第三章

第十九話

 新学期。

 桜と仁は、2年生になり、そして同じクラスになった。

 クラス発表板の前で、思わず二人で顔を合わせて、そして微笑み合った。


(やっと春休み終わった…。今日からまた毎日仁に会える。そして同じクラス…)


 桜はニヤニヤが止まらない。春休みの間、仁に会えず、しかもやっと会えた1日を兄に見事に潰されて溜まっていたストレスも、このクラス替えで吹っ飛んだ気分だ。


「ハーイ桜!また同じクラスだね~」

 中学から一緒の山本美夕が後ろから飛びついてきた。

「うわっ!びっくりした~。うん、よろしくね」

 背後から桜の首に飛びつきながら、人差し指で桜の頬をツンツンつつく。

「さっきからニヤニヤして~。良かったね~、ダンナと同じク・ラ・ス♡」

「えっ!?う、うん///」

「キャー、もうクラス一緒になったくらいで顔赤くして…桜可愛い~~」

 キスの真似事までし始めた美夕から逃れようとバタバタしていたら、仁が後ろから桜の頭を抱えて美夕から引き離した。

「山本、悪ふざけ過ぎ」

「おお、西海くんおはよー。あら~、少しはいいじゃな~い」

「桜がいいってんならな。嫌がってんだから駄目だ」

「はいはい~。じゃ、桜、またあとでね~」

 美夕は別の友達のところへ駆けていった。


「…あの後、大丈夫だったか?」


 仁が心配しているのは、例の春休み中の、光司お邪魔虫付きデートのことだった。


◇◆◇


 仁と桜が「なんとなく」付き合い始めたことを知って、何故かブチ切れた光司。お店の迷惑になるほどの大絶叫で反対した。

 が。

 その光司に、ずっとイライラを感じ続けていた桜が、覆いかぶさるようにブチ切れた。


「お兄ちゃんに関係ないでしょ!もういい加減にして!」

 バンッ!とテーブルを叩いて立ち上がると、仁の腕を引っ張って、光司を置いて出てきてしまった。


 おおい、桜、待ってくれぇぇ。

 光司のすがるような呼び掛けも完無視で、そのままショッピングモールも出て、駅前ロータリーも突き抜けて、反対側にある公園に入って、そこで桜はやっと足を止めた。

 切れる桜など初めて見たので、仁は驚いたままずっとついてきてしまったが、歩き止めたまま固まった桜を心配して覗きこんだら。


 大粒の涙をボロボロこぼして、声も立てずに泣いていた。

 仁は、桜の背に手を当てて、静かに誘導しながら手近なベンチに二人で腰かけた。

 その間中、桜はずっと泣き続けていた。


 三十分は経っていなかったと思うが、それに近い時間が経って、やっと桜の涙が止まった。

 そこから少し経ってから、小さな声で桜が呟いた。


「…ごめんね、仁」


 忙しいアルバイトの合間の休みに引っ張り出しておいて、初っ端から河野やら兄やらが割り込んで、仁を質問攻めにしたり突然怒鳴ったり。

 桜だって、今日をとても楽しみにしていたのに、台無しにされた。

 朝、ウキウキしながら準備していた自分を思い出すと、いっそ滑稽なくらいだ。


「ごめんね、お兄ちゃんも、河野さんも、あんなところにいるはずなかったのに…。バイトで疲れてるのに会ってくれたのに、全然楽しくなくて…。お兄ちゃん怒鳴るし、私も切れちゃったし、こんなところまで来て私泣いてるし…。ごめんね、本当にごめんね…」


 小学生みたいに泣きじゃくる桜が、何故か仁は可愛くて愛しくて、気が付いたら抱き寄せて、涙でぐちゃぐちゃの頬に、キスをしていた。

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