第14話 ラミア、人間の手当てをする


 思わず反射的に、吐いてしまいました。それも盛大に。


 周囲に濃厚な血の香りをまき散らし。


 何て恥ずかしいの?

 暗がりで誰にも見られていなくて良かったわ~……


「う~……うえっ! うっ……」


 このこみあげてくる、熱いものは何!?

 それにしても、不味い! 不味すぎる! 便所の肥溜めに首を突っ込んだんじゃないかなって位に、酷いお味!


 私は取り乱したものの、すかさず未だ血をたらたら垂れ流し続けている『血ぃ~吸ったろカ~』を、これ以上他の組織を傷付けない様、男の首に突き立ったままのその先端にそっと指を添え、静かに引き抜いた。

 男の体内より先端が抜けると共に、指の下からぷっと熱いものが流れ出ようとするのが判る。

 片手で『血ぃ~吸ったとカ~』を専用のケースへ戻し、アルコールの中へ浸す。そうしないと、先端が詰まって後々面倒になるから。錬金術の器具は、その特殊な目的の為に、自作する事が多い。つまりは1点物であり、個人的に工夫に工夫を重ねた代物で、おいそれと破損する訳にはいきません。


 それから、私は細長く切った、木綿の布を取り出しました。

 その布は、中央で固結びにしてあり、その部分を太い血管に付けた傷の部分へ押し当て、ぐるり首に巻いて結びます。


「やっぱり、首は駄目ね。気道を圧迫するのと、左右両方の血管を閉めてしまう……」


 そう確認する様に、言葉をこぼす。


 動物で実験しようにも、生きたまま捕らえる事が出来なくて、半死半生にした冒険者を背後から押さえつけ首筋からがぶり、その感覚に任せて今回も首の血管を選んだ訳だけど……


「参ったわ……街の人間って、こんなにも血が不味いものなのかしら?」


 口の中に残る残尿感。

 多分、血中に尿の成分が残っている。それと、この異様な味は、アルコールだけじゃない。何か薬物的な何かが……そして、この舌触りの悪さと、ごりごりした感触は……どこか内臓を痛めている!?


 そう思って、月明かりを頼りに、男の衣類をはいでみた。

 最初に、脇の下や足の付け根に指を這わせ、そこにしこりが無いか確認する。ある……それも異様な、こぶみたいなのが……炎症が起こってるみたい……

 野生の生き物では滅多にお目にかかれない。

 だって、弱ってるとすぐに他の生き物の餌になっちゃうからね。

 それを思うと、人間の街は人間に優しいのかも知れない。


 腹部に指を這わすと、すぐに判った。


 どこを押しても、固いしこりを感じる。

 末期かな? 全身、癌化が進んでるみたい。

 きっと、アルコールと何かの薬で、痛みをごまかしてるんだわ……酷い味……きっと強い麻薬か何かに違いない……


 溜息一つ。


 もしかしたら、吸血鬼に襲われて、万が一下僕にでもなれば……そう考えて、夜中に徘徊していたのかも。


 そこで思考を戻すと、また吐き気が。

 もう、ここでする事は何も無いわ。


 妙な胸騒ぎを覚え、退散しようとした所で、路地の向こうで人の声が響いた。


「こっちだ!! こっちから血の匂いがするぜっ!!」



 

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