第八話

 桜のバイト二日目。

 桜の作業内容は限定されていてほぼ単純作業なので、注意を怠らなければミスすることも怪我をすることもないので、今日はもう一人で作業を進めていた。


 一人で作業をするのは好きだ。というより、落ち着く。

 昨日の緊張はどこへやら、リラックスして作業を進めていると、背後から声を掛けられた。


「あれ?君、新入生?」

 …誰?

 と一瞬思ったが、ぶら下げたIDカードで学生だと分かった。

「あ!私、昨日から図書館でバイトしてます、進藤です!よろしくお願いします!」

 昨日と同じ二つ折りのお辞儀をしたところ、他の学生から助け舟が出た。

「河野くん、その子新入生じゃなくて高校生バイトだよー。」

「高校生?!JKってやつか!うわー、新鮮だなぁ」

 ははは、と愛想笑いを返しながら、桜は内心(軽い人…)と、壁を作り始めた。

 そこへちょうど松野さんが通りかかった。

「河野君、遅い!ていうかその子桜ちゃん。進藤先生の妹さんだから、大事にしてねー。」

「進藤先生の妹?!」

「っ、あ、はい。兄がいつもお世話になってます。」

 またも深々と頭を下げた。世話になっているのかしてるのかは知らないが。

 顔を上げると、河野と呼ばれた学生は、興味深そうにしげしげと桜を眺めていた。

「へぇーー、進藤先生の妹さん、かぁ…。」

 なにやら含みのありそうな言葉と視線に首をかしげながら、「進藤さーん!」と遠くから呼ばれた声に答え、桜はそちらへ駆けていった。


 その場に残った河野は、桜の後姿を見つめて、ニヤリとした。

「さすが東城大一のイケメン講師の妹。可愛いなぁ。」


◇◆◇


 二日目のバイト、無事終了。桜は心地よい疲労感を味わいながら、駐車場へ向かった。車の前で待っていろと、兄からメッセージが来たからだ。


「お兄ちゃん、いないじゃん…。」

 待ってろと言った光司の姿は見えない。キーももらってないから中で待ってるわけにも行かない。

 立ちっぱなしも疲れるので、『カフェにいるー』とメッセージを返し、その場を離れた。


 大学って、広い。高校の比じゃない。色んな建物があるし、施設も豊富、大学の中にスタバがあるなんて思わなかった。

 そろそろ咲き始めた桜の樹が眺められるベンチに座って、一息ついたところへ、声が掛けられた。

「桜ちゃんって、桜の樹みたいだね。」

 河野だった。

 朝挨拶をしただけだったので、いきなりそんなことを言われて驚いた。

 不意打ちに驚いている桜の隣に座って、河野は上着を脱いだ。

「まだ肌寒いよ。特に夕方はね。」

 やわらかい素材のカーディガンを掛けられて、また驚いた。

「す、すみません…。」

 河野はそのまま、桜の肩に、手を置いた。

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