第十一話

 ヴー、ヴー、ヴー。

 ベッドで本を読んでいたらスマホが鳴った。

『仁』

 え?仁が電話?

 びっくりして慌てて出る。

「もしもし?仁?」

『おう、お疲れ』

「びっくりした、珍しいね、電話」

『なんとなくな。バイト、どうだ?』

「うん、今日で二日目だったんだけどね、シール作るのとか専用の機械があって面白いんだよー」

『何のバイトなんだよ?』

「あ、言ってなかったっけ。お兄ちゃんの大学の図書館がリニューアルするとかで、そのお手伝い」

『お兄ちゃん?お前兄貴居たの?」

 桜は自分がびっくりした。そっか、お互いの家族の話もしたことなかったわ。

「うん、いるの。すんごい歳離れてるけどね」

『大学生じゃないのか?お兄ちゃんの大学、って…』

「ううん、大学で先生やってるの。で、司書の先生紹介してもらって…」

『へー…』

 仁は多少面食らった。一緒にいても兄の話など出てきたことがないから、勝手に兄弟はいないものだと思っていた。

 ほんの少し、桜との距離が空いたような、その分本来の桜の姿が見えるようになったような、不思議な気分を味わっていた。

『明日もバイトなのか?』

「うん、春休み中はずっとかな。仁も?」

『ああ、その次は休みだけど、基本びっしりだな』

 仁が休み…。その日、会いたいって言ってもいいのかな、でもバイトで疲れてるなら、一日休みたいって思ってるかもしれない、どうしよう…。

 急に電話先の桜が無言になった。

『おい、どうした?』

「え?う、ううん、大丈夫…。ごめんね疲れているところ。でも話せて嬉しかった」

『…うん、じゃ』

「うん、おやすみ」

 そっか、明後日は仁バイト休みなんだ…。

 あれ?でも私って、休みいつなんだろ?聞いてなかったな。

 明日松野さんに聞いてもいいのだが、気になるので桜は兄に聞こうと部屋を出た。

 そこに。

「…?お兄ちゃん?何してるの?」

  桜の部屋のすぐ前に、光司がいた。


◇◆◇


 桜の部屋から話し声が聞こえる。電話か?

 …彼氏か?!

 思いついた途端目をギラつかせながら、さりげなさを装いつつ桜の部屋の前に行く。

 何を話しているのかわからないが、楽しそうな高い声が聞こえてくる。

 友達という可能性を一切考えず、通話相手は彼氏だと決めつけている光司は、会話の内容が気になって仕方がない。

 内容はわからないまでも、言葉の断片から彼氏の正体が知れないか。

 そんなことを狙っている。

 しかし、相手の情報はほぼ得られないまま、思いのほか短時間で電話は切れたようだ。

 今日は無理か…。階下へ戻ろうとしたところで、桜の部屋の扉が開いた。

 こんなところで何を→まさか盗み聞き?!とバレるのではと恐怖したが、桜は一瞬驚いただけで、こう聞いてきた。

「ね、私のバイトって、休みいつなの?」

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