第十二話
翌日。
バイト先に着いた桜は、同じく早めに来ていた松野へ、バイトのシフトについて確認した。
松野は桜の質問を聞きながら、
(ははーん、昨日進藤先生が連絡してきたことって、このことか)
昨夜遅く、突然光司から電話があり、なぜか
『桜のシフトを、明後日まで入れておいてほしい』
と頼まれたのだ。
松野としては早く図書館内を片付けたいから人手があるのは助かるが、「明後日まで」というのが意味不明だった。
そこへ、朝一の桜の質問。
ちょっと好奇心が湧いたので、聞いてみた。
「特に決めてないけど…。何か予定あるの?」
桜はとっさに隠し事が出来ない。松野の質問に、ぽっと頬が赤くなった。
(あ~~、なるほど)
女性は同性の、しかも年下の反応に敏い。好きな人か、彼氏か。その系の予定が入ったのだろう。
としたら、昨日の進藤の頼み事は…。
にんまり笑って、松野は桜に頷いた。
「大丈夫よ、もし休みたい日が決まっているなら教えて?」
優し気(に桜には見えた)な微笑みにほっとして、明日の休みを申請し、松野は快諾した。
早速今日の作業に手を付け始めた桜を微笑ましく見送ると、さて進藤をどういじってやろうかと、松野はほくそ笑むのだった―。
◇◆◇
休み時間。早速桜は仁にメッセージを送った。
『明日、仁バイト休みなんだよね。予定ある?』
勇んで自分も休みを入れたものの、仁の予定が埋まっていたら意味がないことに今更気づいた。
でも、会いたい。もし仁が丸一日空いてないとしても、隙間を見つけて顔だけでも見たい。
普段学校へ行けば会えるだけに、長い休みは尚更そう感じる。
仁もそう思ってくれているかは、自信がないけれど…。
つらつら考え事をしながらお弁当をつついていたら、返事が来た。
『いや、何もないけど』
思わず顔が綻ぶ。けど…、会いたいって、どうやって言えばいいんだろう?
返事に悩んでいると、背後から松野が近寄ってきた。
「ニヤけちゃって~、彼氏?」
三日月みたいな目をした松野のドアップに、桜はびっくりして
「うわっ!!ま、松野さん!はい、そうです!!」
正直に叫んでしまった。
(素直だなぁ、こりゃ可愛くて、進藤先生も過保護になるわけだわ)
しかし女は女の味方。ついでにおせっかいも焼く。
桜のスマホ画面を覗き込み、状況を把握するやいなや
「あらやだ、すぐ返事しなきゃダメじゃない」
と、言うが早いか、パッとスマホを取り上げると
『私も休みなの~。デートしよ♡』
と入力し、送信した。誰もが使ってるメッセージアプリだから操作も淀みない。
「はい、返事しておいたからね」
へ?と訝しる桜へ、松野は返信済み画面を差し出した。
「…あーー!!松野さん!!」
きゃぁぁ!と悲鳴を上げる桜。だが既に時遅し。仁の既読がついてしまった。
(そりゃ、この通りのことを言いたくて悩んでたんだけど…ハートマークとか!使ったことないのにー!)
ありがたいやら迷惑やら、頭を抱える桜だった。
一方、受信した仁。
見慣れない♡に、たったそれだけなのに、恥ずかしくて返事が出来ないまま、仁の昼休みは終わった。
明日の待ち合わせが決まったのは、結局夜の8時だった。
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