第14話 解放 四神武装甲
小さくはしゃいだ様子で、三人の女性が温泉へと近づいてきた。
牛頭イアーの感度を上げると、サラサラと服を脱ぐ音が聞こえる。
温泉に入る気か!?
(神技『
俺は追いつめられると技が覚醒するようだ。
今回も助かったぜ!
「いい湯加減ですよ。姫様も早く入りましょう」
細い脚、小さなお尻の順に、華奢な体が温泉へと入ってきた。
「セラナ、姫様より先に入るとは何事か?」
「私は安全を確認しただけだよ~ん」
この人はセラナさんというのか。
顔は見えないけど……魅力的な体つきをしていらっしゃる。
「はぁ~、このような場所でお風呂を使えるとは思ってもみませんでした」
続いて、透き通るような肌をした迫力ボディの女性がお湯に入ってきた。
大きな胸がお湯の中で揺れている。
す、すごい……。
「私も失礼いたします」
最後に入ってきたのは引き締まった体つきをした、褐色の肌の人だった。
大きすぎず、小さすぎず、なかなかの美乳である。
なんという光景だ。
顔は見えないけど美しい裸体が三つも俺の眼前に広がっているではないか。
大中小?
むしろ
それぞれにそれぞれの良さがある。
みんな違って、みんな素晴らしい!
俺は今ほど牛頭アイの性能に感謝したことはなかった。
「ここのお湯は少し赤みがかった色をしているのですね」
「きっと
「まぁ、さすがは賢者ね。セラナはやっぱり物知りです」
ちがいます、温泉成分に含まれているのは俺の鼻血です。
ごめんなさい。
「それにしても、姫様のお体は綺麗ですねぇ。私の胸は小さいから少々嫉妬を感じてしまいます」
「そうかしら? 私はレミリアのような引き締まった体に憧れますが」
「私など、そんな……。どうせ、女として見られることもございません」
「バカだなぁレミリアは。部隊の兵士たちも、結構いやらしい目でアンタを見てるよ」
「そんなはずはあるまい。こんな傷だらけの体」
女子トークは続いていたが、俺は身動きが取れずに温泉の中だ。
神の力で何時間潜っていても平気なのだが、女性に免疫がないので初めて見る生裸に頭がクラクラしていた。
興奮で気を失ってしまいそうになる直前になって、ようやく彼女たちは温泉から上がった。
「おかげでさっぱりしましたね」
「これで気持ちよく明日の決戦に臨めるというものです」
女の子たちはその後も、なんやかんやとおしゃべりをしながら去っていった。
どうにかピンチは切り抜けたようだな……。
水中から身を出し、温泉の淵に寄りかかって呼吸を整えた。
返す返すも、運が良かったとしか言えない。
万が一にも見つかっていたら、取り返しのつかない事態になっていたことだろう。
この迷宮では覗きのミノタウロスとして、消すことのできない汚名を着せられたに違いない。
我が身の幸運を噛みしめていると、アンゼラがフワリフワリと戻ってきた。
「ただいま戻りました~……って、牛頭王様、元気がありませんね?」
そんなことはないぞ。
体の一部が元気すぎて困っているくらいだ。
「なんか疲れているような?」
「少しのぼせてしまっただけだよ」
「溶岩にさえ数分浸かっていられる牛頭王様が!?」
「まあ……」
お湯じゃなくて状況にのぼせただけなんだけどね。
「そうそう、残念ながらマギュウは見つかりませんでした。そのかわり、すぐ近くに王国軍の宿営地を見つけましたよ」
ということは、さっきの人たちは王国軍の兵士かな?
姫様とか呼ばれてた人もいたけど、まさか迷宮に王族が来るわけもない。
きっとあだ名かなにかだろう。
「ここから近いの?」
「歩いて3分もかからない場所です」
入り組んだ迷路になっているから、来るときは通らなかった場所に露営したのだろう。
「よし、それじゃあ行ってみようか」
心も体も落ち着いてきたので、俺は温泉を出て服を身に着けた。
宿営地は目と鼻の先にあり、物々しい警戒が敷かれていた。
防御の柵が張り巡らされているだけでなく、哨戒兵が行ったり来たりしている。
陣地の各所にはバケツほどの香炉がいくつも置いてあり、もうもうと煙が上がっていた。
「なんだかいい匂いがするな」
「あれは
おいっ!
「これだけ一緒にいといて、今さらそれはないだろう?」
「失礼しました。でもこれで牛頭王様の無罪が証明されたのです」
本当のことを言えば、自分でもちょっとだけ心配だったんだ。
これで俺がミノタウロスじゃないとわかって安心した。
「情報収集のために陣地内を見回ってみるか」
「私が偵察に行きましょうか?」
幽体のアンゼラなら確実に潜入できるけど、俺も自分の目で確かめたいことがある。
「いや、俺も行くよ」
神技『
迷宮内は薄暗いのでこれで見つかることはないだろう。
体は100分の1以下の大きさになってしまったけど、『電光石火』を使えば移動速度に問題はない。
ただ、せかせかと手足を動かさなくてはいけないので気分が落ち着かなかった。
「なんだか虫みたいですね」
一生懸命走る俺の姿を見て、アンゼラが遠慮のない感想を口走る。
ウシの次はムシですか、とは
もうちょっとエレガントに、かつ素早く動くことはできないかと工夫していたら、例の音声が頭の中に響いた。
(
その言葉が終わると同時に、俺は白銀の鎧をまとっていた。
虎の意匠をほどこした特殊な武装なようで、普通に走るときでさえ、俺のスピードは極端に上がっている。
いつものサイズでこの鎧をまとって、『電光石火』の踏み込みを使ったらどうなるんだろう!?
おそらく瞬間移動したのではないかと勘違いされるほどの速さが出せるはずだ。
「牛頭王様、そのお姿は!?」
「新しい力に覚醒したらしい。どうも近接戦闘特化型の鎧みたいだ。おやっ? 白虎を装着していると強力な風魔法も使えるようだ」
四神武装甲というからには白虎だけではなく、
それらは今後の修業によって解放されていくに違いない。
なんだか楽しみになってきた。
「カッコいいですね。後で触らせてください」
「よく手を洗ってからな。指紋が付くといやだから……」
思念で会話をしながら走っていくと、ひときわ豪勢な天幕のところまでやってきた。
陣の中心にあることから見て、きっと指揮官がいる場所だろう。
「ここなら、こいつらの行動予定が分かりそうだな」
「それを知ってどうするのです?」
「計画を知っておけば、こいつらのピンチを助けてやることができるだろう?」
「なるほど、“恩を売って仲良くしてもらおう作戦”には必要な情報なのですね」
言い方がゲスだよ。
「作戦名はともかく、そういうことだ。というわけで、この中に入るぞ」
俺は天幕の隙間を見つけて、内部へと侵入していった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます