第41話 ジョシュー領からの救助要請
イアラ王女はベッドに横になりながら女傑騎士達と雑談していると、叔父上ヘレニズ公爵が現れた。
「俺は、国王陛下に謁見して、領地を失った原因と結果を報告する。
その際俺は復讐と名誉回復を命じられるだろうが、その気はないと断るが、その結果、どんな懲罰でも受ける気でいる。
そして、サンビチョ国は決して亜人協力国と争ってはならない理由を説明するつもりだ。
今後は亜人協力国と国交を結び、商取引を行う事を国王陛下に提案する。
お前はここに残り、この国の目指している目的と、我らと余りにも違いすぎる文化を調べて欲しい。
だが、これからの付き合い方を決めるのは姫だ。」
と、強制ではなくて相談事だと持ち掛けた。
「パンパ街の修道院長の言葉は、賢い国は友好を求めてきます。愚かな国は奪いに来ます。と言っていました。そして、国同士の争いを無くす為に、食糧の増産もすると言っていました。」
「いずれ、この国と同盟を結ばねば成らないだろうと俺は思うが、文化の違いが大きいと、上手く行かないだろうから、どこまで歩み寄れるかここに残り調査して欲しい。」
「分かりました。傷の浅い三名を除き、女傑騎士団を叔父上様にお預けします。付きましては、報告書を作成しますので、国王陛下にお届けください。」
イアラ王女は看護婦と呼ばれる猫亜人を呼び、金貨一枚を用意した。
「すまんが、手紙を書くので、皮革(ひかく)とペンを用意してくれないか。」
「皮革はございませんが、紙とペンは用意できます。」
と言って、金貨を受け取らなかった。
看護婦と呼ばれる猫亜人の用意した入れ物は四角い折箱で、内にペンと封蠟が用意されているが、皮革(ひかく)がないことを指摘すると、底の方にある白くて薄いものを取り出してペンで落書きを始めた。
看護婦は白くて薄い物を束で取り出し、アラ王女に差し出した。
「紙で出来た便箋と言います。書きやすくて丈夫です。」
紙と便箋、イアラ王女には聞きなれない言葉である。
便箋に見慣れないペンで書き始めると、滑らかな感じでスムーズに書き込めたので、
イアラ王女は夢中になって、これまでに調べた事、聞いた事を書き込みながら、女傑騎士団の治療に使われたかなりの万能回復薬を譲られた代金、及び再調査費用の追加もしたためた。
イアラ王女と傷の浅い三名の女傑騎士団は残ったが、ヘレニズとトマトマ及び骨折者女傑騎士団等を送り出したあとは、鹿島は毎日が軍事訓練である。
ミクタを公爵領及び伯爵領跡地の統制と管理に送り出し、ムースンを市場改革責任者として随行させた。
シリーとジャネック等白騎士団はミクタと同行するだろうと思っていたが、ミクタは樹海跡地に残して、剣術を継続指導していただきたいと懇願してきた。
そのことを重く受け止めた運営委員会は、新しく討伐した魔物から加工した、剣と鱗甲冑を白騎士団全員に渡すことに決定した。
特にジャネック至っては、トーマスの剣筋を気に入ったようで、トーマスの傍に入りびたりである。
トーマスも鼻の下を伸ばしたのか、にこやかに、時には厳しく指導している。
王女イアラと三人の女傑騎士は宿に移動して、亜人協力国の情報収集活動を始めだした。
特に傷が回復したのちは、亜人協力国内を活発に動き回り、自分たちを攻撃したエルフ騎馬隊の軍事訓練の折には、必ず見学に訪れている。
以前は聖騎士団の席であった教会横の城壁上がお気に入りのようで、テテサの説法を聞いた後での、四人の指定席のようである。
確かにそこだと全ての訓練が一望できて、魔獣や野獣の討伐をも見て取れる。
テテサの報告だと、聖騎士団長は本来の任務に帰り、二十名の聖騎士団だけが残り、
テテサの護衛と称して協会に居ついているようである。
聖騎士団半数であるが、メイディ達グループはエルフ種族との交流が盛んで、
メイディはパトラにエミューの鞍を貰い、エルフ種族のエミュー隊との合同訓練に参加して、
軍事訓練に余念がない様子である。
特にメイディはパトラになついているようで、今では無防備な愚痴をこぼすそうである。
合同剣術訓練中に、シリーとジャネック等白騎士団は魔石を装備した剣を持ち、
鱗甲冑姿で現れると、メイディ達グループと王女イアラと三人の女傑騎士は、
驚愕と羨望の声を響かせた。
剣術訓練後には、メイディとイアラからテテサへの陳情が起きた。
「聖騎士団にも、鱗甲冑を揃えてください。」
「私も買いたいのですが、いかほどでしょうか?」
「あれは売り物ではありませんので、買うことはできません。亜人協力国の戦士たちだけの防具です。」
「シリー達も、亜人協力国の戦士ですか?」
「そうです。」
シリーとジャネック等白騎士団は、同贔屓目に見ても華奢な体で、
戦士とは思えないと二人は言いたげである。
「シリーには、決着を付けなければ成らない事があります。シリーを仲間と認めた提督閣下は、亜人協力国の戦士として、負傷したり命を落したりを、させないとの決意の表れです。」
「シリーには、何か因縁があると?」
テテサはそれ以上、何も答えなかった。
テテサが黙り込んだので、メイディとイアラは、それ以上陳情できないと悟った。
翌日からの、守り人たち全員による、シリーたちへの剣術指南は早朝から始まり、
昼ごろには何人かが泣き出して、夕方には全員が泣き出してしまっている
過酷な扱いとなった。
シリーたちはテテサに泣きつくが、慰めることができない姉のように、冷たい中にも愛ある激励がなされている。
シリーたちへの実践訓練は、コヨーテ似豚鼻の群れに突進させられて、
結果ねじ伏せられているが、鱗甲冑に守られてけがを負うことなく、
涙顔で生還の繰り返しを何度も重ねた。
メイディとイアラは、その異様な光景を、羨望と嫉妬交じりで見詰めていた。
鹿島は今日も軍事訓練の後、個別にパトラに剣術指南に突き合わされている。
二人共過剰な運動のような気がするが、パトラの身体能力は驚異な男性的で、
鹿島は男を相手しているのではと、驚かされる時がままある。
特に動作確認視力と反射運動神経は、際立って優れている。
聖人テテサから、緊急事態が発生したとの連絡が入った。
四十人の円卓会議のメンバー、運営委員会、軍人幹部、生産管理者全員が集まり、テテサから報告を受けた。
報告内容は、ガイア教会の教皇様が危篤状態になり、
その遺言は、次の教皇に聖人テテサを推薦しているとのことで、
その遺言に反発しているグループは、数か国を巻き込み、亜人協力国に攻め込む計画があるとの知らせである。
ミクタからは、同時通話無線を通じて、襲来に備えて傭兵の募集を許可要請された。
ミクタの要請は、他の国の動きを監査しつつ今はまだ保留とした。
鹿島はトーマスを中心とした、三湖街とパンパ街の防衛を強化する様に指示し、
工業化部へ大砲の生産量を急ぐように要請した。
テテサの神憑りをどの様に演出するか、運営委員会とコーA.Iに以前議案された事を、
鹿島は再度のシミュレーションを命じた。
会議中に門管理衛兵から連絡が入り、亜人協力国湖領の隣国領主ヒット皇国子爵ジョシュー.カナリアが、亜人協力国の指導者に面会したいと、現れたとのことである。
ミクタの説明では、子爵領地の運営は穏やかで、領民の信頼は良いと思われているが、
しかしながら、子爵の王子二人共、シリーの兄である皇太子の護衛親衛隊であったので、高原の戦いで戦死したとの事であり、後継ぎがない状態であるらしい。
「シリーを立ち会わせた方がいいですか?」
「今はまだ必要ないと思います。」
ミクタの気持ちとしては、シリーの事はギリギリまで伏せて置きたい様である。
鹿島は四十人の円卓会議場の中央に、ジョシュー子爵達を案内する様に衛兵に指示した。
鹿島の前方の扉が開き、テーブルと五つの椅子に案内する衛兵に伴われて、
老齢であろう品のある男と、手に大きな革袋を持った甲冑姿の四人は、
鹿島に目を合わせることなく俯きながら進んできた。
五人は革袋をテーブルに並べ終わると、テーブルの後ろで片膝をついた。
「会議中であった為に、多くの者達が居るが、畏まる必要はない。椅子に掛けてくれ。」
鹿島が声掛けしたにも関わらず、五人はまだそのままの体制なので、
鹿島は衛兵に命じて、来訪者全員を椅子に腰掛けさせた。
来訪者全員は何とか椅子に座ってはいるが、誰もが鹿島に目を合わせることなく俯いたままである
「俺の方へ顔を向けて、来訪して来た要件を話してくれ。」
「もったいないお言葉、ありがとうございます。
我らが領土に二頭の魔物が現れて、病気が街中に蔓延しております。
二頭の魔物退治と、エルフの回復万能薬をお分けください。」
「それは難儀だ。しかしこちらも今は取込み中で、それの対策会議している最中なのです。」
「噂は聞いています。しかしながら、我が領地では緊急のことです。
金貨に加算すると、二百五十与分の金貨幣を持参しました。
魔物討伐の暁には、ジョシュー.カナリア領地は亜人協力国に従います。」
「従うとは?」
「元ヘレニズ.公爵領や元トマトマ伯爵領と、同じ扱いにして欲しいと思います。」
テテサがそれを聞いて、
「亜人種族と人種族が共に働く国を興し、子供の教育と、皆が個人の尊厳を持つことを義務付け、地主を解体し、奴隷制の廃止と農奴の開放。それを実行すると。」
「聖者テテサ様の方針は世に広く伝わり、切望する者や共感する者等そして、
良く理解している者も多くございます。
聖者テテサ様の方針、それが私のガイア様への、最後の奉仕だと思っています。」
「そのことで、反感を持つ者がかなり居る様ですが、あなたの領土も危険になるでしょう。」
「ガイア様に守られた亜人協力国ならば、我が領地も守られると信じています。
今、魔物に対してなにもできなければ、カナリア領地の民は全て滅ぶだけです。
今起きている病気の蔓延と此れから起きる事も、
亜人協力国の守り人たちに縋るしかありません。」
子爵ジョシュー.カナリアの態度は、凛としているようなので、
「誰かほかに、聴きたい事がある者は居るか?」
と鹿島は皆を見回すが、一同無言である。
「今日決まった作戦を延期して、ジョシュー.カナリア子爵の救助要請を、
受けても良いと思うものは、起立してくれ。」
一同全員は起立して、カナリア領からの救助要請を受ける事に賛同した。
子爵ジョシュー.カナリアと共の者達は、起立した周りを見渡すと皆平伏し嗚咽を上げた。
鹿島は子爵ジョシュー.カナリア領地の併合を宣言し、
「金は受け取れぬが、領地は併合する。条件として聖者テテサ様の方針に沿い従うならば、ジョシュー知事にすべて任せる。必ずや領地も領民も亜人協力国で守る。」
「ありがとうございます。厚かましい願いですが、出来れば食糧と回復万能薬を買いたいと思います。」
「どの位必要でしょうか?」
「如何程でも、出来れば二百五十与分の金貨幣分だけでも、お願いしたいです。」
「ムースン、食糧五十トンを直ぐに用意してやってくれ。
パトラ、直ぐに領民全員分の回復万能薬の手配を頼む。
ビリーとヤン、討伐の火器類及び車輌の用意!トーマス、討伐隊の編成を頼む。」
ジョシューは、鹿島の指図に困惑顔で、
「持参した貨幣ではとても支払いきれない、過分な食糧を用意していただき、さらに回復万能薬まで頂けるのですか?」
「食糧は持参した貨幣分で、亜人協力国においては、医療費及び病人の薬代は無料です。」
又もやジョシュー等が平伏し、
「この恩は、一生忘れません。いつか恩は返します。」
鹿島は、ジョシュー知事の態度はかなり大袈裟のような気がすると思ったが、
困惑しながらも、誠意は受け止めたとわかるような素振りを返した。
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