第62話 変身の時!
それからワニの前足片方だけ焼いて、結構お腹が満ちた。
みんな変な照れ笑い。
涙の後には虹が出る、かな?
ワニは良い。
革は人間にも売れるし、お味も淡白。そんなに臭みも無い。
多分、生息する水質にも寄るんだろうけれど。
沼ゴブリンなんて、余程お腹が空いてない限り、好んで食べるものじゃなし。
何があんなに違うのだろうと、ちょっと不思議にもなる。
きっと沼がいけないんだ。あのどろっとした沼が。
シュルルがそんな事をぼんやり考えている間に、お空もすっかり陽が昇り、そろそろ人間の街、ブラックサンへ向かおうかと思った。
「じゃあ、みんな。ちょっと良いかな?」
ぽぽいと無造作に放り投げた投げた金の腕輪4つ。
鮮やかで明るいグリーン、鮮烈濃厚なオレンジ、淡く澄んだウォーターブルー、深く深淵なるパープル。4つの煌めきが、ずずんと地面に突き立った。
「頭数は丁度ね。好きな色のを取って頂戴」
「マジか!?」
「「金じゃないの!?」」
「嘘……」
「こいつは、あたしが使ってる物と比べて、かなり機能を制限してる」
そう言って、シュルルは両腕にはめてある黄金の腕輪を見せた。
「その代わりに、より少ない魔力で人の姿に見せかける事が出来る。
けれど、尻尾が無くなる訳じゃないから、せいぜい馬車に踏まれたりしない様に気を付けて欲しい」
「じゃあ、遠慮無く」
エスパーダはパープル。
ゼロはオレンジ。
ワンはウォーターブルー。
ナルエーはライトグリーン。
皆、嬉しそうに手に取っては光にかざして眺めたり、早速腕にはめてみたりと、きゃっきゃとはしゃぎ始めた。
そんな姉妹の様を眺め、シュルルは不敵な笑みを浮かべてみせた。
「それを腕にはめたら胸に、心臓の上に当てて『変身!』と言って頂戴。
みんなの心音を記録して、所有者を登録するから」
「なんでぇ、誰でも好き勝手に使えるもんじゃねぇ~のかよ?」
「そうしないと、どこかの乱暴者が誰かを殺して奪って売っぱらおうってするかもでしょ~?」
4尾の視線が、一斉にエスパーダの顔に集中し、流石の彼女もぎょっとした。
「し、しねぇ~てばよ!」
「誰も何も言って無い……」
と、ナルエーの弁。
彼女はさっさと右の腕にはめ、まろみのある豊かな左の胸へと乗せた。
「変身」
すると、ぽうっと淡い緑の光が腕輪から放たれ、瞬間、ナルエーの身体を包んだかに見えたら、次には人の女性らしい姿格好をした彼女が、文字通り立っていた。2本の脚で。
「「「「「うおおおおおっ!?」」」」」
「へえ~……」
2人と3尾の興奮と対照的に、ナルエーは自分の身体を見渡して、一言。
「服のセンスは悪く無いわね」
腕輪の色と同じ色彩のワンピース。そのスカートを翻して見せ、胸元の開き具合も調整して見せた。
「やろうと思ったら、ある程度の調整も出来ると思うわ。具体的に思い浮かべる事が出来ればね」
「あ、あの!」
「ん、なあに?」
ブライトが頬を赤らめて、目を見開いていた。
「ぼ、僕にも……いや、僕らにも……」
「あなた達は、先ず食べて。それからね」
「あ、はい……」
しゅんとしちゃって、ちょっと可哀そうだけど、人間が人間のふりをする必要は無いからね。とシュルルは思った。
「2人には、体力をつけて、元気になって貰わないと」
「でも、シュルル達は、街で何すんの?」
へ~っと言いながら、ナルエーの幻の脚を触ろうと空を切っていたサニーが、顔を上げて訊ねた。
「目的は幾つもあるけれど、第1は大勢が1ヶ所で生活出来てる仕組みを知る事。
第2には私達の事を知る事。
正直なお話、私達は自分達の種族の事を余り知らないのよ」
「え?」
「意外かしら?
そして、第3が、私達が人間の街で生きて行く方法を探る事。
今のままだと正体がばれたら、多分大騒ぎになっちゃう」
「僕たちは知ってるけど?」
「ブライトもサニーも、私達が殺された方が良い?」
「そんな事、ないよ!」
「じゃあ、黙っててくれるわよね?」
「うん!」
「だな」
サニーの決意に、ブライトも同意してくれた。こんなに嬉しい事は無いわ。
今度は邪魔が入らず、シュルルは二人を招き寄せて、きゅっと抱き締めた。
「よ~し、良い子良い子」
「え、えへへへ……」
「……」
サニーは照れて、ブライトは目を瞑ってじっとしていた。
エスパーダは如何にも武装した護衛風の大柄な女。
ゼロとワンは、如何にもおきゃんな町娘。
そしてナルエーは、物静かでお淑やかな町娘。
しかしてその実態は~みたいな感じで変身完了!
体格は大分違うけれど、面差しが似ているから一目で血の繋がりを感じさせる。
「どれどれ~」
最後に、ゴロっと荷台から剣や弓と言った武具を取り出し、確認させて貰った。
「ああ、これこれ」
その中から、反り身の刀を取り出し抜いてみた。
片刃のそれは、他の直刀とはかなり雰囲気が違う刀身をしている。
「三日月が欲しがってた奴に違いないわ」
「蛮刀だな」
「知ってるの?」
「おいおい。あたしは一応、あちこち見て回ったからな。
主にヤシマの連中が使う剣だよ」
「ヤシマ?」
「ああ、危険な海賊どもさ」
「へえ~……」
「へえ~……」
「へえ~……」
ゼロとワンが横から首を突っ込んで、ぺたぺた触って指紋をいっぱいつけた。
そんな2尾にエスパーダは苦笑い。
「それ、手入れが大変らしく、ぺたぺた触るとそこから錆びるって話じゃな~い」
「「「げっ!?」」
ともかく、街へ向けて一同は出発する事となった。
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