人が大丈夫だと押し切ったらしい・・・。
「だからぁ、一緒にこの家に住もうよ零さん❤」
「好きに使って良いんだよ?部屋だって余ってるし、ねぇ❤」
今の話を聞いて、すぐにでもここを出て行きたい気持ちに駆られていた俺に擦り寄って来る二人。
まだ残っていたジュースを一気に飲み干し、近くに置いてあったカバンを手にする。
「ご馳走様でした。・・・じゃあ俺はこれで・・・」
そそくさ帰ろうとする俺。
そんな俺を見て、二人は頬を膨らませながら俺の首に手を回して来た・・・。
「なんでなんで、一緒に住もうよ!!悪い話じゃないじゃん!!」
「零さんはアタシ達の事嫌いなんだ!!」
「違うって!ちょっとお邪魔するだけだって話だったから・・・うわっ!ちょっ、何してるの!?」
腕と腰に二人の脚が絡み付く・・・きつく絡む二人の脚は、ムニっと柔らかさがありつつも、しっかりと張りがある。
抜け出せないでいた俺は、簡単に横に倒された・・・。
「やっぱり零さんっていい匂いするね❤」
「落ち着くって言うか、安心する・・・みたいな❤」
髪やら首筋、胸にまで顔を埋められ匂いを嗅がれる・・・それがどれだけ恥ずかしい事か・・・。
尚も拘束は緩まない・・・。
「やめ・・・二人共離して!?」
「住むって言うなら離してあげる。・・・あっ、でもアタシはこのままでも良いかも❤零さんとくっついていられるし~❤」
「もう諦めようよ零さん。大丈夫だよ、誰にもバレない様に気を付ければ良いじゃん・・・ねぇねぇ❤」
「ふ、二人の気持ちは嬉しいけど、本当にダメな事なんだよ・・・!?バレない様にしてても、バレる事くらい分かるでしょ!?」
身動ぎ、抵抗する動きを止め、何とか二人に分かってもらえる様に話す。
けど、それでも二人の考えは変わらない・・・。
何でだ・・・何でそんなに俺にここまでするんだ・・・・・・。
ここまでされる憶えなんて俺には無い・・・。
「何で、ここまでして俺を住まわせたいの?・・・俺、二人に何かした・・・?」
「う~~んと、それは今はまだ教えられないかなぁ~。」
「自覚が無い所も、零さんらしくて・・・あはは❤」
疑問を投げかけても、返って来るのは曖昧な返答だけ。
訳が分からないと困惑していたら、兆胡ちゃんがスマホを手にした。
「ねぇねぇ京胡、記念に一枚写真撮ろ❤零さんに抱き着きました記念❤」
「良いね良いね、撮ろ撮ろ❤ほら、零さんも❤」
カメラを起動して、三人がフレームに納まる・・・俺は慌てて兆胡ちゃんを止めた。
「それダメ、兆胡ちゃん!!」
「えぇ~これも~?なんで~?」
「こんな写真、バレたら終わりだよ!?」
「でも撮りたいなぁ~、どうしようかなぁ~、ねぇ京胡?」
俺の顔の横でピースをしていた京胡ちゃんにどうしようかと聞く兆胡ちゃん・・・。
京胡ちゃんは、ニヤリと笑った・・・。
「そうだね~、零さんが一緒にいてくれれば写真は我慢できるんだけどなぁ~。でも、零さんはここには住んでくれないって言うし~、だったら記念に写真の一枚でも欲しいよね~?」
「だよね~❤じゃあやっぱり・・・はい零さん、チーズ❤」
嵌め、られた・・・・・・この二人、狙って・・・。
兆胡ちゃんの指が、シャッターボタンに添えられた・・・。
「まっ、待って!!」
「うん?どうしたの零さん、そんなに慌てて❤」
「写真撮るだけだよ?アタシ達のスマホにずっと残る零さんとの写真❤」
俺の言葉を待つ二人は、瓜二つの顔でニヤニヤと笑みを浮かべている。
ダメだ・・・ダメだ・・・でも、こんな事がバレるのはもっとダメだ・・・。
後の事は、後で考えよう・・・だから、取り合えず今は・・・・・・。
「・・・・・・分かったから・・・」
「何が~❤」
「・・・住むよ・・・ここにお世話に・・・ならせて下さい・・・」
「零さん❤・・・嬉しぃ、これからよろしくね❤」
「三人で幸せに暮らしていこうね、零さん❤」
自由になれたはずなのに・・・なのに、何故だろう・・・?
この二人に、あの二人を重ねてしまうのは・・・。
俺は本当に・・・・・・自由になれたのか・・・・・・?
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