第28話  剣術指南

 鹿島が作戦室に入ると、コーA.Iが大画面を説明しながら、石壁の中に此れから出来る街並みと、闇の樹海跡地の耕作地や牧畜の放牧地が映し出されているが、大河沿いの工業地帯は赤く塗りつぶされていた。


 教会と孤児院の建物は、艦左舷の艦尾入り口前五十メートル位に決めたが、学校の位置はまだ決めかねている様子である。


「猫亜人と耳長族と人間族全て混合のためには、王宮横線軸先の丸太杭沿いに建てるべきです。」

と、テテサは主張した。


各集落からはだいたい同位の距離になり、鹿島を含めて全員が賛成して、艦尾側の丸太杭沿いに決め、それが完成したら新たに艦首側丸太杭沿いにも建てて、住民の増加に備える事にした。


 耕作物の販売報告と、修道院と孤児院の計画説明懇談の夜食会を開くので、大ホールに集まるよう、コーA.Iからのメッセージが入り、物々しい名前の夜食会に何か新たな思案がマーガレットからあるのかと、鹿島は想像させられた。


 大ホールに行くと、賑やかで騒がしい夜食会では、猫種族三百人とエルフ種族三千人が集まっていた。


 猫種族の葡萄酒やエルフ種族の乳酒が各テーブルの上に並び、皆ご機嫌である。

各テーブルの間を、猫種族の娘達とエルフ種族の娘達がせわしなく動き回っている。


 鹿島は演台の前中央の席へ案内され、陸戦隊は誰もいないが礼服着用で航宙軍の皆はすでにテーブルに着いている。


航宙軍のテーブルに鹿島が近付くと、航宙軍の皆が立ち上がり直立姿勢で敬礼をした為に、大ホールは静かになり、全員に注目されている中での、鹿島に対しての突然の拍手が巻き起こった。


鹿島は理由を理解できないまま、それに応えるように両手を上げざるを得なかった


 鹿島のテーブルの周りは空席だらけで一人きりであったが、間もなく陸戦隊みんなが現れて鹿島に敬礼をした後、トーマスは鹿島の隣へ着席したが、他の陸戦隊は後ろのテーブルに分かれた。


「隊長、一戦交えて、パンパ街の領主様を脅したそうですね。」

「脅してはいない、われらが保護している住民を守るための防衛だ。あと、領主が払える金額で、穀物の取引も入っている。」

「宣戦布告をなさったのでは?」

「ケンカを売ったのはそうだが、相手がどう解釈するかによるね。頭悪そうな奴だったから、気づかないかも?」

「何か考えがあるのですか?」

「あの領地の住民は、領主を見限っている様子なので、あの領地をまっ先に併合しようと思う。」

「総司令官の考えですか?」

「いや、俺の独断だ。もう総司令官も気づいているようだ。」

「テテサたちを保護した事が、そういう事だと。」

「そういう事だ。」

「戦争ですか?」

「先ずは、諜報活動の調略戦だろうな~。味方を募らなければならないだろうが、総司令官の戦略待ちだろう。」


 料理が次々に運ばれてきた。

猫種族の料理にエルフ種族や連邦の料理と多彩である。

料理が粗方揃うと、鹿島達の席へマーガレットとマティーレにパトラも同席した。


猫顔ながらアイドル顔のマティーレと、きれいな目をした長身の色白美貌でスタイル抜群なパトラに、容姿端麗なマーガレット等を見ているだけで、鹿島は幸福感一杯である。


 マーガレットは着席すぐに、

「パンパの街の領地を、併合したいと思います。如何ですか?」

「その為の、テテサ修道女たちの保護ですね。」

「彼女たちの宗教は、亜人も人間も同じ様にガイア様に守られた人々だと、教えているようです。」


「領主のトマトマ.ドンク伯爵という男は、領民に嫌われているようだし、可能だろう。」

「では閣下、作戦を発動願います。」

「パンパの街領地の併合作戦を発動、許可します。」


戦闘が起き、たくさんの死傷者が出るかもしれないのに、二人は簡単な会話で終わった。

だけど、すでにマーガレットは併合可能性を見抜いていたのは、さすが元参謀室出身者である。


「閣下、昼間はありがとうございました。お蔭で今、生きています。」

と、パトラが高揚した顔で立ち上がり鹿島に頭を下げた。

「子供を守るためだったろうが、トマトマの馬鹿も少しおかしい奴だったが、此れから変な男には、気を付けた方がいいかもしれない。」

と、にこやかに返した。


パトラは鹿島の言葉に、変な男の意味が解らないようで、首をかしげながらもにこやかに頷いた。


 鹿島は総督として、冒頭の挨拶をする事になり、

「国の名前は、亜人協力国と宣言する。亜人協力国での収穫の売買は、各協力組合を通すこと、今回と明日の売り上げから、各所帯大銀貨一枚を予定している。これからも協力してください。教会の建設にも協力してください。」


鹿島の挨拶は超簡単に終わり、国の運営者を紹介した。


総司令官マーガレットを中心に、猫種族のマティーレ、エルフ種族のパトラ、教会のテテサら四人を運営委員と決めて、其々の補佐に猫種族のトド、エルフ種族のパトラの従兄弟達四人を指名した。


鹿島はこの事では、すでに総司令官マーガレットとの打ち合わせ済みである。


 鹿島は挨拶が終わり、演台を降り掛けた時に、マーガレットとテテサの呼び止めがあり、この惑星は美人ぞろいの惑星かと思える程の、娘たちのいる大きめのテーブルに案内された。


 鹿島が近寄ると全員立ち上がり、貴婦人式の挨拶をした。

「元王女シリー、従者のジャネックと侍女等です。この国の住民になる事は、今すぐにできない事情があるので、話を聞いてください。」

とテテサの紹介後、娘達を着席させから、鹿島とマーガレットも同席した。


 元王女シリーは、既にマーガレットから魔法の指導は不可能であり、すべての魔道具は科学の力だとの説明を受けて落胆していた。


「シリー.ヒットです。私は父と母と兄の敵を討つことを、心に決めています。ここに居る皆も両親と兄弟、一族の敵を討ちたいと思っています。私達は強くなりたいのです。剣の指導を受けられないでしょうか?」


 シリーはまだ童顔娘であるが、幼顔目の奥では何かを憎んで、無理に殺気を隠しているようである。


 マーガレットの説明では、叔父の公爵に裏切られたので、母の言葉に従い王宮を脱出してからは、敵討ちの機会を探しているらしいとの事である。


「話は理解しました。剣術は教えましょう。然し、あなた達だけで敵を討つのではなく、われらの力になり、亜人協力国のシリー司令官として攻め込むという事も、可能ではありませんか?その後は共同運営でもよろしいと思いますが?」


シリーは顔を真っ赤にして、

「共同運営というのは、わたくしと、閣下が?」

「勘違いするな?そんな意味ではない。違うのだ!」

条件のつもりでなくて、受け入れやすい言葉で、裏のない気持ちで提案したことが、誤解されたようである。


 鹿島の何気ない発言は、移動作戦中にマーガレットとの交渉において、胡散臭い男と思われていた時と同じ状況になったようで、鹿島は汗が噴き出てくるやばい状態に陥ってしまった。


 そんな鹿島をマーガレットは見下した目で、

「そんな言い方では、誰でもそう言う風に感じてしまいます。」


「済みませんでした。言い方を変えます。我々も国を興したばかりなので、人材が必要なのです!この大陸のことを詳しく知っている人が、亜人協力国の協力者に加わって下さるなら、他の国を併合しやすいと思ったのです。ダメでしたら、亜人協力国に関係ない現地協力者でも構いません。」

と言っている鹿島はもう支離滅裂である。


 更に鹿島の心に混乱を引き起こす様な、エルフのパトラが意味不明な事を、後ろから突然に耳元で囁やいて来た。


「閣下、私と耳長種族を共同運営しませんか?」


鹿島は驚いて後ろを振り返ると、パトラはすました顔で、助け船なのか?冗談なのか?理解しがたい状況を作り、パトラは自分の席へ向かっている。


 正面に向き合うシリーと、娘たちもまだ顔が真っ赤である。

鹿島は明日、穀物の運搬は午前中に終わるだろうと言い、訓練は午後からと、シリー達と約束して自分のテーブルに向かった。


 鹿島が席へ座るとパトラは、

「閣下、私にも剣術を教えてください。此れからは、自分でも自分の身を守りたいのです。」


 パトラは子供を守りたい一心で、相手を突き飛ばした正義感の強さを持つ娘だと思っていた鹿島は、パトラと親しくなりたい気持が湧いていた。


 鹿島は、パトラには自分にできる手助けなら喜んで協力したいと思っている時に、親しくなりたい願望のきっかけを、美人のパトラから言い出された事で、

「明日午後から、訓練室でシリーたちの訓練を予定しています。一緒にどうですか?」

と満面の笑顔で答えると、パトラはガッツポーズをして満願笑顔になったので、鹿島のハートは真っ赤に燃えてしまったようである。


 モテキ経験のない戦闘バカ鹿島とすれば、最高の美人パトラから満願笑顔を向けられたならば、昇天してしまうのは当たり前である。


 鹿島は新しい片思いの始まりを予感した。


 エルフ種族は弓矢を得意としているので遠くの獲物を倒すのは得意だが、接近戦は不得意らしいのに、パトラは何故か剣で戦いたいようである。

 

 野外訓練において、鹿島はエルフの弓矢には驚かされた。

矢がカーブして、大木の影に居る獲物を射止めるのである。

わけを聞くと、矢を射る前に、木の影にいる獲物の首に矢が当たれと念じるらしい。

念じれば当たるとは、理解しがたい何でも有りと思える亜人の惑星である。

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