予想外と連絡先
「はい零さん、このお店のイチゴタルトすっごく美味しいんだよ!あ~ん❤」
「い、いいって!自分で食べられるよ!」
「遠慮しないで~、アタシのメロンタルトも食べさせてあげるよ❤」
人気双子アイドルの二人に挟まれながら、両側からタルトを口元に押し付けられる・・・・・何故こうなったのか・・・。
話はあの広場で二人に出会った時に戻る・・・。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「どうしてここに二人が・・・。」
俺の腕を掴みながら頬を膨らませている二人。
「今日はお仕事お休みなの!学校にも特別に許可貰ってお休みして二人でお買い物!」
「周りにバレてファンサしてたら零さんを見かけたのに、素通りしていくんだもん!」
なるほど、確かに人気アイドルの二人がこんな所にいれば、そりゃ囲まれるよな・・・。
それはそうと誤解を解かなくては・・・。
「そうだったんだ・・・ごめんね!決してわざとなんかじゃ無いよ!人だかりが多くて俺からじゃ見えなかったから・・・!」
「ふ~ん、本当かなぁ~。」
事情を説明する俺に、ズイッと近寄り疑いの目を向ける二人。
俺から見て右側の子、ミディアムボブの金髪を右側でサイドテールに纏めているこの子は昇兆胡(のぼりちょうこ)ちゃん。
双子の姉で、見た目や服装がかなりギャルっぽい。
いかにも今時のギャルって感じがする・・・。
そして反対の左側の子、兆胡ちゃんと同じミディアムボブの金髪を左側でサイドテールに纏めているこの子は昇京胡(のぼりきょうこ)ちゃん。
双子の妹で、姉とは瓜二つ。
確か二人は一卵性の双子だったはず・・・髪を解けば見分けは付かないぐらいにそっくりだ・・・。
けど、俺は何故か二人のどちらが兆胡ちゃんで、どちらが京胡ちゃんか見分ける事ができる。
何故と聞かれても、俺にもそれは分からない。
これだと言える確証は無いのに、二人の見分けを付ける事ができた。
前に現場で会っていた頃は、よくどっちがどっちか当てさせられたなぁ・・・。
「本当だよ・・・・・・。」
「あっはは!もう冗談だよ零さん!」
「そうそう!零さんがそんな事する人じゃないって知ってるもん!」
途端に笑い飛ばす二人。
心臓に悪いったらありゃしない・・・。
・・・しかし、久々に二人に会ったが可愛くなったなぁと思う。
勿論、初めて会った時も、それこそテレビで見かける度にも思うが、直接会って見ると改めてそう思わされる。
見た目はかなりギャルっぽいが、そのギャップが良いと言うファンも多いんじゃないだろうか。
「ねぇねぇ零さん、これから一緒にタルト食べに行かない?オススメのお店があるんだぁ!」
「あ~ごめんね、今日はちょっと・・・」
「久しぶりに会ったんだし良いじゃんちょっとくらい~、ね!行こう!」
「あっ、ちょっと二人共!!」
掴まれていた腕を抱き着くように組まれ、帰り道とはあらぬ方向へと引っ張られて行く・・・・・・。
久しぶりに会ったと言う言葉を聞き、無下にも出来ず・・・結局二人の言うオススメのお店まで引っ張られてきた・・・。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
そして、今に至る・・・。
あの広場に居た二人のファンの人達に、絶対俺の事見られてたよな・・・。
変な記事とか書かれたらどうしよう・・・。
そんな心配をする俺とは裏腹に、二人はそんな事気にもしていない程ご機嫌の様で・・・・・・。
店に着くなり席に座らされ、即注文を済ませた二人。
オススメのお店と言うよりは、行きつけのお店って感じだったな。
店員さんも二人が店に入った時にいつもどうもみたいな対応をしていたし・・・・・・周りからはほぼ見えない様な席に案内してくれたしな。
まぁそれはそうと・・・。
「あの二人共・・・ちょっと近いよ・・・。」
両側からギュウギュウにくっ付いている二人。
目の前に席が空いているというのに、態々俺の隣に座っている。
しかも、かなり余裕があるはずなのに、これでもかとこっちに寄ってきている・・・。
「良いじゃんこれくらい!アタシ達と零さんの仲じゃん❤」
「そうそう!それに久しぶりだなぁ、零さんの匂い❤」
「にお・・・って!何言ってんの!?」
これはあれだ・・・、一臨が外で抱き着いてきたりキスをせがんできた時と同等の恥ずかしさがある・・・。
こんな年食ったおじさんの何が良いのか分からん・・・。
・・・・・・ん?一臨・・・?
「!?忘れてたっ!!今何時だ!?」
「う~んと、お昼の3時を回ったとこだけど、どうかしたの?」
焦って時間を確認しようとしたら、兆胡ちゃんが時間を教えてくれた。
二人に圧倒されて忘れていた・・・・・・マズい。
「ご、ごめん二人共!俺もう行かないと!」
席を立ち、急いで帰ろうとする俺を、また二人が制止する。
「ちょっと待って!まだ少ししか経ってないじゃん!」
「もうちょっといいでしょ!」
「わぁっ!?ふ、二人共離して!?」
手を引かれて元の位置に座らされる・・・、そして足を絡めて来た二人に身動きを取れない様にされた・・・。
ここは周りからはあまり見えない様な席・・・、しかし万が一こんな所を見られたら・・・それが、二人の熱狂的なファンとかだったら・・・・・・そんな事になれば、二人の芸能人生に多大な迷惑になる・・・。
俺だけならまだしも、二人にそんな迷惑を掛けるわけにはいかない。
「二人共お願いだから、今日だけはお開きにしてくれない?また今度時間作るから!ね!」
「今度って何時?」
「えぇっと・・・それは・・・・・・」
基本的に家からは出られない俺・・・・・・今だって黙って外出してしまっている・・・。
何時かと聞かれれば、ハッキリと答える事はできない・・・。
「・・・嘘吐いたの零さん。」
「ち、違うよ!嘘なんかじゃ・・・ただ、俺もこう見えて忙しいから、この日っていう確約ができないから・・・・・・」
「・・・そっかぁ。じゃあ零さん、スマホ貸して。」
「えっ・・・う、うん。」
京胡ちゃんに言われるがまま、持っていたスマホを手渡す。
それを受け取った京胡ちゃんは自分のスマホを出すと素早く何かをし始めた。
・・・そして、数分も経たない内に、自分と俺スマホの画面を見せて来た。
「はい!アタシの連絡先とライン登録しておいたから、これでいつでも会える日が決められるでしょ❤」
「えぇっ!!?いやあの京胡ちゃん、それは・・・」
「京胡天才じゃん!!流石アタシの妹!!それじゃあアタシも~❤」
京胡ちゃんから兆胡ちゃんへと受け渡される俺のスマホ。
目の前を通るスマホに手を伸ばす事はできない・・・・・・二人に手を押さえられているから・・・。
そして、戻ってきた俺のスマホには、しっかりと二人の連絡先が登録されていた・・・。
「二人共、流石にこれはマズいよ・・・。」
「何で?」
「だって、二人は人気アイドルなんだよ?何でも無い一般人の俺の連絡先なんか交換しているのがバレたりしたら大事なんだよ・・・?二人だって分かるでしょ?」
元マネージャーの俺から言わせてもらえば、これはスキャンダルの誤解を生む種の様な物・・・。
実際には両者の間には何も無かったとしても、その事実を捻じ曲げる事ができるのが芸能界スキャンダルの怖い所・・・。
絶対にバレる保証は無いが、絶対にバレないなんて保証も無い・・・。
考えているよりも危険な事なんだ・・・・・・なのに二人は・・・。
「勿論アタシ達だって知ってるよ?どれだけ親しくなったとしても、異性の連絡先なんか交換しないもん。」
「じゃあ何でこんな事・・・。」
「零さんだからじゃん。」
「えっ?」
距離が更に近くなる・・・・・・そして俺の耳元に、二人の口が近づく・・・。
「零さんはアタシ達にとって何でも無くなんかないんだよ?ね❤」
「だから消したりしないでね?零さん❤」
近すぎて、二人の顔は見えない・・・・・・なのに、何だ・・・背中を走るこの感覚は・・・・・・。
まるで、一臨と二咲ちゃんと同じ・・・・・・。
そこまで考えていると、二人の拘束が解けた・・・。
「・・・!?じゃ、じゃあ俺はこれで・・・ここは俺が払っておくから・・・。」
「うん、ありがと❤またね、零さん❤」
「ありがと❤連絡するね❤」
会計を済ませて、急ぎ足で店を出て行く・・・。
ただ買い物に来ただけだったのに・・・まさかあの二人に出会うとは思わなかった・・・・・・それに、連絡先まで・・・。
「・・・消すわけにもいかないし・・・・・・バレたらヤバいよなぁ・・・はぁ~~・・・。」
今日一番の溜息を吐いて、帰り道を急いだ・・・・・・。
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