第1章 ~そうだ! 人間の街へ行こう!~

第12話 港街ブラックサン


 ずり


 ずりずり


 ゆっくりとだけれど、私は身を押し付ける様にして、ほぼ垂直の壁を昇っている。

 時は深夜。

 月の綺麗な、ロマンチックな夜ね。

 にも拘わらず、1尾冷たい石に抱き着いているのは、誰でも良いからしがみついていなきゃ、胸の高まりが抑えきれない。そ~んな訳じゃないのよ。


 ここは、港町ブラックサンの大門脇。

 昼間だったら、大勢の人間達や二本足の連中が押しかけ、とてもじゃないけれど、こ~んなあられも無い姿を披露する訳にはいかない場所。


 でも、今は深夜。

 闇が全てを覆い隠してくれる。

 月明かりが、更に闇を濃くしてくれる、そんな場所を選んでよじ登ってるって訳。


 暫くして、ようやく登り終えると、そこからは夜の街を一望出来た。

 なかなかに爽快な気分。

 頬を打つ潮風が、少し重たく感じるけれど……


 日が落ちてからだいぶ経つのに、明かりがあちこちに灯っているのは、それだけお金と人が動いているって証拠かしら?

 対照的に、まったく明かりが見えない地域もあるわね。


 で、街をぐるり覆う石壁の上には、数人の歩哨が点在していた。

 私は、そんな彼らに手を振りながら近づいてみる。


 誰も私に気付かない。

 それはそうよ。だって、最初から透明化の魔法をかけているからね。

 月明かりに、鎧に身を包む兵士達の鍛えられた肉体が、程よい陰影になって浮かんでいた。

 抱き着いたら、どんな感じかしら?

 きっと、石壁よりは暖かで、楽しいに違いないわ。

 でも、絶対大騒ぎになって、今夜の遊びはお終い。街の入り口でお帰り下さいは、つまらないわよね。


 そう思いなおし、私は街へと降りて行った。


 今度は、階段を使いました。


 そう。


 しゃなりしゃなりと、お淑やかに……



 ◇



 私達が縄張りにしている荒野は、様々な種の生き物が生息しているけれど、その性なのかあまり人間が積極的に入り込もうとする地域では無いみたいなのよね。


 遠く西や北に高い山々を望み、南方には海がある。

 旅の行商人が言うには、この辺りはカラシメンタイコ公国の勢力下にあるらしく、その首都になるのが港街ブラックサン。河口に面する港湾都市として、遥か遠方への玄関口であり、主に沿岸と河川沿いとに人の入植が進みつつあるみたい。


 何でも、黒太子と異名をとったクラータという皇子が、海賊王を名乗った邪悪な海賊皇帝を打ち負かし、この地を切り取ったとか。

 でも、百年も経ったら、腐敗が進んで誰が海賊で誰がそうでないか、もう判らないくらいまだら色になってしまったそうね。


 それが、この地域の中心。

 人間達の一番大きな街。

 港街ブラックサン。


 今、私がとぐろを巻いている所。

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