第36話 尾刃剣と鱗甲冑

 鹿島は工業製造部の呼び出しで職工場に赴くと、勇者の剣の複製が出来たとの事である。


出来た剣の形状は鹿島の愛用の日本刀式で、魔物の背に生えた剣皮を試し切りしようと思ったが発動しない。

待つだけでは発動しないが、切ると念じて身構えると剣は赤く輝き発動した。


チェーンソー剣では、一撃に切る事が出来なかったが、背に生えた剣皮が一撃で真二つに裂けた。

次は鱗で試すと、これも一撃で割った。


 虹色に輝く四十センチ程の卵をアマヤモは持ってきて、切れるか試して欲しいと、差し出したので、切り込んでみたが、しかしながら一センチ程の食い込みだけである。


 そこにパトラとトーマスも現れて、其々が剣を受け取っている。

トーマスの剣は同じ大刃で、パトラの剣は鹿島と同じ日本刀式である。


アマヤモは次に、柄にはめ込んだ赤い石を、少し大きめに取り替えてみたが、今度も卵の半分程しか切る事が出来ない。


再びアマヤモは、最初の二つ分位の赤い石をはめ込んだ。


 パトラは心配そうな顔で、

「閣下、手か身体に異常を感じたら、発動を止めて下さい。」

聖騎士メイディの事が鹿島の頭をよぎり、軽く了解したと頷いて答えた。


 鹿島は身構えて発動体制になると、掌に熱を少しずつ感じ出してきから、全ての血が腕に流れ込む感じがしだしたようで、

「パトラ、身体中の血が腕に流れてくるようだ。」

「閣下、止めて!発動させないで!」


鹿島は卵を切るのをやめようと思い、切る気を止めると血流の感じも消えた。

「この石は、大きすぎます。もう少し小さめにしてください。」


パトらの忠告を聞き入れ、アマヤモは卵の半分しか切る事が出来なかった石に戻した。


 卵と思ったのは、魔物の鱗を熱加工したものらしい。


 トーマスとパトラの石も決まったようだが、鹿島はなぜ彼等も発動が起きるのか不思議に思い尋ねると、

「赤い微粒の持つ静電気の波長を調べると、微弱な波動にリズムがある事を、コーA.Iが突き止めました。その尾刃剣を発動する波動リズムは、赤い微粒が発する波長なので、波長発生スイッチを付けて刃に流しています。若干、閣下の尾刃剣よりも劣るが、チェーンソー剣よりもかなり優秀です。トーマス元帥であれば、チェーンソー剣をも折れるかも、、、しれません。」


 この惑星では、全てのプログラムは、赤い微粒に由来しているようである。


 次に出たのが、クジャクの羽色のような煌びやかな防御アーマーで、魔物の鱗を加工した物らしい。


上着を重ねたほど位に軽いうえに、軽快な動きの出来る仕上がりである。

トーマスもパトラも感嘆の極みと喜びだした。


 魔物の尾刃から造られた剣は、百三十振りと薙刀刃先のみらしい、鱗防御アーマーは、

三百二十二具になるらしいが、まだまだ欲しい物である。


尾刃から造られた剣は陸戦隊全員に配られて、残りは戦略室に保管することにした。


 鱗防御アーマーは銀河連合に所属する全員二十名とパトラや従兄弟達に配り、やはり、残りの分配はパトラと従兄弟達に任せた。


鱗防御アーマーを全員に配ることができないので、魔物の表皮で作られた甲冑をも採用された。


 魔物の表皮で作られた甲冑は鱗防御アーマーよりも重たく、それでも鉄甲冑よりかなり軽くはあるが、皮鎧よりも、幾分か重量はあるとの事である。


魔物の表皮甲冑は、剣や槍に矢ぐらいであれば防ぐことができて、千二百帖も取れるらしいのだが、それでも全員分は不足であるので、騎馬とエミューの防護甲冑は次回として、盾は今のところ必要ないので、試作品の盾は倉庫の中にしまわれた。


 魔物から作られた装備を身に付けて、訓練を再開した。


 鱗防御アーマーの分配は、前衛と騎馬隊に配られたようであるが、全員に配るためには、あと一頭の魔物を倒さねば成らないようである。


 テテサの例の通信からの情報によれば、トマトマ.ドンク伯爵軍とヘレニズ.サンビチョ公爵軍は兵の集まりが悪く、進撃する予定は頓挫している様である。


 トマトマ.ドンク伯爵軍に至っては、三百人も集まらず、ヘレニズ.サンビチョ公爵軍は、八百人ぐらいらしい。

敵の数は四千人と思っていたが、二人の人気なさの結果のようである。 


 敵陣営傭兵の集まりの悪さに一番驚いたのがミクタであった。


 ミクタの言い分では、サンビチョ王国が傭兵募集しているとの噂が広まるだけで、兵の集まり方は近隣の称賛を浴びるほどらしい。


 サンビチョ王国へ傭兵が集まる理由は、給金と手柄報酬は他の国よりもかなり多いうえに、待遇条件も良いとの事である。


 ミクタは、過去に集まった傭兵の数を参考にして、両方の領地から推測すると、四千人を集める事が出来るだろうと推測したが、今回の傭兵の集まりと領民兵の集まりの悪さは、魔物を倒した亜人協力国に対しての戦闘は、不利だと思う傭兵や領民兵の気持ちだろうと、推測せざるを得ないとの事である。


 ミクタの聞いた亜人協力国の噂は、魔物を倒したのは二十名の魔法使いで、爆裂魔法に不死身の肉体を持ち、一人で瞬時に百名の兵を消し去るとの事らしい。


 テテサの無線通信を解読したコーA.Iの報告では、各地の教会に流した亜人協力国の噂の元はテテサらしい。


 ひと月が過ぎたが、サンビチョ王国領連合の動きが全く無いようである。


偵察衛星からの報告によると、毎日五十名位の傭兵らしき人が城門に入るが、

夜になると傭兵や領民兵等が、城門に入るのと同じぐらい数の者たちが城壁を下りて、逃亡しているとの事らしい。


 鹿島達が期待していた、サンビチョ王国領連合の動きが全く無いようである。


そんな折、ヘレニズ.サンビチョ公爵の城郭都市三湖街三キロ先に、魔物が現れたとの事である。


 鹿島はサンビチョ王国領連合を引きずり出すチャンス到来と思い、エルフ戦士軍団の幹部を集めた。


「三湖街三キロ先に魔物が現れた。これを狩りに行きたいと思う。」

「この時期に魔物狩りとは、別の目的を含んでいますか?」

と、トーマスが尋ねた。


「そうです。サンビチョ王国領連合との、戦闘を目論んでいる。」

「どの様に引きずり出しますか?」

「三湖街とパンパ街へ、互に救援依頼を出す。」

「ヘレニズとトマトマの名前で、援依頼を出すのですか?」

「そうです。」

「こちら側が三千人だと、出て来ないと思いますが?」

「表に出るのは陸戦隊十二名と、盾を装備した火炎放射器隊五十名、爆裂砲と煙幕弾を搭載した軽機動車輌十五台、液体窒素搭載車輌二台にて展開する。」

「爆裂砲を表に出すと、出てきにくいのではないでしょうか?」

「狩場に近いヘレニズが出てくるのは、狩りが終わってからだろう。」


「では、作戦会議だ!」

と、パトラが叫ぶと、

「合点承知」とエルフ種族戦士の合唱が響いた。


 スクリーンいっぱいに、三湖街周辺の地図画像が映し出されている。

魔物が現れる周辺を、赤い円で描き、ヘレニズ軍の予想進路を黄色線で表して、トマトマ軍の予想進路を青線で表した。


 城壁側の魔物が現れる赤い円外側に、

ヘレニズ軍の予想進路を黄色い線を囲むように三角柵に草木を利用して隠匿し、

そこに千名の銃撃隊を伏せる作戦で臨んだ。


三湖街とパンパ街の偵察隊は各三騎馬を配備して、

三湖街城壁から隠れる位置に、三十騎の騎馬隊を忍ばせて、

ヘレニズ公爵の出陣を偵察隊と偵察衛星に確認させる。


ヘレニズ公爵軍が城門に引き返せない位置まで出たところを、

爆裂弾丸で門を破壊して退路を断ち、


ヘレニズ公爵を背後から騎馬隊が襲い、捕獲することを指示した。


 トマトマ軍に対しては青線の向かいに三角柵に草木を利用した隠匿にて、

千名の銃撃隊を伏せる作戦で臨んで、進行してくる前方に、

進撃を止めるために爆裂弾丸を打ち込む。


 トマトマ軍前方に爆裂弾丸を打ち込むと、

兵たちは逃げ出すと思うが、逃げる兵にかまわずに、

騎馬隊三十騎は、トマトマ軍の後方からトマトマを捕獲するよう指示した。


残りのエミュー隊千人は控えに回り、猫亜人救護班百人の警護兼ねて伴い、

ヘレニズ軍とトマトマ軍の間に配置して遊撃部隊とした。


 準備万端の亜人協力国軍の両面作戦は、整ったようである。


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