内緒の外出と双子の姉妹

二人を見送った後にも、やる事はある。

掃除に洗濯、夕ご飯の献立を考えたりと色々。

それらが終わる頃にはお昼を回り、ここでようやく束の間の休息。

リビングでテレビを流しながら、本日2杯目のコーヒーと、一臨が仕事関係者さんから頂いたというケーキを前にして腕を回して軽く背伸び。

慣れた事とはいえ、こうも毎日家の中にばかりいると体がなまってしまう。

なら外出でもすればいいじゃないかと思うが、それができれば苦労はいらない。

事情がある・・・・・・一臨と二咲ちゃんの許可無しの外出は禁じられているからだ・・・。

何だそれは、と普通ならば不満を漏らすだろう・・・・・・しかし、二人に詰め寄られた俺に、そんな事をする暇さえ与えられる事はなく、そのまま押し切られてしまった・・・。

二人に連絡を入れて許可を貰えば済む話だが、これがまた面倒くさい。

何処に行くのか、何をしに行くのか、いつ頃帰るのか・・・等々、根掘り葉掘り聞かれる・・・。

メールでのやり取りも禁止、二人が必ず返信できる場合とは限らないからだと・・・。

と言う理由から、外出は常に二人と一緒の時が当たり前となっていた。

こんな生活をしていたら、何だか自分がヒモ同然の生活をしているように思えてきて、一度だけバイトをさせて欲しいとお願いした事があったが・・・・・・あの時の事は、思い出したくは無い・・・軽いトラウマだ・・・。


「あぁ~、美味しい~・・・。」


コーヒーを飲み、お高いであろう店のケーキを食べる。

疲れた体に糖分良くが効く。


「休憩後は何をするか・・・そう言えば昨日の夜、二咲ちゃんが明日の夕ご飯はカレーがいいとか言ってたな。・・・良し、今からでも仕込みをしておくか。」


その前に、このケーキを食べきらなくては・・・そう思いながら、口にケーキを運んでいた時、テレビに見知った顔が・・・。


「おっ、「Wegeminy(ウィジェミニー)だ。」


テレビの向こうで新曲を披露している二人。

双子のアイドルユニット、「Wegeminy」。

二咲ちゃんと同じ、現役高校生の双子の姉妹で結成されたアイドルユニット。

その人気は、二咲ちゃんにも負けず劣らずの勢いであり、二咲ちゃんとはランキングが並ぶこともしばしば。

この二人とは、二咲ちゃんがまだ幼い頃、子役時代からの顔見知りであり、度々仕事現場で顔を会わせていた。

その時にはもうマネージャーの仕事は辞職していたが、まだ小さかった二咲ちゃんを送り迎えしている頃だ。

・・・今ではその送り迎えも必要なくなってしまったが・・・。


「まぁ・・・娘の成長だと思っておこう・・・。」


思い出に浸りながらも、休憩を終える。

食器を洗い片付けて、いざカレーの仕込みへ・・・・・・と、思ったが。


「あれ、材料が足りない・・・。」


昨日の夜に言われたから、その後に買い物に行っていなかった・・・専業主婦として、まだまだ精進しなければならない・・・。


「・・・仕方ない、買いに行くしかないけど・・・はぁ、連絡するか・・・。」


ズボンのポケットからスマホを取り出し、一臨に電話を掛ける。

連絡先は二人のしか無いので、探す手間は無い。

呼び出しのコールは鳴るが、中々電話には出ない。

今日は雑誌に載せる為の写真撮影があると話していたな・・・もうスタジオに入っているのだろう・・・。


「・・・二咲ちゃんの方に掛けてみるか。」


一度電話を切り、今度は二咲ちゃんの方に掛けてみる。

・・・こちらも出ない。


「って、二咲ちゃんは今授業中か・・・そりゃ出ないよな。」


自分に呆れながら、電話を切る。

さて、こうなるとどうしたものか・・・・・・カレー以外の材料ならあるが、二咲ちゃんの要望通り、カレーを作ってあげたいと思うのが、父であり主夫である俺の譲れない所・・・。


「・・・・・・行くか・・・?」


ならば、買いに行くしかないだろう。

しかし、この行動は決して正解ではない・・・・・・二人に許可なく家を出てしまったのがバレたら最後、俺は地獄を見る事になる・・・。

具体的にどうなるか・・・・・・それは口で説明したくない様な事・・・。


「う~~~ん・・・・・・良し!」


考えに考え、導き出した結論は・・・買い物に出かける。

幸いか、二人は今日帰るのが夕方を回ると言っていた・・・なら、それより先に帰ればいいだけの話。

今が13時を迎える所だから・・・5時間後も余裕がある。


「流石にそんな長時間も買い物しないしな。多分・・・大丈夫・・・・・・だよな?」


大丈夫なはず・・・と、自分に言い聞かせながらも、念には念を入れて、早めに帰る様にすると決める。

そうと決まれば、早くしなければいけない。

歯を磨き、着替えて、必要な物を持ったら準備は完了。


「ふぅ~・・・行くぞ。」


玄関のドアを開けて、外へと繰り出した。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


久々に出た外の空気は澄んでいて、時折吹く風が気持ちいい。

やはり人間、外に出て気分転換もしないといけないな。

最近は二人も忙しくて、中々外出する機会も無かったから、本当に久しぶりに外へ出た。


「って、呑気に歩いている場合じゃ無かった・・・早く食材を買って帰らないと。」


温かい陽の光にもやられ、急がなければいけない事を忘れてついついローペースになっていた。

気を取り直し、急ぎ足で買い物に向かう。

車でこれば良かったが、今日は一臨が二咲ちゃんを乗せて行ってしまっている。

そうでなくても、車を使ったりなんかしたら、外出したのが一発でバレてしまう。

なので、少し距離はあるが歩いて行くのが無難なのだ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


家を出てから30分ほどして、目的の食材は手に入れる事が出来た。

平日というのもあってか、意外と混んでもいなかった。

今の俺にとっては非常にありがたい事。


「さて、時間はまだまだ大丈夫だな。これならゆっくり帰っても大丈夫だろう。」


折角の久々の外出、少しくらい良いだろう。

荷物片手に、歩き出す。

周りを見渡すと、この前までは無かったお店があったり、二人と良く行くお店に新メニューが出ていたりと、色々な発見があって楽しかった。

あのお店、新メニューが出てたよ!・・・なんて口を滑らせない様に注意しないとな・・・。

それから歩き続けていると、広場に出た。

その広場の中央に、何やら人だかりが出来ているのが見えた。


「ん?何だろう・・・?」


気になって立ち止まり、その人だかりに向かって歩き出そうとしたが・・・、


「・・・いやいや、そんな事している場合じゃないか・・・。」


踵を返し、また家への帰路を行く。

時間を忘れて魅入ってしまう様なものだったらマズいからと、自分に活を入れる。

もうすぐ広場を出ようという瞬間、後ろから両腕を誰かに引っ張られた。


「うおっ!?・・・な、何だ・・?」


態勢を崩しかけたのを何とか耐えて、腕を掴んでいる人物を確認した・・・。

その人物は、俺の良く知る人物・・・。


「やっぱり!零さんだ!」

「も~う!素通りして行くなんてひどいじゃん!」

「えっ!?ふ、二人共、何でこんな所に!?」


遂さっき、テレビの向こうで新曲を披露していた双子姉妹のアイドルユニット・・・「Wegeminy」の二人が、俺の腕を掴んでいた・・・・・・。

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