双子の姉妹と此処にいる理由

以前会った時もそうだったが、二人は変装も無しに出歩いている様子だった。

ただでさえ二人は目立ちやすいというのに、二人は特に気にもしていないみたいだ・・・。

平日の真昼間だからか、元々人通りが少ないからなのかは分からないが、人影が見えないのが救いだろう。


「こんな所で、何してるの・・・?」

「今日は午前授業で学校も終わったし、撮影も無いし~!」

「やる事無いならぶらつくみたいな感じ~!で、零さんこそこんな所で何してるの?」


質問が返ってくる・・・が、どう言えばいいんだ・・・。

本当の事を話すわけにもいかない。

二人に話してどうするんだって内容だ・・・面白くも無いし話したいとも思わない・・・。

返答にあぐねていると、兆胡ちゃんが何かに気づいて、不思議そうに聞いてきた。


「あれ?零さん何処かに泊りなの?」

「えっ・・・違うけど、どうして?」

「だってそんなに大きなカバン持って出歩いてるって事は、そうなのかなぁ~って思って。」


俺が手に持つカバンを指さしてそう答えた。

兆胡ちゃんの発言に、京胡ちゃんも興味深々の様子で俺を見つめていた・・・・・・そして・・・。


「付いてっちゃおっかなぁ❤」

「はぇっ!?」

「あっ、アタシも思った~❤」


上目遣いで二人して俺を見つめてくる。

身長差がある分そうなってしまうのだろか・・・それとも、あえてなのか・・・。


「ダ、ダメだよ!そもそも泊りでも無いから!」

「えぇ~~、じゃあ何でそんなに大きなカバン持ってるのぉ~?」

「それは・・・その・・・って、二人共!?」


質問攻めにしながらギュッと両側から抱き着いてくる二人。

前に会った時と同じ流れを感じた・・・この二人の行動は危険だ、離れてもらわなくては・・・。


「一旦離れようよ、ね?」

「零さんが正直に話してくれたら離れるかも❤」

「絶対とは言えないけどね~❤」

「そんなぁ・・・」


どう言えばいいかを必死に悩んでいる間にも、二人の体の体温が俺に伝わってくる・・・。

いい匂いが鼻をくすぐる・・・。

・・・ダメだダメだ、こんな事してたら一臨や二咲ちゃんに・・・。


「・・・っ」


何を、言ってるんだ、俺は・・・。

もう自由になれたんじゃないか・・・今更、あの二人の事を考えなくても良くなったんじゃないか・・・。

・・・この感覚を忘れ去るのには、どうやら時間が掛かるみたいだ・・・。

俺の表情の変化に気づいたのか、京胡ちゃんが心配そうな顔になって聞いてきた。


「もしかして、結構話しづらい事だったりする?」

「いやっ・・・!それ、は・・・」

「・・・うん、分かった!じゃあ場所移そうよ、それだったら話してくれる?」


手を背中に回される。

どうして二人がここまで執着してくるのかは分からない。

けど、答えを出さなければ・・・本当に離してくれないのだと確信させられた・・・。

引っ掛かりを残したまま、小さく頷いた俺は、そのまま二人に連れていかれた・・・。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


マイクが置かれ、設置されているモニターには新曲を発表しているアイドルグループの映像が流れている。

二人に連れて来られたのはカラオケ店の一室。

薄暗い個室を、ネオンライトの光が照らしていた。


「そうだったんだ・・・。」

「・・・何かごめんね、零さん。何処で話す内容でも無かったね。」


先程までのテンションから一気に気が下がってしまった様子の二人。

結局、考えもつかなかったので本当の事を二人に話してしまった・・・。

勿論、事細かに話したわけではなく、話せる範囲で纏めて話した。

女優の一臨が俺にはこうだとか、アイドルの二咲ちゃんが俺にあんな事をしているだとか・・・口が裂けても言えるわけがない。

あんな事は、誰に話す事無く、墓場まで持っていくと決めている・・・。


「いや、謝る事ないよ。もう済んだことだし・・・それに、溜め込んでいた物を吐き出したみたいで気も少し楽になったよ。ありがとう、二人共。」


俺がそう言うと、二人はえへへと笑ってくれた。

俺の問題で、二人の顔を曇らせてはいけない・・・無関係の二人を巻き込んではいけない。


「後、さ・・・今話した事は、誰にも言わないでくれないかな?記者とかにバレると色々面倒ごとと言うか、何と言うか・・・。」

「もちろん!誰にも言わないよ、零さんとアタシ達だけの秘密だからね❤」

「まぁ・・・うん、そうなるの・・・かな?」


人気双子アイドルユニットの二人と共有する秘密にしては、とても良くない内容だけど・・・。

京胡ちゃんの隣で難しい顔をしていた兆胡ちゃんが急に顔を上げて、俺に尋ねてきた。


「てゆ~事は、零さんは今住む家を探してるんだよね?」

「うん、そう・・・だね。」

「そうだよね!」


そう聞いた兆胡ちゃんが、隣にいる京胡ちゃんと何かコソコソと話し始めた。

兆胡ちゃんの話を聞いていた京胡ちゃんが、何度も頷き、二人して笑みを浮かべている・・・。

そして立ち上がり、俺の左右にそれぞれ座った。


「零さん、アタシ達、今すぐにでも住める場所知ってるよ❤」

「えっ!本当!?」

「ホントホント!教えて欲しい?」

「う、うん!そうしてくれると助かるよ!」

「オッケー❤じゃあ今から行こっ❤」


二人と共に、一曲も歌うことなくカラオケ店を退出する。

まぁ、歌っていられる雰囲気でもなかったし・・・。

それよりも、住む場所がこんな形で見つかるなんて思ってなかった。

前の電話の時もそうだったけど、二人には久しぶり出会ってから何かと助けられてばっかりだな・・・今度何かお礼しないと。

タクシーを止めた二人に続いて乗り込み、行く先も教えてもらわないまま、目的地へと向かっていった・・・・・・。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


走る事20分ほど、ようやく停車したタクシーから降りる。

走り去っていくタクシーを背に、更に少しだけ歩くらしく、二人に付いていく。

周りを見渡すも、全く知らない場所で、現在地を見て見ると、以前の家からはかなり離れた場所まで来ていた。

暫くすると、辺りは住宅街が多くなっていった。


「ねぇ、これから向かうのって、どんな家なの?」

「それはね~・・・着いてからのお楽しみ~❤」

「そうそう、楽しみは後に取っておかなくちゃ❤」


そのまま二人に付いていくと、一軒の家の前で二人が足を止めた。

てっきりアパートだと思っていたその家は、一戸建ての立派な家だった。

大きさも申し分なく、一人で住むにはだいぶ大きすぎる広さだった。


「あの、二人共・・・本当にこの家なの?」

「うん、そうだよ!」

「でも、さ・・・広すぎない?」

「えぇ?そうかなぁ~?」


広いのもそうだが、ここまで大きいと、きっと家賃もそれなりに高くつくはずだ・・・。

これから働き口も探さなくちゃいけない俺からすれば、安易に住める様な家じゃないのは確かだった。

二人には悪いが、ここは諦めてやはり自分で探そうと・・・そう伝えようとした・・・。


「でも、三人で住むには丁度良いと思うけどなぁ~。」

「・・・三人?何が・・・?」

「えっ?アタシでしょ、京胡でしょ、それに零さん❤ほら三人、ねっ❤」


兆胡ちゃんの言っている事が何の事だか分らなかった。

いや・・・理解はできていたはずなのに、それを受け入れようとしていなかったのかもしれない・・・。

だっておかしい事だろ?

三人でって・・・それじゃあまるで・・・。

顔を横に向けた時、表札が目に入った・・・・・・そこに刻まれている苗字を見て、自然と言葉が漏れた。


「・・・え・・・、ここって・・・」

「あっ、気づいた❤」

「そうだよ、零さん❤」


また、二人して抱き着いてくる・・・。

けれど俺の目は、その表札に釘付けで離れない・・・。

・・・・・・「昇」、と・・・二人と同じ苗字が刻まれた表札から・・・・・・。


「「ここは、アタシ達のお家❤」」



―――――――――――――――――――――――――「 」が、迫る音がした

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