第63話 街へ行こう、らんららん♪

 街へ戻る道すがらは結構賑やかで楽しかった。

 陽気も良好。

 風も穏やか。

 ゴロゴロとのどかに揺れて、まったりとしたひと時です。


 御者台には、エスパーダ。

 その隣にシュルルが座り、他はみんな歩いていた。


 何でって?


 だって、ゼロとワンがはしゃいじゃって。

 荷台じゃ危ないじゃない?

 大事な大事な牛(肉)もワニ(肉)もいるし。



「うは~っ!?」


「見てみそ、見てみそ!」


 2尾でくるくる輪になって踊る踊る。

 実際は、くねくね進んでるだけなんだけど、幻覚はスカートをたくし上げ、細い素足を見せびらかす様に動かしているのだ。


「わっとっと」


「え~!? 無理無理~!」


 まだ足元もおぼつかないブライトとサニーを引っ張り出し、輪に入れ様とするのだけれど、そんな二人をナルエーが後ろから支えているって感じ。


「はいはい……」


「あ、どうも……」


 転びそうになったサニーが、そっと差し出された手に、恥ずかしそうに支えられて。


 そりゃ、見えない尻尾が足元でうねっている訳だし、2人の体力って結構カツカツだから。まだそんな余裕無い筈。

 それを判ってるのか、後ろからそっと手を差し伸べてるナルエーちゃんって、実はかなり出来る子かも知れない。身内びいきな目線だけど。



「で、貴方はどこへ行ってらしたのかしら?」


 素朴な疑問をエスちゃんにぶつけてみると、ちょっと困った素振りで遠くを見た。

 当然、自分はどこで何をしていたか、話した上で。


「まあな……ちょっと腕試しに、北へね……」


「へえ~……で、どうだったの?」


 すると、ちょいと不敵な笑み。

 俺はワルだぜ、って言う感じの。


「寒かったな……山越え谷越え、森を抜け……己の剣1本でどこまでやれるか……そんなこんなで、結構出世したんだぜ」


 ほほう。じゃあ、もしかしたらどこぞのひも付き?

 すうっと目を細め、シュルルは改めて彼女の、様になり過ぎてる革鎧姿を上から下まで眺めてみた。

 それがこそばゆいのか、エスパーダは鼻で笑い、ちょっと意地悪気に目を細め返した。。


「そ~したらよ~、何か聞いた事のある奴らが暴れたらしいじゃな~い?

 結果、若いのが更迭されたりな。

 あたしも、ちょいと居辛くなったって寸法かな~?」


「へえ~。何か可哀そう~」


 と、2尾でうふふと笑い合った。

 まぁ、そういう事は良くある良くある。


「でさ。シュルルは北へ来る気無い?」


「無いわね~。今、丁度こっちで取り掛かろうって所だし。あたしの所属って、端っこでも一応賢者の塔になる訳で、あそこって基本中立でしょ?」


 おいおい。そりゃないでしょ。

 呆れた話です。


「ダメか~!」


「ダメでしょう。ま、せいぜい大人しくしててね。軍人さん」


「へいへ~い。

 ま、カラシメンタイコの警備状況とか、ばっちり見せて貰おうって腹だけどな」


「うわっ、マジ?」


「マジマジ。見分を広めるって意味で、こりゃデカイじゃな~い?」


 ふへへと笑うエスちゃんのその逞しさ。

 太いわ~。

 でも、あっちとの伝手が出来るのも、こちらにもメリットがあるかもだわ。

 手を伸ばしていけば、いずれは到達するエリアかも知れないし。


 魔国の先遣隊が、公国の外れに現れたという事は、いずれ更なる接触があるだろう訳だし。



 次第に潮風が鼻孔をくすぐり、海の気配が増して来る頃に。


「おおっ!? 見えて来た見えて来た!」


 パシリと手綱を振るい、大分手慣れた感じに荷馬車を進めるエスパーダ。

 それだけでも、荒野から飛び出して、独自の道を歩んで来た厚みが見て取れた。


「このまま行けば、一番近い門があるのだけど、ちょっとそこは不味いから、遠回りだけど別の隊が守護する、川辺に近い右手の門へ向かって頂戴」


「へえ~。門毎に指揮系統が違うのか? それは良い事を聞いたわ~」


「むむむ……」


 ニカッと笑うエスちゃん。むう、油断ならぬ。


 ちょっと不安になる。

 だって、彼女を引き入れた性で、3日後に街が火の海とかになったら、洒落にならないから。


 ……


「ま、考え過ぎかな~?」


「何が?」


 横目でちらちら。

 こっちもちらちら。


「ううん。こっちの話」


「そ……にやり……」


「な、何よ?」


「な~んでも~」


 むむむ……

 ふ、不安だわ……


 そんな心労が芽生えた頃、一行はシュルルが出た時とは別の門へと到着した。

 街の外には、ぐるりと囲む様にまた別の街が広がりつつあり、宿場の様に、前日に街へ入れなかった者や、荷の積み替えを行う商人の倉庫や、それに付随する職人街の気配が、そして貧乏人の住むスラム街が……


 そこかしこに、怪し気な連中がたむろし、獲物を狙い定めている様子が伺えた。


「へえ~。どこも同じだな」


 機先を制する様に、エスちゃんの鋭い眼光がそいつらをひと睨みすると、それだけで大概の者は、そっと目線を逸らし、姿を消した。

 流石! これは良い番犬だわ。


 そして、街へ入る手続きをしている列の最後尾に荷馬車を着けるのだけれど。


「おい! そこの!」


 何人かの下っ端役人達が、こちらへと近付いて来た。

 並んだ人たちから、何か聞き出しているみたい。

 人によっては書類を見せたり、多分手形みたいな物を確認しているのかしら?


「許可証の類は!?」


「はい。どうぞ」


「っ!?」


 そう言って、自分のギルドの許可証を、丸めた羊皮紙を広げて見せてあげると、目を見開いた兵士は、慌てて踵を返して走り出した。


「なぬ?」


「あらら~、これってやばいんじゃな~い?」


 隣で愉快そうにエスちゃんが笑う。

 ぬくく……

 もしかして、もしかすると……


「あ……あああ……」


 バタバタと複数の兵士が駆けて来る、その先陣を鎧甲冑に身を包んだ、如何にも騎士でございという者が数騎。


「お~い、シュルル~。あんた何したの~?」


 そう言って、エスパーダは自分の剣を傍らに寄せ、外套で隠した。


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