第一章 12話 結果から言おう!観れなかったと

父ダノンゾルデとデミの模擬試合が遂に始まろうとしていた。


「デミ、場所を変えるぞ。」


ダノンゾルデは手を前に突き出し


「ムーブ」


と言った。その瞬間、ターダノ、デミ、ダノンゾルデは黒い空間に包まれ、その黒い空間がひび割れたかと思うと、先ほどの訓練場よりも広い訓練場に出た。

また、ダノンゾルデは耳に手を当てると、


「ターグリフ、今から模擬試合を行う。試合相手への蘇生薬の使用を手伝って貰いたいのだが、どうだろうか?」


そうダノンゾルデが発言した直後といっても良いタイミングで、訓練場の中に母ターグリフが来た。


「えぇ、良いわよ〜」


「思念で返して貰えば良かったのだが」


「私は魔族の中でトップクラスの速さなのよ〜。

返事が決まってるなら話すより来た方が早いわ〜」


「感謝する。」


「そんな感謝することじゃないわよ〜あ・な・た」


「ターちゃん・・・」


ちょっと桃色な雰囲気が出来そうだったので、ターダノが遮った。


「ちょっと!これからデミさんと模擬試合をするためにお母さんを呼んだんじゃないの?」


「あ、そうだった。すまんな、デミ、ターダノ」


「いえいえ、良いんですよ!

お二人の会話を聞いているだけで、私も妻の事を思い出し、ますますやる気が出ましたよ!」


「そうか、ではそろそろ、真面目にやるぞ。」


そうダノンゾルデが発言した瞬間、その空間の空気が変わった。

その空間が重苦しい空間となり、息するのでさえ意図的にしようと思わなければ出来なくなるほどに、威圧的で高圧的な空気感。

低レベルの魔族によっては気絶したり動けなくなる程であった。


ターダノは気絶した。


「デミ、実際にお前の前で発動するのは2度目だが、対することになるのは初めてだろう。我が神器はガルディアスという。

俺から神器を解放させて貰うぞ。

ガルディアス、リラシオ(解放)!」


ダノンゾルデは神器ガルディアスを構え、発動させた。

神器ガルディアスは豪華な杖のような武器であった。

しかし、ただの豪華な杖ではなく、周囲を大小様々な白く渦巻くボール状のものが浮かんでいた。

その白く渦巻くボール状のものの大きさは見える範囲では1センチ程度のものから、学校の上にある貯水タンクのようなサイズのものまであり、ダノンゾルデ自体が200センチ近くの長身でかなり体格が良いことも相まって、なんとなく難関ゲームの最終ボス的な見た目に見える。


「おぉ!ダノンゾルデ様の神器を改めて見させてもらいましたが、これから対することになると考えるだけでも、ブルブルと体が震えますな!

ですが、私もこのような機会は滅多にないと思いますので、この機会を借りて全力を出しきらせていただこうと思います!

神器テンコウドウメイ、リラシオ!」


デミの神器テンコウドウメイは両手で持つ大鎌と大鎌を二つくっつけたような神器だった。

また、ただの大鎌ではなく、大鎌は片手ごとに腕輪と結ばれており、その間に細いチェーンが付いていた。


「デミ、お前の神器は解放することがほとんどなかったが、観たことは何度もあるぞ。

模擬試合ではあるがその神器を使って私と命のやり取りをすると思いながらかかってこい!

俺を驚かせたら、褒美をやろう!」


「ははは、そう言っていただけるのであれば、ダノンゾルデ様を驚かせるしか無くなりましたな!

では、テンンコウドウメイ、行きますよ!」


そこからの戦いは超がつくほどの短時間であったが凄まじいという一言であり、デミは何度も死にかけ、ターグリフの蘇生薬によって全回復し、回復してすぐ全力で挑むのだが、はっきり言ってデミがいかに神器テンコウドウメイを解放したところでダノンゾルデに一太刀を浴びせることすら叶わず、蘇生薬を100回使用して試合が終了した。

デミは途中で神器の活用に関して、大鎌を分裂したり、地面に設置し神器の第2・第3形態へと変化させたりして、ダノンゾルデを一瞬拘束できる手前までいった事もあった。

その瞬間を観ることができていれば、ターダノにとって、どれほど今後につながっただろうか。

しかし、ターダノは気絶していた。


またダノンゾルデは久々の模擬試合を楽しんでおり、ターダノに全く気がいってなかったので、気絶していることに気づかず、またターグリフは早い時には2秒程度で蘇生薬を使用しなければならない事もあり余裕がなくターダノに気づかず、デミははっきり言ってダノンゾルデに全力を尽くして挑んだからこそターダノに気づくことはなかった。

そのため、模擬試合が終了して、一呼吸置いた時にダノンゾルデがターダノが気絶しているのを発見した。


「あれ?ターダノが立ったまま気絶してるんだけど・・・」


「あら、本当ね!いつ気絶したのかしら〜」


「まぁ、どの段階で気絶したのかは知らないが、少しはこの試合を観れて、少しでも成長できたら良いかな、と私は思う。」


「そうね、途中まで見れても有意義に感じられる試合だったと思うわ!まぁ、どこまで試合が観れていたのかどうかは分からなかったけど。」


残念ながら、父、母の予想をはるかに超えてしまったのは言うまでもないだろう。

そのため、ターダノの初めての模擬試合観戦は、気絶を体験するだけのものとなるのであった。

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