第二十一話
新学期といえば、色々決めなくてはいけないことがある。
まずは、席。これは重要だ。
教師との距離が近い前の席はもちろん不人気、窓際・最後列がベスト。
しかし小柄だったり、視力が弱いためあまり後ろ過ぎるのも…という事情もあったり、中々悩ましい問題である。
しかしそれより先に決めるべきことがあった。
席替え以前に、その仕切りをするクラス委員である。
「成島君はー?」
誰もが心の中で思っていたことを代弁するかのように、一人の女子生徒が声を挙げた。
「だよなー、成島がいるんだったわ、このクラス」
「成島君ならみんな言うこと聞くよねー」
口々に便乗する他の生徒たち。
本人が立候補したわけでもないのにまるで押し付けているようにも聞こえるが、いたって本人は静かに微笑んでいる。
なーるしま!なーるしま!
まるで甲子園のスタンドのような掛け声まで始まって、件の男子生徒は苦笑して立ち上がった。
「うーん、みんな、僕でいいのかな?」
引き受けることが前提のような発言に、掛け声を上回る拍手が巻き起こる。
「誰も文句ないでしょー」
「私もオッケー」
高校入試の試験から一貫して成績は学年トップ、一年生ながらサッカー部では10番をつけ、実父は高名な政治家。
付け加えて本人も180cmの長身と爽やかな容貌で女子にも大人気。
反対する人間など、担任を含めて誰もいなかった。
「…じゃあ、ほかにやりたい人がいなければ、僕でいいかな」
無論、学年一の人気者と張り合ってクラス委員などという面倒な役目を引き受けたい者など一人もいない。満場一致で成島一矢のクラス委員が決定した。
成島はそのまま教壇へ上がり、HRを仕切り始めた。
「えーっと…、じゃあ、後は副委員を決めたら席替えしようか。誰かやりたい人いる?」
えーっ、という声がそこかしこから聞こえる。
やりたくない、という思いと、憧れの成島とコンビになれるチャンスをかぎ取った一部女子の嬌声と。
しかし自ら手を挙げる者は一人もいなかった。
「誰もいないかぁ…。じゃあ、僕が推薦したい人がいるんだけど、いい?」
自分が指名されるなど思いもよらない生徒たちは口々に賛同した。
「じゃあ…、西海君、副になってくれる?」
完全に他人事と決めてかかっていた仁は、突然名前を呼ばれて驚いた。
「え…、俺?」
「うん、西海君、確か何も部活やってなかったよね。だから、時間あるかなと思ったんだけど、どうかな?」
桜も驚いた。突然仁が指名されたこともだが、帰宅部であることまで知っているなんて。
でも仁が部活に入っていないのはアルバイトをするためだ。副委員なんてやっていたらバイトが出来なくなる。
仁も同じことを考えて逡巡していたらしい。少し沈黙が続いたが、諦めたように一つため息をつくと、頷いて立ち上がろうとした。
その瞬間。
「あの!私、やります!」
桜がはっきりと、手を挙げながらそう言った。
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