第十八話

 以前桜が気に入り、今回仁が薦めたカフェに、3人で入った。

 ウッド調のインテリアと、食事の邪魔にならない程度に配置されたグリーンが、ショッピングモールの一角だということを忘れさせる。

 各々好きなものを頼んで、食事が来るのを待った。

 その間も―。


「体育祭で知り合ったんだー。桜ね、こう見えて運動苦手なんだよね。昔から運動会とか嫌いでね。雨が降るようにてるてる坊主を逆さにつるしてお祈りしたりしてたんだよ」

「ちょっとお兄ちゃん!変なことばらさないで!」


 桜が運動音痴なことは仁ももう知っている。女子にしては背が高くスラッとした体型のためスポーツウーマンに見られがちだそうだが、足は遅いしボールへの反応は遅いし、およそ体育向きではないことは、付き合う前から気づいていた。

 だから運動会前夜のルテルテ坊主の話は、とても桜らしくて、仁は思わず吹き出してしまった。

「仁まで笑う~~?!」

「いや、だってお前、去年の体育祭も、参加競技減らしたくて逃げ回ってたもんな」

 クラスは違うが体育祭の練習は合同だった。桜が逃げ回っていた光景を思い出して仁はクスクス笑う。

 桜はそれを、自分の無様な競技姿を思い出して笑っているのかと勘違いして、ぷーッと膨れた。

 そんな桜を微笑ましそうに見つめる仁。を、探るような表情で伺う光司。


「…で?その後から付き合うようになったんだ?」

 光司の話題転換で、体育祭の思い出から一気に引き戻された桜と仁。

 そして、何故かお互い確認するように顔を見合った。

(?…どうしたんだ?)

 ここが肝心だ。光司は二人に気づかれないよう息を呑んで言葉を継いだ。

「ど…、どっちから告白したの?」

(桜ではない!断じて桜ではない!俺の桜はそんな子ではない!お、女の子から男に交際を迫るような…そんなことは絶対に…!)

 どこの父親かと思うような想像と決めつけで、二人の言葉を待った。


 しかし、中々返事がない。

「…?や、やっぱり仁くんかな?」

 願望が勝った問い直しをしたが、二人からは返事がない。

 というより、戸惑っている。


「告白って…」

「したっけ、私たち…?」


 光司に突っ込まれて改めて思いなおしたが、どっちかがどっちかに「付き合おう」とはっきり言葉で伝えた覚えが…ない。

 例えば男同士、女同士で、気の合う相手と、気が付いたら友達になっていつも一緒に行動しているような、そんな感覚。


(言われてみれば、好きって言ってない、私…)

(俺から付き合ってくれって、言ってない、よな、多分…)


 呆然とする桜と仁より、さらに愕然とした思いで固まっているのが、光司。


(告白してない?交際宣言してない?…それで、お、俺の桜を…!!)


 先ほどまでの良き兄演技はどこへやら、一気に血圧上がった光司は、ちゃぶ台ひっくり返す勢いで怒鳴った。


「お前!告白もせんで俺の妹と付き合うんじゃなーーい!反対だ!誰がなんといっても、この交際は無効だーー!!」


 丁度食事を運んできた店員は、びっくりしてビーフシチューをひっくり返してしまった。

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