第二話

『ところで明日どこ行くの?』

 桜からのメッセージを見て、仁は正直、返事に悩んだ。

 普段から相手に言葉を返すときに、その影響まで考えて言葉を選ぶことは無い。

 考えたところできっとこちらが想定したような捉え方はしてもらえない。


 当たり前なのだが、昔から自分の言葉を理解されない、誤解されない経験ばかりつんできた仁は、今更そこへ労力を払うのを諦めてしまった。

 人との感情のやり取りは、自分には合ってない。

 だから、家族とも最小限の会話しかしないし、友人も特に仲のいい奴だけで事足りている。


 ただし、桜だけは違った。

 あの日のことは、きっと忘れないと思う。

 桜は覚えていないだろうけどー。


 仁はスマホを操作して返信した。

『決めてない』

 

 どこだっていいだろう。

 仁は、もうひとつ言いたい言葉を、自覚する前に飲み込んだ。


◇◆◇


 土曜日、10:00。

 待ち合わせ場所に、仁が現れた。


「おはよー」

 桜の声に、仁は黙って片手を挙げて答える。

「行くか。」

 って。どこへ?と思いつつ、桜は頷く。

 

 仁は、本当に言葉が少ない。

 桜もクラスメイトの女子と比べると半分以下しか喋らないが、その桜の10分の1くらいだ。

 でも、何故だろう。

 仁が喋らなくても、少しも不安じゃないし、不快でもない。


 半歩先を歩く仁の肩辺りを見つめながら、久し振りの仁の私服姿を後ろから眺める。

 なんてことは無い、パーカーとジーンズ。いつも手ぶらで、財布も携帯もポケットに突っ込んでる。携帯なんか、しょっちゅう忘れる。

 他の人から見たら、さして特徴もない普通の高校生だろう。

 でも、桜にとっては、特別な存在であることを、肩を見つめながら再確認した。


 桜はちょっとだけ歩く速度を速めて、隣に並んだ。


 仁は、目だけ動かして桜を見る。

 香水なのかシャンプーなのか、桜に一定距離まで近づくと香る匂いがした。

 隣に桜がいるという実感が沸いて、こころもち気が楽になる。


 しかし、さて。

 この後どこへ行こうか。


 正真正銘、仁はノープランだった。

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