第十六話
『桜さんと、お付き合いさせてもらっています』
兄を前に、はっきりと仁はそう告げた。
桜は全開に赤面した。それを見た仁は、昨日の♡マークも連動して思い出し、同じように真っ赤になった。
(お、お付き合い…。うん、そ、そうなんだけど、でも、は、はっきりと言われると…)
光司も見惚れるほど男らしく兄へ挨拶と宣言をした仁。
が。
その直後から、桜と二人でモジモジテレテレ…。
なんとも愛らしい姿に様変わりした。
(なんだ…。二人とも、年齢相応じゃないか)
高校生でこれのどこが相応なのかと突っ込まれそうだが、光司は自分の妄想を取り下げて安堵のため息をついた。
「うわー、かっこいいねぇ。君、桜ちゃんと同い年?男らしいなぁ。ね、桜ちゃん。かっこいい彼氏だね~」
河野はヘラヘラと二人に話かけると、光司はギッと河野を睨みつけ
「黙れ!君は関係ないだろう!」
「あれ~?進藤先生、何怒ってんすか?可愛いじゃないですか、二人とも」
「もう君は帰りたまえ!二人には私が付いていく!」
ついていく?!
兄の発言にびっくりした桜は慌てて抗議した。
「お兄ちゃんもついてこないで!もう、そもそもなんで二人ともここにいるの?」
「え、あ、いや、お前がおしゃれして出ていくし、どこへ行くのかなぁ、と…」
「は?!じゃあ何、家からつけてたってこと?!」
「え~、先生、それはひどいなぁ、ストーカーじゃないですかー」
「だから君は黙っていろ!大体君は何でここにいるんだ!」
「僕ですか~?いや、これは本当にたまたまで。天気いいから買い物でも、と思って駅前まで来たら、すんごい可愛い子がいるなぁ、と思ったら桜ちゃんだったからー」
「だから!なんで桜をちゃん付けするんだ、お前が!」
とうとう「君」が「お前」になってしまった。
どんどん論旨もずれていっていることにも気づかないほど興奮し始めたことに、光司自身は気づかない。
そして、桜と仁は。
衆人環視の中、図らずも仁が兄に交際宣言をし、河野から「彼氏」を連発され、普段は学校の友人すら中々気づかないほど淡白な付き合いをしている二人にとって、恥ずかしさの限界値はとうに超えていた。
そっと右手を動かして、桜は仁のパーカーの裾を引っ張った。
耳の裏まで赤くなっていた仁も、その合図に気づいて目だけ桜へ向けた。
桜は兄達には聞こえないくらい小さな声で、
(も、もう、お兄ちゃんたちはこのままにして、私たちは行かない?)
何よりこの場から離れたい。そんな思いを共有した二人は、
「もういいよね…。私たち、行くね?」
桜の声にハッとした二人。指先だけだがしっかり繋がれた二人の手を見て、光司のメーターが振り切れた。
「ダメだー!今日は、俺も一緒に行く!」
爽やかな春風の中、光司の絶叫が駅前に木霊した。
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