第29話  人材流入

 朝から暑い、時々一日おきで十℃の温度差がある。


 今日は、鹿島はパンパ街に出かけ無ければ成らない。

陸戦隊三人を残して、九人体制で二十人のエルフと十人の猫亜人を伴って行こうと、鹿島は朝早くから意気込んでいる。


 パンパ街の住民と亜人協力国住人との、触れ合いができるように、戦略チャンスを設ける必要があるだろう。


 食糧貯蔵庫に向かうと、二十人のエルフと二十人の猫亜人が、トラック荷台に麦とイモ類の入った麻袋を積み込んでいる最中に、トーマスの怒鳴る声が聞こえる。

「お前たちは、五十キロの物が一人で運べないのか?」

「無理です。ホークとナイフ以外の重たいものは、持ったことがありません。」

と、ホルヘ一等陸士が、タゴール一等陸士の手を借りながら叫んでいる。


 エルフは何とか肩に背負い歩いているが、猫亜人は両手に一つずつ五十キロの麻袋を持ち、トラック荷台に積み込んでいる。


エルフの男たちは、背丈百八十センチ位の細い体つきだが、大人の猫亜人は背丈百六十センチの小柄で、肩幅広く、がっちりとした体格は驚異的である。

アーマートと、妹のマクリーも力持ちと思ったが、全ての猫亜人は怪力持ちであるが、他の種族と争を好まず、壁に隠れる能力をガイア様に貰ったらしいが、徹底した非暴力主義に畏敬の念を抱かされる。


 試しに、鹿島も一袋待ちあげると、五十キロの麻袋が二十キロ位に思えた。

二袋は無理だが、一袋を軽々と荷台に運んだ。 

矢張り隊員たちは、怪訝そうな顔で鹿島を注視している目は、怖がってはいないが、鹿島の得体の知れない変化を感じているようである。


 鹿島は猫亜人を十人の予定から、荷下ろしには矢張り猫亜人が必要であると思えたので、二十人体制に変更した。

エルフ二十人と隊員たち八人をトーマスに選ばせてから、パンパ街を目指した。 

 

 鹿島達がパンパ街につくと、城壁の門は閉ざされていた。

鹿島もトーマスも鼻で笑い、閉ざされている門を無視する様に荷を下ろし始めた。


荷を下ろし終えると門は少し開き、門の内側から一人の兵士が出てくると、鹿島に近寄ってきた。


「トマトマ.ドンク伯爵の代理できました、衛士兵トミエと申します。

領主様の事付けを預かりましたが、後程言います。

テテサ様とカサチー等孤児院の子供達は無事ですか?」


トマトマの伝言よりも、教会関係者のことを先に尋ねられた事に、鹿島は真意がわからないので、

「テテサ修道士殿は、、亜人協力国の運営委員会に入られ、カサチー殿は学校の運営委員に任じました。子供達も亜人の子たちと、うまく付き合っています。」

「そうですか。安心しました。カサチーの兄が門の裏で隠れています。

うまく脱出させて保護してください。

部下を蔑み、領民をぞんざいに扱う、領主様の伝言です。荷を置いて立ち去れ。との事です。」


 教会関係者のことを先に尋ねた真意を知らされて、裏の事情があるのではと、思ったのは鹿島の勘違いであったようだ。

「では、城壁を崩すか?門を吹き飛ばすか?どちらかを選んでください。」

「住民にとってはどれも困るが、出来れば門の片側だけにしてください。」

「了解した。」

衛士兵トミエは門の中へ入り、再び門は閉ざされた。


 鹿島はマイクを握り城壁内に向かって、

「パンパ街の皆さん、あなた達の慈悲深い領主様からの恵みです。

あなた達に施すとの事で、食糧十トンの注文を受けました。

門が壊れて開けられないようなので、昨日の爆裂魔法で門を吹き飛ばします。

注意してください。

門が開いたら、麦かイモ類を無料で、一人十キロ用意しました。」


門の内側から歓声が上がり、慌てたように門が目一杯に開いた。

衛士兵トミエへの伝言に、門番衛生兵が驚愕したのだろう。


門内側から群衆が一目散に、駆け出して来る。

その中に、一台の荷車が群衆に隠されるように、群衆と共に向かってくる。


群衆はエルフと猫種族の前に近付くと止まり、ゆっくりとした歩調になり静かに列に並んだ。


 パンパ街の住民は、鹿島に気づくと皆が陸戦隊の真似をして敬礼している。

荷車はトラックの影に入り、それぞれが一人また一人と十人近くの青年と娘たちが、それぞれに隠れだした。


衛士兵トミエの言っていた、見習い修道女のカサチーの兄達が来たようである。


 鹿島はトラックの裏に回り、

「あなた達は、何者ですか?私達に用事があるのですか?」

と、誰何すると、


「私は、カサーノと言います。カサチーの兄です。ここに居る皆、修道院の孤児院出身者です。カサチーの身が心配と、あなた達の国の住民にして頂きなさいと、修道院長に助言されました。

みんな職人で、材料が入荷しなくなり仕事がないのと、兵役にも行きたくないのです。」

カサーノは、一気にしゃべりだした。


 陸戦隊の皆は、荷車から職方道具であろう荷を、トラックの荷台に移し替えて、カサーノ達を直ぐに小さな窓の軽機動装甲車に載せて、待機してもらうことにした。


 穀物の分配が終わり掛けたころ、コーA.Iから無線が入り、

「三メートル位の四足動物が、東から近づいて来ます。距離一キロです。凄いスピードで七分後に遭遇します。」

陸戦隊全員が緊張して、東の方にレーザー銃を向けた。


 その緊張の中でトマトマが現れたので、鹿島は再びマイクを握り、

「慈悲深いトマトマ.ドンク伯爵様が、皆を心配して慰労に来てくれました。歓迎しましょう。」

と、叫んだが皆唖然としている。


しかしながらも、皆は鹿島の配慮に気づいたようで、一斉に歓声を上げた。


 トマトマは、何か言いたげな様だが、言葉を忘れたような顔で拳を振り上げたとき、

三十頭位の銀色狼似の四つ足動物が、「ギエ、ギエー」叫んで、近づいてきた。


トマトマは銀色狼似に気づき、住民を置いて一目散に門の内側に逃げていくと、直ぐに門を閉めてしまった。


 エルフ達も銀色狼似に気づき、一斉に弓矢を構えた。

「陸戦隊、銀色オオカミはエルフに任せて、二十メートルで援護射撃!」

と、鹿島は叫んだ。


エルフの矢は、三十頭の銀色狼似の顔面に矢を打ち込み、四十メートルから三十メートル位で全てを倒した。

やはり、エルフの弓は脅威の凄腕である。


 配給場から逃げ出していた住民も引き返してきた。

「昨日の魔法の杖も凄かったが、エルフの弓矢も凄いですね。」

と、次々に称賛した。


 猫種族のトドが近寄り、

「肉は、人間種族に分けてあげて、獣なので赤い石はないが、毛皮だけを持ち帰りましょう」

と、提案してきた。

「では、解体をお願いします。」


トドはみんなに合図して解体に向かうと、猫亜人全員が解体に参加する為に、チェーンソーナイフを取り出しながらトドの後ろからついていった。


一頭の解体が終わると、トドが住民を呼ぶように手招きして肉を配り始めた。

トドは、食料を受けた人に断りの姿勢で、配給を受けてない人だけに配っている。


 初老の住民が、猫亜人のナイフを見て、

「よく切れるナイフのようだが、何処で手に入れたのですか?」

「俺たちの国の守り人から頂いた、魔道具のナイフです。」

と、答えている。


「貴重な肉をわれらにあげて、あなた達の分無くなりますよ。」

「私達は、いつも食べきれないほど、毎日、肉は頂いています。魔物の肉を頂いた後のひと月は、肉を見たくないほどでしたが、それでも運んできてくださいました。」

「魔物の肉を食べたと、魔物肉を食べると精力抜群と聞きましたが、どうでしたか?」

初老は卑猥顔でにやけながら、小声で尋ねた。

「皆は、それ、なり、に、フ、フ、フ、頑張ったようです。来年は子供の夜泣き声で眠れないでしょう。腰の曲がった爺様にも春が来たようで、自慢げに背筋を伸ばして歩いています。」

と、トドも小声で鼻の下を伸ばしたかのような、卑猥顔である。


「本当に、魔物を倒したのですね。」

「魔物を倒すのを見ました。」

二人は竹馬の友の様に、意気投合している。

「このキャルドの毛皮は、どうするのですか?」

「商人へ売ります。」

「私は、毛皮の取引をしているムースンと言います。私に譲って頂けませんか?」


「我が国の指導者提督閣下が彼方にいます。相談して下さい。」

「指導者、王様でございますか?」

「そうですが、国では提督閣下と呼んでいます。閣下は我ら亜人に対しても、個人の尊厳をしてくれます。」

「個人の尊厳ですか、いい言葉ですね。閣下殿は、模範の指導者ですね。羨ましいです。」と、トマトマへの皮肉なのかムースンは肩を落とした。


 鹿島のもとへ、トドが初老の男を連れて来て、

「閣下、毛皮商人のムースンです。キャルドの毛皮を譲ってくれと、相談されました。どういたしますか?」

トドは、承諾したい顔である。


 鹿島は、近くにいたパトラの従兄弟ハービーハンを呼び、

「毛皮商人のムースンが、キャルドの毛皮を譲ってくれと、言ってきたが、毛皮を剥した猫亜人と、お前たちが仕留めた獲物だから、トドを交えて交渉してくれ。」


ムースンと二人の交渉が終わり、トドとハービーハンが来て、

「閣下、一頭分の毛皮、大銀貨伍貨で引き取ってもらいました。三十一頭分で金貨十五貨と大銀貨五貨です。正直な商人です。」

トドは興奮して報告した。


ハービーハンは少し冷静に、

「閣下、ムースンから、砦の倉庫にある毛皮を、買い取りたいと、申し込まれました。」

「毛皮を畜産物として扱い、売値の交渉は、畜産物責任者のパトラも同席させてください。」

「畏まりました。パトラ族長に任せます。」

ムースンは革袋の財布を持ちながら、鹿島の所へ来て革の財布を差し出した。

「私どもに、キャルドの傷一つない毛皮を譲って頂きました。これは代金です。」

と、鹿島に革袋を差し出した。


「これは、エルフと猫亜人のものです。彼らに渡してください。」

傍にいた、トドとハービーハンは、

「われらは、充分にいい生活させてもらっています。国にお金が必要でしょうから、国へ納めてください。」

トドの申し出に、ハービーハンも、

「そうです。豊国強兵、知識向上教育の国を目指しているのですから、国にはお金は必要です。」


そのやり取りを見ていたトーマスが、

「金の話は、閣下では無理、閣下の気持ちだと、今日の労賃と思い、みんなに配りたいと思ってのことです。貨幣に関しては、マティーレの判断を仰ぐことで、如何でしょうか?」


ムースンは、革の財布をだれに渡すべきか、オロオロしだしたが、おもむろに隣のトーマスへ押し付けてしまった。


トーマスの顔は、余計な荷物を握らせられ込んだ事に、余計なことを言ったと後悔している様子である。


 このやり取りに、ムースンは感激したようで、

「亜人協力国は、此れからもっと、いい国になるでしょう。私の一族でも住民になれますでしょうか?」

ムースンはひざを折り、腕を胸に置き尋ねた。

「勿論、大歓迎です。」

鹿島はムースンの手を取り応えた。


「閣下と亜人協力国に一族一同忠誠を誓い、荷物を整理したのち、必ず移住致しますので、よろしくお願いします。」

「待っています。人間と亜人が協力で来たなら、いい国になります。」


トドは歓迎の言葉をかけながら喜び、ハービーハンも、

「私の作っているチーズが、もうすぐ出来上がります。食べに来て下さい。」

ムースンは涙目で、トドとハービーハンの手を握り、

「人生は、長く生きるものだと、今日感じました。ありがとうございます。」

ムースンは、迎えに来た青年たちと荷車を引いて、門に入っていった。

この男ムースンは、後に亜人協力国商業担当官となり、国の商取引の発展に貢献してくれるのである。


 鹿島は、パンパ街の内部協力者を得たと感激した。

ムースンの協力を得て、内部不満者による支配者転覆をはかり、その指導者との併合を取り決め合うだけである。


 鹿島は軽機動装甲車に居る、カサーノたちの向かいに座り、

「ようこそ亜人の国へ、来ていただくことに、歓迎します。亜人と上手く付き合ってください。亜人協力国は、彼等の国でもあります。」

「我々も亜人を昨日初めて見ました。今日も大勢の亜人を見て、驚いています。

修道院長から事前に、亜人もガイア様を信じているとのことで、安心しています。」


 カサーノは鍛冶職人で、農具から武器、鎧まで幅広く対応しているとアピールした。

ほかの青年等と娘たちも、カサーノの弟子たちといろんな職人のようである。


 皆は最初、軽機動装甲車の揺れに緊張していたが、窓から見える草木の流れに驚愕しだした。


 砦に着くと、テテサとカサチーが丸太杭の門で待っていた。

「皆げんきでしたか?カサーノ兄さん、よく来てくれました。嬉しいです。」

カサチーは軽機動装甲車に飛び乗ってきて、テテサを車内に引き上げると、皆にこれからの生活においての注意を訓示始めた。


 カサチーは子供たちに教えている基本として、亜人も人種も尊敬しあう仲を強調して、

皆にもそのことを理解して、尊厳を尊ぶ生活するように注意をしている。


テテサはこれからの仕事について、

「私は、この亜人協力国の運営委員会員に指名されて、国の財政をも知っています。この国に現在貨幣は殆ど有りません。今現在の状況において、金と銀、銅鉱山が見つかっており、貨幣の造幣が出来次第に仕事の対価を支払いします。住宅と食事は毎日用意するが、給料手当の件は、保留にして欲しい」

と歎願している。


 カサーノはテテサの手を取り、

「テテサ様、私達皆お金目的で来たのでは有りません。安全な場所と未来の希望をもって、この国の住人になりに来たのです。」


毛皮商人と亜人たちの会話を聞いていたと付け加えて、テテサの申し出を気持ちよく承諾してくれた様子である。


 艦尾入り口に着くと、機関部機関長と機関技官二人が出迎えていた。

「挨拶に来ました。機関部アマヤモとサーサデです。反射炉の建設及び、魔物から取れた皮膚と鱗の加工で、鍛冶職人方たちと、共同開発及び加工運用したいのです。」

と言ってから、カサーノ達を伴い職工区の建物群に向かった。

 

 金属融解をするにあたり、鍛冶職人達はふいご式と主張したが、反射炉の建設が今の段階では現実的であるらしい。


 反射炉での加工は千三百度しかない低温であるが、これに手を加えて二千度までの反射炉を建設して、運用するとの事らしい。


 コーA.Iと工業部の調査結果で、鱗と表皮は高温であればあるほど、熱加工するとタングステン以上の強度になると説明し始めた。


 而も、陸戦隊の着衣している防護服の強度よりも強く、重さは十分の一の軽さに出来るとの事らしいので、鱗一枚で一人分優に作成出来るという。

これらのことは安全にかかわることなので、優先的に進めてほしいと鹿島は要請した。

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