言葉足らずな似たもの同士

兎舞

第一章

第一話

 昼休み。

 お弁当も食べ終わって、ああ午後の授業だるいなー、なんて思ってぼーっとしてたら、鼻先を突かれた。

 驚いた桜の前に、仁が立っていた。

「…びっくりしたー。何?」

「お前、明日ヒマか?」

「土曜日でしょ。何も無いけど…。」

「あそ。」

 それだけ言うと、仁は自分の教室へ戻って行った。


 ……なんなの、あれ?

 意味不明な仁の言動に首をかしげていると、桜の携帯が鳴った。

『明日10:00、駅前な』

 いつもどおりの超短いメッセージ。

 …って、あれ?

 待ち合わせ?

 ってことは、もしかしたら、デート???


 桜のテンションは急に上がった。


◇◆◇


 仁は、桜の彼氏。

 付き合い始めて、多分かれこれ半年。

 でも、二人きりで出かけたのは、今まで2回だけ。明日も入れたら、やっと3回。


 仁には、目標がある。

 ご両親の大学進学の意向を蹴って、「航空整備士になる」という。

 その為の学費を自分でアルバイトして貯めるのだ、と言って、1年の頃からバイト三昧。

 それもガソリンスタンドや車の整備工場などで、土日は大忙し。高校生の仁もがっつりシフトに組み込まれているらしく、途中登場の「彼女」のために時間を作る余裕はほとんど無いらしい。


 桜が会いたい、って言えば、仁は無理やり時間を作るのかもしれない。

 でもそれを言えない、言うだけの強い理由を自分の中に見つけられないまま、半年が経った。


 その仁が、なんでまた明日?

 土曜日なんて、朝から晩までバイトで、LINEすら既読にならないのに。


 考えるほど、桜は明日の外出の理由が分からなくなってきた。

 

 いや、休日に会うからと言って、デートとは限らない。

 何かの理由で出かけなきゃいけなくて、私を道連れにするだけかもしれない。

 ていうか、どこに行くか教えてくれなきゃ、何を着ていくかも決められない。

 前にヒールが高めのサンダルを履いていったら、行き先はなんとか航空祭で、歩き回るわ立ちっぱなしだわで、靴擦れがいくつも出来てしまった。そんなところ行くって知ってたらスニーカーで行ったのに。


 この時間だと返事が来るか怪しいが、桜は仁に明日の行き先を聞いてみることにした。


『ところで明日どこ行くの?』

 珍しくすぐ返事が来た。

『決めてない』


 脱力する桜。

 今は仁より、明日の服装(どこへ連れて行かれようが問題ないけどそこそこ可愛い格好)を考えるほうに、脳内を切り替えた。

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