第五話
夕食より少し早いくらいの時間に、二人で桜の家の前に着いた。
「じゃあ、送ってくれてありがとね。」
「…ああ。じゃな。」
さらっと帰ろうとする仁に、思い出したように桜が声を掛けた。
「あ、ねえ!今日どうして出かけようって言ってくれたの?」
学校帰りにもいけるような場所、バイトがある日でも一緒に食べられたようなランチ。
とっても楽しかったけど、でも(仁にとっては)大事なバイトを休んでまで時間を取ってくれた意味が、良くわからない。
普段と比べて、特別なことなんて何も無かったしなぁ…。
疑問符が浮かんだような顔をした桜に、仁は何か言いかけた。
「ん?何?」
しかし、桜が聞きだそうとしたら、
「…いや、なんでもない。たまには、いいだろ。」
…それだけ?
確かに、それだけなのが、仁らしいのかもしれない。
桜はうなずいて、仁に手を振った。仁も振り返し、そのまま帰途に着いた。
◇◆◇
家に入り自室に戻った桜は、着替えて一息ついた。夕食まではまだちょっとある。
荷物を片付けようとバッグを開いたら、底のほうに覚えの無い小さな箱が入っていた。
…何?
取り出してみたら、赤い包装紙に金色のリボン。明らかにプレゼントだ。
…え…、これ、もしかして…。
仁?仁なの?
カレンダーを見た。そうだ、今日は3月14日だった!
えーー!!??仁が、ホワイトデーとか知ってたんだ?!
って、何で何も言わないの?直接渡してくれればいいのに、私が見てない気付いてないタイミングでかばんに入れるとかないし!
カードも付いてないから、大体、仁から桜へのプレゼントだという自信も無くなってきた。
どうしよう…。開けていいのかな。
でも万が一、私宛のものじゃなかったら?
いや、流石にそれはないだろうけど、でも開けていいの?これって…。
5センチ程度の立方体を前に腕を組んで、桜は「う~~~~~ん」と唸ってしまった。
これは、仁に聞いたほうが早いか。というか、それしか方法ないよね?
『ホワイトデーのプレゼントありがとう』って?でもそれ、日付でそう思っただけだし。
仁に確認するなら、中身見てからのほうがいいのかな。
でも仁に確認しないと、自分が開けていいものかどうか分からないし…。
ニワトリとタマゴのような堂々巡りを繰り返していたら、階下から母が呼ぶ声が聞こえた。ご飯だ。
こんな気分でご飯なんか食べられない。
えい!思い切って開けちゃえ!
桜はリボンに手を掛けた。
開けた小箱の中には、小さなハート型のヘッドが付いた、可愛らしいペンダントが入っていた。
「え~~~~!!うそ~~!!!」
桜の絶叫に、『静かにしなさい!』という、桜より大きな母の怒声が重なった。
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