助け船と沈む船
俺に圧し掛かる一臨は恍惚とした表情で、組み敷かれている俺を見つめている。
こんな状況下でも、一臨のそんな表情を目の当たりにして綺麗だと思ってしまうのは、彼女が名の知れ渡った女優だからか・・・それとも、向けられているこの愛に俺が狂ってしまったからなのか・・・・・・。
もっと言えば、今考えるべきはそんな事では無く、早く一臨を退かすのが先だという事だ・・・・・・。
「ダメだって一臨!?こんな所で!それに二咲ちゃんが帰って来たらどうするの!?」
「二咲も今日は遅くなるって言ってたじゃない、大丈夫だから、ねっ❤」
「やめっ・・・!?本当にごめん、悪いと思ってるから、もう二度と勝手に外へ出ないから・・・だから・・・!!?」
「その話はまた後でね!もう我慢できないから、シよ❤」
そう言いながらスーツの上着を脱ぎ捨てる一臨・・・。
パサッ、と軽い音を立てて上着が床に落ちる・・・。
一枚脱いだだけで、甘い香りが一臨から漂う。
香水の匂いではない、フェロモンと言う方が正しい様な香り。
いつも傍にいる妻の香り・・・そのはずなのに、未だ慣れることは無く、香りが鼻腔を刺激するだけで頭がクラつく・・・。
ワイシャツに手を掛けながら恍惚とした顔を近づけてくる・・・・・・観念して、目を瞑るしかなかった・・・。
家族三人で食卓を囲んだこのテーブルが壊れないだろうか?
そんな馬鹿な事を考えながら、目を瞑っていても分かるぐらいに、荒い息が俺の口に当たったのが分かった瞬間・・・・・・、
ガチャッ・・・・・・
玄関のドアが開く音が聞こえた。
「・・・ぁ」
「・・・むぅ~。」
助かったと感じた事から張りつめていた体の緊張が解け、小さく声を漏らした俺。
一方、意図せず邪魔をされた事でおあずけを喰らう羽目になった一臨は、頬を膨らませていた。
とにかく助かった・・・入ってきた人物が廊下を歩く足音が聞こえる。
呼び鈴もノックも無しに家に入ってくるのは家の住人だけだ・・・・・・俺と一臨・・・・・・なら入ってきた人物は容易に分かる。
ただこの場合は、入ってきたでは無く帰って来ただが・・・。
「ただい・・・何やってるの、そんな所で?」
「お、お帰りなさい、二咲ちゃん・・・。」
「お帰り~~。」
リビングからキッチンに顔を出したのは二咲ちゃん・・・テーブルの上でマウントを取っている一臨と取られている俺を交互に見ながら不思議そうに聞いてきた。
行為に及びそうだったけど二咲ちゃんのおかげで助かったよ・・・・・・なんて事娘に言えるはずも無いので、取り合えず誤魔化しておく・・・。
「あぁえっと、・・・バランス崩して倒れた方に一臨がいてね?こうなっちゃったんだけど・・・買ってきた食材が床に落ちちゃって・・・ははは。」
「えっ、大丈夫?もう、気を付けないとダメだよ零さん!怪我でもしたら私泣くよ?ママも大丈夫?」
「えぇ私は大丈夫よ、零が下になって庇ってくれたから❤」
俺に話を合わせてそう言いながらも、抱き着いてくる一臨。
そんな光景を見て呆れた様子で首を振り、床に落ちている食材を拾う為にしゃがみ込む二咲ちゃん・・・・・・それを知ってか知らずか、一臨が俺に耳打ちをしてきた・・・。
「続きは今夜寝る前にね❤零❤」
軽く唇を重ねると、俺の上から退いた・・・。
立ち上がった二咲ちゃんに一臨が尋ねる。
「所で二咲、今日は撮影で遅くなるんじゃなかったの?」
「それなんだけど、スタッフさんが二人も病欠で休んじゃってるみたいで・・・それで今日の撮影は延期になったの。次の撮影は予定通りにやるっていってたけど。」
一臨が早く家に帰っていた時は終わったと思ったけど、本当に二咲ちゃんには助かった・・・・・・このタイミングで帰って来てくれてなかったら搾り取られてたな・・・・・・。
そう思いながら二咲ちゃんを見ていると目が合った・・・・・・二コリと、不敵な笑みを浮かべた・・・。
そうだ、夕食後に二咲ちゃんの部屋へ行かなければいけなかったんだ・・・・・・。
本当に俺は助かったのだろうかと・・・・・・二咲ちゃんから目を反らした。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
夕食は二咲ちゃんの希望通りカレーを作った。
結局仕込みをする事はできなかったが、一臨も二咲ちゃんも美味しいと言って食べていた。
どこの家庭も同じとは言えないが、夕食が済めば後は大体明日に備えて就寝するだけだ。
学校へ、会社へ、待ち合わせへ・・・翌日に備えて睡眠を取る。
一臨は明日も朝早い・・・今はお風呂に入って一日の疲れと汗を流している事だろう。
なら俺も、二人ほどではないが一日主夫として働いた疲れを取るためにすぐにベッドへ横になるのか?
・・・・・・そうできれば、どれほど良かったかと考えるのは毎日だ・・・。
これから一臨に先ほどの続きをされると思うと翌朝が憂鬱で仕方がない・・・・・・なのに一臨は寧ろ元気に家を出て行く・・・俺なんて足がガクガクするのに・・・・・・トップ女優は体力も普通とは比べ物にならないらしい・・・。
だが、問題はそれだけじゃない・・・寧ろ別にあった・・・。
二階へと続く階段を上るといくつも部屋があり、夫婦の寝室もそこにある。
そして、娘の二咲ちゃんの部屋は寝室から部屋を2つ挟んだ所にあり・・・俺はよく、その部屋へ呼び出されていた・・・。
・・・・・・そして今日も、部屋へと呼び出されている俺は・・・・・・、
「うんんぅ❤はぁ、はぁ・・・零さん❤ちゅっ、ちゅう~❤」
「ん・・・ぅう・・・・・・」
実の娘に、唇を奪われていた・・・・・・。
母である一臨に似たのか、甘い声を漏らしながら一心不乱に俺の唇にむしゃぶりつく・・・。
舌こそ入れてはこないものの、激しさは増すばかり・・・。
溢れた二咲ちゃんの唾液が垂れ落ちようが、決してやめる事はない・・・。
早く終わってくれと願うこの異常さに、俺はされるがままになるしかなかった・・・・・・。
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