着信と確信

何度もスマホで時間を確認しながら歩いている。

まだ確認してから5分と経っていないのにまた確認、それをさっきから何度も繰り返している・・・。

大丈夫だと言い聞かせているつもりでも、脳がそれを拒絶しているみたいに思えてくる・・・。

現在の時間は15時33分、兆胡ちゃん達と別れてから30分ほど経っている。

このペースで行けば、16時になる前には家に着けるはずだ。

たかが夕飯の買い出しでここまで焦っているなんて、周りの人からすれば考えもつかない事だろう・・・・・・でも、現に俺は焦っている・・・。

時間には余裕があるはずなのに、目的の食材は手に入れる事ができたというのに・・・焦っている・・・。

万が一の事を考えてだ・・・・・・そう考えると、勝手に焦りが生じるのも頷ける・・・。


「今は・・・43分、大丈夫だ・・・。」


これが付き合いたての彼女との初デートの待ち合わせに向かう時の焦りなどと比較しようと言うなら、それは比較にもならない。

それほど、俺は家へ帰る事を急いでいる・・・・・・。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「56分、なんとか1時間以内には着けるかな・・・。」


もう少し歩けば家が見えてくる、何故か行きよりも時間が掛かっているが、結果良ければ全て良しという事にしておこう。

もうさっきまでの焦りも無い、ここまで来れば、ゆっくり歩いてだって行ける。


「家に着いたら早速仕込みから始めるか・・・いや、その前にお風呂から入ろうかな、少し汗をかいたし・・・。」


ヴゥ~~!!ヴゥ~~!!ヴゥ~~!!

帰ってからの事を考えていると、スマホに着信が入った。

きっと兆胡ちゃんか京胡ちゃんだろう。

別れてから1時間くらいしか経っていないのに、早速電話を掛けてきたのか・・・・・・そう思って、手にしたスマホの画面を見た。


―――――― 一臨 ――――――


その名前を目にした瞬間、一気に汗が吹き出した。

こんな時に限って、外出している時に掛けてくるなんて・・・・・・。


「・・・今は、出られない・・・。」


正確には出る事ができない・・・出てしまえば、後ろから聞こえてくる音で、俺が外にいる事がバレてしまう・・・。

バイブの鳴りやまないスマホを手にしながら前を向く・・・家が見えて来た。

こうなったら家まで走るしかない。

家に入ったら息を整えて、電話に出る・・・これしかない。

そう決めてから走るまでに時間は要らなかった。

食材の入ったバッグをできるだけ揺らさない様に、一目散に家へと駆ける。

もう少し、もう少しで家に・・・。


「・・・あっ・・・」


スマホが鳴りやんだ・・・・・・画面には、不在着信を知らせる通知だけが出ていた。

走るのを止め、息を切らしながら立ち止まった。


「・・・やばい、何て言えばいいんだ・・・。」


家にずっといる俺が、電話に出なかった理由を考える・・・・・・と、スマホが振動した。

画面には、留守電メッセージの文字・・・。

ゆっくり歩きだしながら、スマホを耳に当て、留守電を再生した・・・。


『何処にいるの。』

「何処に行ってたの。」


二つの声が重なった・・・。

どちらも一臨の声・・・・・・。

耳に当てたスマホから聞こえた声・・・・・・そして、もう片方の声は・・・・・・、


「ねぇ・・・零」


家の前に立ち、俺に笑顔を向ける一臨の声・・・・・・。

スマホも、食材が入ったバッグも・・・するりと手から地面に落ちていった・・・・・・。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


何故、家の前に一臨が立っているのか・・・・・・どうして、そんなにも笑顔なのか・・・・・・そんな事、今の俺にはどうでもよかった。

たった一つだけ確信できた事はある・・・・・・。

・・・・・・終わった・・・・・・それだけは、確信できた・・・・・・。


「どうしたの、スマホ落としたよ?・・・後、そっちのバッグは・・・あぁ~夕飯の買い出しに行ってたのかな?」


何もせず立ち尽くす俺を見て、近づいてくる一臨。

近づく一臨から、顔を少し背け、目を会わせない様にする俺。

二人の距離が手を伸ばせば届く所まできた時、一臨がしゃがみ込んで、俺の落としたスマホとバッグを拾い上げた。


「はい、零のスマホ。ちゃんと持ってないと壊れちゃうよ?」

「・・・・・・あ、ありが、とう・・・」

「うん!じゃあバッグは私が持つね、家に入ろう!」


空いた方の手で俺の手を握り、家まで引っ張る。

玄関のドアを開け、家に入る・・・。

これで、俺の買い出しは終了・・・・・・だけど、これからきっと・・・・・・地獄に行く羽目になる・・・。

手を握られたまま、二人でキッチンへ行く。

一臨は、手にしていたバッグをテーブルに置き、中から俺が買ってきた食材をテーブルに並べていく。


「今日の夕食は・・・カレーかな?・・・あっそっか、昨日二咲が食べたいって言ってたもんね!」

「・・・・・・うん・・・」


まだ・・・普通だ・・・・・・いや、普通に見えているだけで・・・・・・もう・・・。


「そっか~、それで零は買い物に行ってたんだ~・・・・・・あれ?でもおかしいね?私さ、前に零に言わなかったっけ?」

「・・・・・・」

「何も言わずに家から出ちゃダメって・・・・・・言わなかったっけ、零?」

「・・・・・・っっ!!??」


ギリリと、一臨に握られている俺の手から、軋んだ音が出始めた・・・。

振り向いた一臨は、笑顔のままだ・・・・・・。


「ねぇ零、私言ったよね?」

「一臨、痛い!手を離して・・・!!」

「離さないよ、零と私は夫婦なんだから。それより私の質問に答えてよ零。私言ったよね?・・・・・・答えてっ!!!」


笑顔から一転、目を見開き、眉を顰(ひそ)めて俺をテーブルに押し倒す一臨・・・・・・テーブルの上にあった食材は、床に転がっていく・・・。

これだ・・・一臨がこうなると、手が付けられない・・・・・・一筋縄じゃいかなくなる・・・。


「ごめん!!ごめん一臨、約束破ってごめん!!」

「なんでこんな事したの!!?私言ったよね、ちゃんと電話してって!!?」

「した!!したよ!!でも電話に出なかったから・・・!!」

「だから何!?私が掛け直すまで待ってればいいでしょ!!?前もそうだったよね、その前も!!なんで何度言っても分からないの!!?零は私達を悲しませたいの!?」

「ちがっ、そんなつもりじゃ・・・!!?」


両手首を鷲掴みにされ、上に圧し掛かられる・・・腰は脚で挟み込まれ、頭上から怒号を投げられる・・・。


「仕事が早く終わったから急いで帰って来てみれば零が家にいない、それがどれだけ私達を不安にさせてるかわかってる!!?買い物なら私が帰りにしてくるし、二咲にだってお願いできたでしょ!!?なのになんで・・・・・・なん、で・・・」

「・・・・・・一臨・・・?」


声が段々と小さくなっていき、俺に顔を近づけてくる一臨。

冷静な顔で、俺の服に鼻を押し当てている。

何をやっているのかと、聞こうとした・・・・・・その時。


「・・・・・・零、なんで零から香水の匂いがするのかなぁ?」

「なぁっ!!??」


兆胡ちゃんと、京胡ちゃんといた時に・・・・・・嘘だろ・・・。

訳を話そうとした時にはもう遅く、一臨の顔は今までにないくらい・・・・・・怒り一色に染まっていて・・・・・・。


「フザケルナッ!!?誰よ誰よ誰よっっ!!??私の零に手を出した奴はぁぁ~~!!?見つけ出してボロボロに切り刻んでやるッッ!!?あああぁぁぁ~~!!!」

「一臨違うんだ!!誤解だ、そんな事してな・・・」

「ウルサイウルサイッッ!!・・・ジュル!!」

「ぐうんぅぅっ!!?」


一臨を落ち着かせるため、誤解だと説明しようとした瞬間、俺の口は一臨の口で塞がれていた・・・。

キッチンのテーブルの上で、口内を好き勝手にされる・・・。

唾液は持っていかれ、かと思えば今度は向こうから返ってくる・・・。

口が自由になる頃には、俺の口内はなんとも甘ったるい唾液で一杯になっていた・・・。


「・・・・・・飲んで、零。・・・早くっ!!」

「ううぅ・・・んっ・・・うぐっ・・・」


ゴクリ・・・喉を鳴らし、一臨が俺の口内に残していった甘い液を飲み込んだ・・・・・・。

その様子を見ていた一臨は、少し気が落ち着いて来たのか、興奮気味に息を吐いていた。

そして・・・、


「零、零~❤私の零、私の旦那様❤ここでシよ❤ねっ、いいよね?ねっ!?」


一臨は完全に、俺を犯したいという眼をしていた・・・・・・。

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