第十七話

 結局、河野を無理やり置き去りにし、光司は桜と仁にくっついて歩き出した。


 桜は最初は苦虫を嚙み潰したような顔をしていたが、徐々にその表情は暗くなっていった。

 しかし妹の変化に全く気付かない光司は、二人の間に割って入るように、ひっきりなしに仁に話掛ける。


「二人は同じクラスなの?」

「いえ、クラスは別で…」

「へえ、桜は部活には入ってないんだけど、じゃあどこで知り合ったの?」

「隣のクラスで、体育の授業が一緒で…」

「でも体育の授業って男女別じゃないの?」

「あ、で、体育祭で同じグループになって…」


 光司の根掘り葉掘りが止まらない。

 桜はため息をついて、

「お兄ちゃん本当についてくるの…?」

 と確認したところ、光司は

「ずっと一緒なんて無粋なことはしないよ。そうだな、もうお昼だから、ご飯をご馳走しよう。仁くん、何が食べたい?」

 なんて言い出した。


 あくまで仁を攻略するつもりらしい光司に、桜のイライラとハラハラは止まらない。

 ハラハラは、身内が仁に迷惑や負担をかけているのでは、という心配。

 イライラは、まるで兄に仁を取られたような苛立ち。

(せっかく…ずっと春休み中会えなくて、やっと会えたのに~~~~)


 仁は普段からアルバイトばかりしている。しかも整備工場やガソリンスタンドで、技術も接客も必要で、心身ともに疲れてるはず。たとえ好きなことで、夢のためとはいえど。

 だから、今日も本当は躊躇った。休ませてあげたほうがいいのでは、と。普段の桜ならそうしただろう。

 でも今回は、会いたかった。メッセージや電話ではなく、実物の仁に会って、顔をみて、声を聴きたかった。大好きな仁を、全部感じたかった。


 なのに…。

(私よりお兄ちゃんのほうが仁と話してる!仁とくっついてる!)


 くっついてるわけではない。光司としては二人の間に入ったつもりなのだが。

 奢るという光司にずっと遠慮し続けた仁だが、どうにも辞退する様子のない光司に根負けして、仁が桜に話を振った。

「前にお前が美味しいって言ってた店でいいか?」

 以前、学校帰りに寄ったカフェを指しているのだろう。桜は頷いた。


 光司はそのやり取りを見ながら、内心(う~ん)と唸る。

 自分への配慮、桜への気遣いを忘れず、かといって丸投げしない。

 高校生でここまで出来るなんて大したもんだ。自分の同年代の頃を思い出して感心する。

 しかし、さっきの「お前」呼びは聞き逃していない。「お前」と呼ばれることに慣れている風の桜の態度も。


 の進み具合は、まだのように見える。

 しかし。

 もっと大切なところで、この二人はしっかり繋がっているのではないだろうか。


 当初の想定を自分で覆しながら、光司は、

(いやいや、あれだけではまだわからん!さてランチだ!)

 もう少しお邪魔虫を続けることにした。


 


 

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