第37話 マーガレットとパトラ 対 魔物
運営委員会は、ヘレニズ.サンビチョ公爵の城郭都市三湖街三キロ先に、魔物が現れたとの事なので、トーマス元帥に出動を要請した。
鹿島提督に魔物とサンビチョ連合軍の討伐を指令された亜人協力国軍は、朝日が昇る一時間前、パンパ門から進撃した。
エアークラフトを皮切に、重機動車に荷台を付けて、エミュー部隊、軽機動車、騎馬隊、クレーン車、オートバイ、放水車、ありったけの車と、動くもの全てを動員しての、三千人の出陣である。
聖騎士団からも同行を求められたが、移動するのに搭載過剰過ぎると断った。
パトラの運転で、シリーやジャネック等白色甲冑組六人とミクタを乗せて、
魔物が出現するであろうと思われる、地図上の赤い円に向かった。
「閣下たちが魔物を倒したら、私はエミューに乗り、パンパの街の門番衛兵に、手紙を届けるだけでよろしいのですか?」
と、親衛隊に似せた甲冑を身に着けたミクタは聞いてきた。
「パンパ街の門番衛兵とは、打ち合わせ済みなので、大丈夫です。」
ヘレニズからの手紙を、トマトマ宛に送る文章は、
『こちらは、三千人の兵が揃った矢先に、亜人協力国の指導者が、二十人程で魔物を倒しに、三湖街近くの三湖森へ出向いたようですので、挟み撃ちにして打ち取りましょう。』
との内容をヘレニズの封蠟付きで、届けることにした。
逆にトマトマからのヘレニズ宛には、
『ようやく兵が、千五百人集まりました。亜人協力国を偵察に向かわせた兵によると、
指導者を含めて二十人だけで、魔物を倒しに三湖街近くの三湖森へ向かったようです。
挟み撃ちにして打ち取りましょう。』
との内容をトマトマの封蠟付きで、届けることにした。
トマトマの手紙は、女親衛隊姿のシリー、とジャネックに託した。
ヘレニズとトマトマの封蠟印型は、テテサから借用した手紙に付いていた、
封蠟印の複製である。
赤丸で囲んだ森沿いに着いた頃、東の空は白い霞が広がり、独りぼっちの下方の雲は、赤く染まりだしてきた。
銃撃隊は三角防御柵にせわしく草木をむすび藪に装いだした。
鹿島はタブレットパソコンを開くと、皆作戦通り全軍配置に付いているようである。
鹿島は、コーA.Iに魔物の位置を探すように指示したが、魔物の位置を特定できないとの連絡がなされた。
鹿島は周りを見渡すと、陸戦隊が手持ち無沙汰げに徘徊している。
何故か総司令官改め首席行政長官のとなった、薙刀片手にマーガレット首席行政長官と、パトラ副首席行政長官が魔物の鱗甲冑を着して、鹿島の後ろに付き従っている。
「まさか、二人共魔物退治に加わるつもりですか?」
二人は目を爛々と輝かせて、興奮しているかのように頷いている。
「パトラの経験した、快感を味わいたい。」
「私も、もう一度、快感したい。」
「命にかかわる危険なことなのに、快感したいと。」
「閣下に守ってもらえると、信じています。」
パトラもマーガレットに同意するように、満願笑顔で頷いている。
トーマスに助けを求める為に周りを見回すが、トーマスは鹿島と目を合わせるのを避けるように背を向けた。
他の陸戦隊全員が、鹿島に背を向けながら偵察を装い徘徊している。
皆、邪険な推測をして、関わりたく無いのだろうと鹿島は思うことにした。
鹿島はトーマスを呼び、
「魔物を待って、待機していても埒が明かない。探しに行こう。」
「それは、是非とも。」
やはりトーマスも、魔物は現れないかもと不安があったようである。
先導にトーマスとシーラー、ホルヘの三人を命じて、鹿島はタブレットパソコンにコーA.Iの示した矢印の方へ向かうと、魔物に踏み潰されたのであろうと思われる獣道が現れた。
輸送艦に取り付けてあった、対艦用レーザー砲を乗せたキャタピラー重機動車を、
先導隊の後ろにつけて、獣道を進んだ。
二キロも進んだろうか、開けた原っぱに出ると岩山に洞窟らしき穴がある。
草を踏みつけた魔物の足跡は、洞窟入り口まで続いている。
「洞窟の中に入ります。」
と、洞窟調査に向かったトーマスからの声が、無線を通じて連絡をよこした。
鹿島も軽機動車から降りると、爆裂砲とレーザー砲等を積載した軽機動車を、洞窟入口を囲むように配置につけた。
対艦用レーザー砲を乗せたキャタピラー重機動車を中央に配置して、
「魔物の体が洞窟内なら、岩山に当たると岩が崩れる恐れがある、足元だけにしてくれ。」
とマークとサブウェイに伝え、エアークラフトにも無線で待機を命じた。
鹿島は陸戦隊用のレーザー砲と、爆裂砲は頭と腕を狙うよう指示した。
前回の魔物討伐時の火力不足を補うために用意した対艦用レーザー砲を、洞窟の奥に向かって射てば討伐できるが、目的は魔物の素材の確保である。
トーマスからの無線が入り、暗視装置を使い魔物を確認したと連絡を受けた。
「これから、魔物を誘い出します。」
とトーマスの声がすると、偵察隊三人は洞窟から飛び出して軽機動車輌に飛び乗り、鹿島達の方へ帰ってきた。
魔物の頭が洞窟から頭だけがニョロっと出たとこれで、鹿島は一斉射撃を命じた。
凄い土埃で魔物を確認できない。
聞こえるのは岩の崩れる音だけである。
「射方止め!」
と、鹿島は叫んだ。
土埃が収まり、這いつくばった魔物は頭半分だけの損傷なので、
「残りの頭吹き飛ばせ!」
と叫んだ後にまた土埃が舞い上がっていく。
「射方止め!」を発すると同時に、
「チャンス。」
と、何故かコーA.Iの声が響いた時に、マーガレットとパトラが、洞窟入り口の魔物に向かって走り出した。
二人の無謀と思える行動だが、鹿島はそれを追うしかない。
土埃の中は薄らであるが、魔物の片足が岩をはねのけて、立ち上がろうとしているのが確認できた。
マーガレットとパトラがその足首に、真っ赤に発動した薙刀と剣で切りかかり、
鹿島達は傷つけるだけと思ったが見事に切断した。
しかしながら、足を切断したのだから、魔物の巨体がマーガレットとパトラの上に、崩れ落ちて来ることまでは考えてなかったようで、
何時も冷静なマーガレットはパトラにたぶらかされたのか、後先考えず無茶をしたようである。
鹿島は全力疾走で二人を其々に両脇に抱え、崩れ落ちる魔物からぎりぎりの間合いだが、全力で避けるしかなかった。
魔物の倒れる衝撃音で振り向くと、何であんな倒れ方なのか不思議だが、這い蹲るのではなく、あおむけに倒れている。
陸戦隊全員も、二人が駆け出した後を追いかけたようで、あおむけに倒れている魔物の腹によじ登り、心臓付近を切り裂いていく。
尾刃剣の切り裂く力は、魔物の表皮をものともしないで心臓付近を切り裂いていった。
洞窟の入り口は、すでに液体窒素によって氷漬けされていた。
魔物の尾は、洞窟の落盤と氷漬けされたことで、身動きが出来ないようである。
岩の向こうの尾刃を確認できないが、おそらく、魔物の尾の部分は洞窟内の落盤で動きを封じられているのであろう。
今回の魔物の討伐戦は、コーA.Iとマーガレットやパトラの勝利のようであるが、
尾刃が洞窟の落盤で身動きが出来なかったのは、予想外のついていた一言だろう。
マーガレットとパトラはお互いに抱き合い、
「快感」と言い合っている。
「俺が抱きかかえての移動も、コーA.Iの計算に入っていたのかい?」
「そう、コーA.Iの完璧な計画です。」
と、パトラは胸を押し出す様に、鹿島に抱きついて来た。
鹿島は、パトラだけでなくマーガレットまでもが、抱きついてきたので、二人の放漫な胸の感触を味合わさせてもらえるのではと、いい役得であると鼻の下を伸ばしたが、残念ながら二人共鱗甲冑を付けていた。
鹿島は、後は皆に任せていたと言って、パトラの運転でマーガレットを乗せて、ヘレニズたちの待つ森の入り口に向かった。
魔物解体に控えている猫亜人は、クレーン車を伴い洞窟に向かった。
鹿島は急ぎ、シリーとジャネックやミクタに、ヘレニズとトマトマへの偽伝令を頼み、各部隊長には魔物を倒した事を通信した。
サンドイッチと革袋のミルクティーを、笑顔いっぱいのマーガレットが鹿島に差し出したので、
「随分な無茶しやがって、コーA.Iの協力があった様子だったが、どの様な背景からだ。」
「魔物に一太刀入れたいと、コーA.Iに懇願命令しました。」
「百パーセント閣下の援護があるだろうからと、コーA.Iのシミュレーションでは、
二人で魔物に一太刀入れきれる確率は、九十八パーセントの成功率でした。」
「残りの二パーセントは?」
「マーガレットと私が、途中石でずっこける確率。」
「俺が二人の後追行動の確率は百パーセント?」
「閣下は、私たちが飛び出したら必ず後を追うのは、確実だと思っていました。」
「何を根拠に、確実だと?」
「私たち二人を、特別な人と思ってくれているでしょう。」
確かに図星であると思いながらも、鹿島は二人を前にどちらかを選べと言われたら、どちらも好きなのに気づかされたので、二人のどちらかと言われても、選べない事に改めて気が付いて、返事ができなかった。
快感のために行動したにしても、楽観的なパトラの行動は理解出来るが、
マーガレットの性格からすると、無謀と思える挑戦に驚かされた今回の魔物討伐であった。
鹿島は、今回の魔物討伐に置いて、魔物から邪悪な悪寒を感じ無かったことを不思議に思いながら、魔物の核を壊すことなく簡単に勝利して、魔石を、取り出せたことも不思議に思った。
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